発売日: 1966年1月
ジャンル: フォーク、カントリーフォーク、トラディショナルポップ
概要
『Lightfoot!』は、カナダ出身のシンガーソングライター、ゴードン・ライトフットが1966年に発表したデビューアルバムであり、
後のフォーク/シンガーソングライターシーンに大きな影響を与えることになる、静かで力強い第一歩である。
このアルバムでは、
すでにライトフット独特の叙情的な詞世界と、
清らかでありながらも深い陰影をたたえたメロディ感覚が確立されており、
彼のスタイルが最初から完成されていたことを証明している。
カナダの自然、愛、孤独、移ろいゆく季節――
そんな素朴で普遍的なテーマを、
無駄のないアコースティックサウンドに乗せて静かに歌い上げる。
『Lightfoot!』は、
フォークミュージックの新たな詩人の誕生を告げた記念碑的な作品なのである。
全曲レビュー
1. Rich Man’s Spiritual
オープニングにふさわしい、
社会格差と精神的豊かさをテーマにしたトラディショナルスタイルの力強いナンバー。
2. Long River
川の流れに人生を重ね合わせた、静かで美しい叙情詩。
フォークの静けさと、カナダの大自然への憧憬が溶け合う。
3. The Way I Feel
後にセルフカバーもされる、
ライトフット初期の代表曲の一つ。
内省的で複雑な感情を淡々と歌い上げる、フォークバラードの名品。
4. For Lovin’ Me
愛を捨てる側の視点から冷たく別れを歌う、
当時としては衝撃的な視点を持ったナンバー。
後にエルヴィス・プレスリーやジョニー・キャッシュにもカバーされる。
5. The First Time Ever I Saw Your Face
ロブ・マクコンネル作の名ラブソングのカバー。
静かで誠実な歌唱が、楽曲の純粋な美しさを際立たせる。
6. Changes
フィル・オクスの曲をカバー。
社会の変化と個人の孤独を重ね合わせた、しみじみとしたナンバー。
7. Early Morning Rain
ライトフットの初期代表曲。
空港を舞台に、失われた夢と孤独を、
鮮やかなイメージで描き出すフォーク史に残る名作。
8. Steel Rail Blues
放浪者の哀しみを鉄道に重ねる、カントリーフォーク色の濃い楽曲。
軽やかなリズムの中に切なさが滲む。
9. Sixteen Miles (To Seven Lakes)
旅路と孤独をテーマにした、
シンプルで深い情景描写が光る楽曲。
10. I’m Not Sayin’
恋愛の微妙なニュアンス――
愛しているとは言えないけれど、失いたくない。
そんな揺れる心情を描いた、初期ライトフットならではの小さな名曲。
11. Pride of Man
宗教と人間の傲慢さをテーマにした、
シリアスで力強いメッセージソング。
12. Ribbon of Darkness
別れの哀しみを、闇のメタファーを使って描いたカントリーテイストのバラード。
マーティ・ロビンスによるカバーでも知られる。
13. Oh, Linda
アルバムの締めくくりにふさわしい、
優しくも爽やかなラブソング。
総評
『Lightfoot!』は、
ゴードン・ライトフットがまだ20代半ばにして、
すでに詩人として、物語作家として、そしてメロディメーカーとして完成されていたことを示す驚異的なデビューアルバムである。
歌詞の緻密さ、
メロディの自然な美しさ、
演奏の控えめながら確かな品格――
それらすべてが、
華美な装飾なしに、
まるで澄んだ小川のように静かに流れていく。
この作品がなければ、
後のニール・ヤング、ジェイムズ・テイラー、ジャクソン・ブラウンといった
1970年代シンガーソングライターたちの隆盛もまた、
違ったものになっていたかもしれない。
『Lightfoot!』は、
カナダ発、世界に誇るべきフォーク詩人の静かな産声なのである。
おすすめアルバム
- Gordon Lightfoot / The Way I Feel
さらに深まった叙情性と音楽的洗練を示す、セカンドアルバム。 - Bob Dylan / The Freewheelin’ Bob Dylan
フォークの語り部としてのディラン初期の傑作。 - Leonard Cohen / Songs of Leonard Cohen
同じくカナダ出身、深い詩情と静けさを持つデビューアルバム。 - Phil Ochs / I Ain’t Marching Anymore
社会派フォークの鋭さと叙情を併せ持った名盤。 - Joni Mitchell / Song to a Seagull
繊細な言葉とメロディで静かな世界を描いた、ミッチェルのデビュー作。
歌詞の深読みと文化的背景
1966年――
アメリカでは公民権運動、ベトナム戦争、
若者たちによるカウンターカルチャー運動が高まりを見せていた。
そんな時代に『Lightfoot!』が歌ったのは、
政治的アジテーションではなく、
個人の孤独、旅、愛、自然との静かな対話だった。
「Early Morning Rain」では、
失われた自由を、
「The Way I Feel」では、
言葉にできない感情の波を、
「Steel Rail Blues」では、
根無し草の哀しみを――
ゴードン・ライトフットは、
叫ばず、押し付けず、
ただ静かに、人間存在の孤独と美しさをすくい上げた。
『Lightfoot!』は、
そんな**時代を超えて心に染み入る、永遠の”静かな叙事詩”**なのである。
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