発売日: 2009年5月18日
ジャンル: オルタナティブロック、ポストパンク、アートロック
『Journal for Plague Lovers』は、Manic Street Preachersが2009年にリリースした9枚目のスタジオアルバムで、リッチー・エドワーズの遺した歌詞を全編に使用した、非常に特別な位置づけの作品だ。エドワーズの失踪から14年後、彼のノートに残された言葉を基にバンドが作曲を行い、彼の存在感を音楽的に蘇らせた。本作は、1994年の名作『The Holy Bible』を彷彿とさせる激しいトーンと鋭利なメッセージを内包しつつ、バンドの成熟した音楽性が融合した、深遠で挑発的なアルバムである。
プロデュースは、ニルヴァーナやピクシーズを手掛けたスティーブ・アルビニが担当し、生々しいギターサウンドや緊張感のあるプロダクションがアルバム全体を貫いている。リッチーの詩的で暗示的な歌詞は、政治、個人的な苦悩、存在の哲学などをテーマにしており、挑発的で時に不気味さすら感じさせる。本作は、エモーショナルで知的な挑戦を提供する一枚だ。
トラック解説
- Peeled Apples
アルバムの幕開けを飾る攻撃的なトラック。重厚なベースラインと鋭いギターが支配し、リッチーの暗示的な歌詞が鋭く響く。オープニングから緊張感が走る。 - Jackie Collins Existential Question Time
キャッチーなギターリフと不条理なユーモアが融合した楽曲。タイトルに見られる皮肉と、哲学的な問いが交錯する歌詞が印象的。 - Me and Stephen Hawking
医療産業や倫理をテーマにした風刺的なトラック。アップテンポなビートと軽快なメロディーが、重いテーマを逆説的に引き立てる。 - This Joke Sport Severed
静謐で美しい楽曲。アコースティックな響きと悲しげなメロディーが特徴で、リッチーの内面的な痛みを感じさせる詩が心に刺さる。 - Journal for Plague Lovers
アルバムタイトル曲。ダークで重厚なサウンドが、リッチーの言葉の力強さを際立たせている。存在の不安定さを探求する一曲。 - She Bathed Herself in a Bath of Bleach
ミニマルなギターリフと奇妙な歌詞が特徴の楽曲。家庭内暴力という重いテーマが暗示的に描かれている。 - Facing Page: Top Left
アルバムの中でも特に静かな楽曲で、メロディーと歌詞の親密さが際立つ。リッチーの詩の純粋さが心に響く。 - Marlon J.D.
映画「最後のタンゴ・イン・パリ」の俳優マーロン・ブランドに触れた楽曲。激しいギターリフと複雑な歌詞が絡み合う。 - Doors Closing Slowly
不穏な空気感が漂うスローなトラック。崩壊の予兆や精神的な閉塞感が、音と歌詞を通じて強烈に伝わる。 - All Is Vanity
『The Holy Bible』を思わせる攻撃的なサウンド。虚無主義的なテーマを力強い演奏で描き出している。 - Pretension/Repulsion
メロディアスでリズミカルな楽曲。内面的な苦悩と人間の矛盾が歌詞に込められている。 - Virginia State Epileptic Colony
病院や医療施設の歴史に触れた曲で、ギターサウンドが際立つ。社会的批判と人間性の探求が混じり合う。 - William’s Last Words
ニッキー・ワイアーがボーカルを担当したアルバムラストのトラック。別れの手紙のような歌詞が、リッチーの存在をより強く感じさせる。
アルバム総評
『Journal for Plague Lovers』は、Manic Street Preachersの音楽的ルーツに立ち返りつつも、リッチー・エドワーズの遺産を未来へ繋げる壮大な試みだ。『The Holy Bible』のような鋭さを持ちながらも、成熟したバンドの音楽性が新たな次元を加えている。歌詞、音楽、プロダクションが一体となり、深く考えさせられる体験を提供する作品である。特に「Peeled Apples」や「William’s Last Words」といった楽曲は、リッチーへの敬意と感情的な深みを象徴する名曲だ。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Holy Bible by Manic Street Preachers
鋭利な歌詞と攻撃的なサウンドが、本作と最も密接に関連するバンドの代表作。
In Utero by Nirvana
荒々しいプロダクションと内省的なテーマが共通し、深い感情的なインパクトを与える。
Unknown Pleasures by Joy Division
ダークでミニマルなサウンドと詩的な歌詞が、『Journal for Plague Lovers』と響き合う。
Rid of Me by PJ Harvey
スティーブ・アルビニがプロデュースした作品で、生々しいサウンドと内面的なテーマが共通する。
Songs of Love and Hate by Leonard Cohen
詩的で暗示的な歌詞と深い感情表現が、『Journal for Plague Lovers』のリスナーに響く一枚。
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