
発売日: 1970年12月11日
ジャンル: ロック、プロトパンク、シンガーソングライター
剥き出しの魂――ジョン・レノンが自己と向き合った衝撃のデビュー作
ビートルズ解散後、ジョン・レノンが放った初の本格的なソロアルバム『John Lennon/Plastic Ono Band』は、キャリアの中で最もパーソナルかつ赤裸々な作品として知られる。本作は、レノンがアーサー・ジャノフによる「プライマル・スクリーム療法」を受けた影響を強く反映し、内面の苦しみや過去のトラウマをストレートに歌にしたものとなっている。
音楽的にはシンプルで装飾を削ぎ落としたロックサウンドが特徴で、ビートルズ時代のポップなメロディや華やかなアレンジとは一線を画す。プロデューサーにはフィル・スペクターが名を連ねているが、彼の特徴的な「ウォール・オブ・サウンド」は抑えられ、ミニマルなサウンドが際立っている。レノンのヴォーカルは感情剥き出しで、怒り、悲しみ、そして解放を歌い上げている。
全曲レビュー
1. Mother
鐘の音が鳴り響く中で始まるオープニング曲。幼少期に母を亡くし、父に捨てられたレノンの深いトラウマが刻まれた一曲。後半に向かうにつれて彼の叫びは激しさを増し、プライマル・スクリーム療法の影響が色濃く出ている。
2. Hold On
「ジョン、ジョン、しっかりしろ」と自分を励ますように歌う静かな楽曲。シンプルなギターと控えめなリズムが温かみを持ち、アルバムの中では穏やかな部類に入る。
3. I Found Out
歪んだギターとラフなボーカルが特徴のブルージーなロックナンバー。宗教、政治、偽善的な人々への不信感を吐き出す、攻撃的な歌詞が印象的。
4. Working Class Hero
アコースティックギター1本で演奏される、社会への批判が込められたプロテストソング。労働者階級がシステムによって操られ、抑圧される様を冷徹に歌い上げる。レノンの歌詞の鋭さが際立つ代表曲のひとつ。
5. Isolation
ピアノとシンプルなドラムが支えるメランコリックなバラード。成功しながらも孤独を感じていたレノンの内面を表した楽曲で、特に「世界がこんなにクレイジーなのに、僕がクレイジーだって言われるのか?」というラインが印象的。
6. Remember
ピアノのリズムが印象的なナンバー。過去の記憶と向き合う楽曲で、曲のラストでは突然の爆発音とともに終わるユニークな演出が施されている。
7. Love
アルバムの中で最も穏やかで美しい楽曲。シンプルなピアノとギターの伴奏が、レノンの優しい歌声を引き立てる。オノ・ヨーコとの関係から生まれた愛の定義を語るような楽曲。
8. Well Well Well
激しいギターリフと叫ぶようなボーカルが特徴の一曲。レノンのフラストレーションが剥き出しになったロックナンバーで、パンクの先駆け的な要素を持つ。
9. Look at Me
アコースティックギターによる静かなバラード。『ホワイト・アルバム』の「Julia」に通じるシンプルなアレンジが施されている。
10. God
アルバムのクライマックスとも言える楽曲。「神とは概念にすぎない」とし、イエス・キリスト、ブッダ、エルヴィス・プレスリー、そして「ビートルズも信じない」と宣言する衝撃的な歌詞が話題となった。最後に「僕はただのジョンだ」と締めくくることで、過去の偶像からの決別を象徴している。
11. My Mummy’s Dead
わずか50秒のローファイな録音で終わるアルバムのラスト。母の死をテーマにした楽曲で、まるで幼い子供が独り言をつぶやくかのような虚無感が漂う。
総評
『John Lennon/Plastic Ono Band』は、ジョン・レノンのキャリアの中でも最も個人的で、最も感情的な作品のひとつである。ビートルズ時代の華やかなポップソングとは対照的に、本作では装飾を排したシンプルなサウンドと、内面をさらけ出した歌詞が強烈なインパクトを与える。
プライマル・スクリーム療法の影響を受けた叫び声や、社会や自分自身に対する怒り、そして孤独感が生々しく記録されており、アーティストとしてのレノンの本質に迫る作品となっている。彼のソロキャリアの中でも最も純粋な感情が込められたアルバムであり、後のシンガーソングライターたちに大きな影響を与えた。
レノンの音楽を深く知りたいリスナー、そして感情を剥き出しにしたロックを求める人には、ぜひ聴いてほしい一枚だ。
おすすめアルバム
- John Lennon – Imagine (1971)
- 『Plastic Ono Band』ほど激しくはないが、社会的メッセージと美しいメロディが融合した代表作。
- Bob Dylan – Blood on the Tracks (1975)
- アーティストが内面をさらけ出したアルバムとして共通点が多い。
- Neil Young – Tonight’s the Night (1975)
- ダークで生々しい表現が印象的なロックアルバム。
- Elliott Smith – Either/Or (1997)
- レノンの内省的なスタイルを受け継いだシンガーソングライターの名盤。
- Nick Drake – Pink Moon (1972)
- シンプルな楽器編成と内省的な歌詞が、本作と共鳴する部分が多い作品。
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- シンプルな楽器編成と内省的な歌詞が、本作と共鳴する部分が多い作品。
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