アルバムレビュー：Legend by John Legend

発売日: 2022年9月9日
ジャンル: R&B、ポップ、ソウル、ダンス・ポップ

概要
全曲レビュー（抜粋）
- Act I
- Act II
総評
おすすめアルバム（5枚）
歌詞の深読みと文化的背景

概要

『Legend』は、John Legendが2022年にリリースした通算8作目のスタジオ・アルバムであり、彼の名を冠した初のセルフタイトル作である。
2枚組全24曲というボリュームで構成された本作は、まさに「John Legendとは何者か」を改めて提示する、集大成的かつ進化的なコンセプト・アルバムである。

この作品は「Act I」「Act II」の2部構成で展開され、それぞれに異なる音楽的・感情的トーンが割り当てられている。
Act Iは主にアップビートで華やかなラブソングやクラブ寄りのR&Bを中心に展開され、Act IIではバラードや内省的なテーマが多く、よりソウルフルでパーソナルな側面が強調されている。

また、全体を通じて、Lizzo、Jazmine Sullivan、Rick Ross、Saweetie、Ty Dolla $ign、Jhene Aikoなど豪華ゲスト陣とのコラボレーションが多数収録され、音楽的に多様で豊かな色彩感を生んでいる。
John Legendの洗練された歌声とプロダクション力、そして人生経験に裏打ちされたリリックが融合し、個人のロマンスから社会的関与までを横断する一大R&B叙事詩が完成した。

全曲レビュー（抜粋）

Act I

Rounds（feat. Rick Ross）

アルバムの冒頭を飾るラグジュアリーなミッドテンポ。
恋の駆け引きを「ラウンド（試合）」に見立てた構成で、Rick Rossの重厚なラップがLegendの優美なボーカルを引き立てる。

Waterslide

サマーソウル風の爽快なグルーヴが印象的な一曲。
滑り落ちるように恋に落ちていく感覚を、滑らかなメロディとビートで体現する。
ラジオフレンドリーで心地よい一曲。

Dope（feat. JID）

ヒップホップ色の強いアーバン・ソウル。
「君は麻薬のようだ」と歌う官能的なテーマを、JIDの鋭いラップが引き締める。
現代的なプロダクションが際立つナンバー。

All She Wanna Do（feat. Saweetie）

ポップ寄りのダンス・ナンバー。
Saweetieとの共演が軽快で、キャッチーなサビが耳に残る。
80年代ディスコのテイストも感じられる明るい一曲。

Guy Like Me

パートナーの中に自分のような男が必要だと高らかに歌い上げるセルフブースト系ソウル。
チャーミングでユーモラスな表現が、Legendの魅力を引き出す。

Act II

Nervous

アルバム屈指のラブバラードで、「君に触れるたびに、今でも緊張する」と歌う繊細なナンバー。
柔らかいストリングスとLegendのファルセットが美しい。

Wonder Woman

妻Chrissy Teigenへのラブソング。
彼女を“日常の中の奇跡”として描き、「世界を支える強さと優しさ」を称える内容となっている。

Honey（feat. Muni Long）

スウィートでセクシーなデュエット。
“ハチミツのような恋”を官能的に表現し、90年代R&Bの香りが漂う。

Stardust

宇宙をモチーフにしたバラードで、「愛は星屑のように広がっている」というロマンティックなリリックが印象的。
ミニマルなピアノとアンビエントなサウンドが融合する。

Pieces

喪失と再生を描いた深い内省的バラード。
家族や愛する人を亡くした経験とそこから立ち直る強さを、“砕けた破片”という比喩で包み込むように歌う。

Home

全編のクロージングを飾る、安らぎと帰属の象徴としての「家」についてのバラード。
人生の浮き沈みの中でたどり着く“心の場所”をテーマにした、深い静けさと慰めを湛えた終曲。

総評

『Legend』は、John Legendがアーティストとしてのあらゆる側面を詰め込んだ、豊潤な音楽の旅路である。
タイトルに自身の名前を冠したことが示す通り、この作品はキャリアの中間点に立ち、自らの音楽的、社会的、個人的アイデンティティを再定義する試みだ。

Act Iではフレッシュなビートやヒップホップ的な感性、クラブ向けの軽快さが強調され、Act IIではソウルの本質に立ち返るような深く静かな楽曲が並ぶ。
このコントラストが、“華やかさと誠実さ”“外界と内面”というLegendの二面性を際立たせている。

ヴォーカリストとしての彼の魅力は依然として圧倒的で、どの曲でも感情の細やかな起伏を的確にコントロールし、聴き手に自然な共感を呼び起こす。
また、ジェンダー、家族、ロマンス、信仰、喪失などのテーマが全体を通じて流れており、聴く者の人生にも重なる普遍的な物語となっている。

『Legend』は、その名の通り、John Legendという存在の“現在地”を記録した、キャリア最重要作のひとつである。

歌詞の深読みと文化的背景

『Legend』のリリックには、「複雑な時代における愛と自分の居場所の探求」が全体を通じて描かれている。
「Pieces」や「Home」では、喪失や不安といった“傷つくことの現実”を肯定的に捉え、「Wonder Woman」では、現代的な女性像への賛美が真正面から語られている。

また、ポリティカルな直接性は控えめながら、「愛」と「癒し」がどれだけ社会的なテーマと結びついているかが浮かび上がってくる。
多様なジャンルと声が混ざり合う本作は、音楽的にも文化的にも、“誰もが居場所を見出せるアルバム”としての包容力を持っている。

『Legend』は、単なる音楽作品ではなく、“生き方そのもの”のように聴かれるべきアルバムである。