アルバムレビュー：Keep It Like a Secret by Built to Spill

発売日: 1999年2月2日
ジャンル: インディー・ロック、オルタナティブ・ロック

『Keep It Like a Secret』は、Built to Spillの4枚目のスタジオアルバムで、バンドの代表作の一つとされる作品である。前作『Perfect from Now On』の長尺で複雑なアレンジから一転し、このアルバムではポップセンスが際立つキャッチーなメロディと、凝縮された楽曲構成が特徴となっている。ダグ・マーシュのギターワークとメロディの美しさは健在でありながら、曲の長さが短くなり、より洗練された作風へと進化している。深い感情と哲学的な歌詞を維持しながらも、軽快さと即効性を兼ね備えたこのアルバムは、インディー・ロックの金字塔として多くのリスナーに愛され続けている。

各曲ごとの解説:

1. The Plan
   　アルバムのオープニングを飾るこの曲は、力強いギターリフとメロディアスな展開が際立っている。マーシュの歌詞は、希望と不安の交錯をテーマにしており、曲全体に高揚感と焦燥感が同時に流れている。ギターソロとバンド全体のタイトな演奏が印象的な一曲。
2. Center of the Universe
   　ポップでキャッチーなメロディが特徴のトラックで、Built to Spillの中でも最も聴きやすい楽曲の一つ。リズムセクションとギターが心地よく調和し、恋愛の苦悩と喜びを表現する歌詞が際立っている。シンプルながらもバンドのサウンドの本質を捉えた名曲。
3. Carry the Zero
   　このアルバムのハイライトともいえる一曲で、感情的な歌詞と共に、ギターが美しく重なり合う構成が魅力。マーシュのリフとメロディの絡みが絶妙で、曲が進むにつれて徐々に盛り上がり、エモーショナルなクライマックスを迎える。リスナーを一瞬で引き込む力を持った名曲。
4. Sidewalk
   　アップテンポで軽快なビートが印象的な楽曲。ギターのフックが心地よく、マーシュのヴォーカルがそれに応じてリズミカルに響く。歌詞は日常的な視点から、人間関係や内面的な葛藤を描いており、軽やかな中にも深いテーマが隠されている。
5. Bad Light
   　ミディアムテンポで進行するこの曲は、シンプルなアレンジの中に哀愁が漂う。ギターのアルペジオが印象的で、マーシュの静かで穏やかな歌声が、曲全体に温かみを与えている。短いながらも印象に残る一曲。
6. Time Trap
   　ミステリアスな雰囲気を持つこの曲は、リズムの緩急が特徴的で、マーシュのギターワークが複雑な感情を表現している。時の流れや焦燥感をテーマにした歌詞が、サウンドと見事に調和しており、曲の終盤に向けての盛り上がりが感動的。
7. Else
   　アルバムの中で比較的静かな曲で、繊細なアレンジと内省的な歌詞が特徴。ギターの控えめなリフが心に残り、感情的なリリックがリスナーに深い共感を与える。シンプルな中にも強いメッセージ性を持った一曲。
8. You Were Right
   　過去のロックの名曲の歌詞を引用しつつ、独自の視点で再構築した楽曲。リフレインされるフレーズが聴き手に強く訴えかけ、マーシュの皮肉混じりの歌詞が、ロックへの愛憎を表現している。ユニークで聴きごたえのある一曲。
9. Temporarily Blind
   　ギターが主体となるこの曲は、ビルドアップが見事で、楽曲が進むにつれて次第に音が層を成していく。マーシュのボーカルは、曲の緊張感を高める役割を果たしており、インストゥルメンタルセクションが特に力強い。
10. Broken Chairs
    　アルバムを締めくくる長尺のトラックで、複雑なギターアレンジとドラマチックな展開が特徴的。曲の終盤に向けてのクレッシェンドが印象的で、壮大なフィナーレを迎える。『Keep It Like a Secret』の総括ともいえる、感動的なエンディング。

アルバム総評:

『Keep It Like a Secret』は、Built to Spillがその音楽性をさらに洗練させたアルバムで、キャッチーでありながらも深みのある楽曲が揃っている。前作の壮大さや複雑さを維持しつつ、メロディアスでコンパクトな構成に仕上げられており、バンドの進化を感じさせる作品だ。特に「Carry the Zero」や「Center of the Universe」といったトラックは、バンドの代表作として今もなお多くのリスナーに愛されている。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. The Soft Bulletin by The Flaming Lips
   ドリーミーでメロディックな楽曲が詰まったアルバム。Built to Spill同様、ポップな感覚と実験的なサウンドが融合しており、感情的な深みも共通している。
2. Crooked Rain, Crooked Rain by Pavement
   インディー・ロックのクラシックアルバムで、シンプルな楽曲構成とキャッチーなメロディが特徴。Built to Spillのファンには、その飾らない美しさとユーモアが響くだろう。
3. Yankee Hotel Foxtrot by Wilco
   シネマティックなサウンドと、緻密に作り込まれたアレンジが特徴。Built to Spillの複雑なギターワークと共通する要素が多く、リスナーを引き込む作品。
4. Bee Thousand by Guided by Voices
   ローファイな音作りと、ポップでありながら独自性の強い楽曲が並ぶアルバム。簡潔な中にも創造性が光る点で『Keep It Like a Secret』と共通する。
5. In the Aeroplane Over the Sea by Neutral Milk Hotel
   内省的な歌詞とメロディが特徴的なアルバムで、Built to Spillの叙情的な側面に共鳴する。感情的な深みと実験的な音作りが共通点。