
1. 歌詞の概要
「Jealous Guy(ジェラス・ガイ)」は、ジョン・レノンが1971年のアルバム『Imagine』に収録したバラードであり、自身の未熟さと嫉妬心から生まれた後悔と謝罪の気持ちを、繊細かつ誠実に綴った楽曲である。この曲では、愛する人を傷つけたことへの深い自責の念が表現されており、ロック界における最も正直な“ごめん”の歌として知られている。
タイトルの「Jealous Guy(嫉妬深い男)」は、文字通りレノン自身を指している。彼は恋人(後に妻)であるオノ・ヨーコとの関係の中で、自らの内に潜む嫉妬心や不安、コントロール欲求に気づき、その苦しみや悔いを音楽という形で吐き出した。この曲の魅力は、愛を失った男の嘆きではなく、愛に対する“責任”を自らの言葉で引き受けようとする姿勢にある。
そのため、「Jealous Guy」は単なるラブソングではなく、自己を見つめ、赦しと成長を求める、深い人間的な歌として、多くのリスナーの共感を呼んできた。
2. 歌詞のバックグラウンド
この曲の原型は、レノンが1968年にインドのリシケーシュで瞑想中に書いた「Child of Nature」という未発表曲に遡る。もともとは自然との一体感を歌ったものであったが、後にレノンは歌詞を大幅に書き換え、自分自身の感情や過ちをさらけ出す個人的な告白の歌として再構成した。
彼自身が認めているように、この曲はヨーコ・オノとの関係において生じた軋轢、特に自分が抱いていた嫉妬や支配欲に対する後悔から生まれた。ジョンはインタビューでもたびたび「自分は嫉妬深い男だった」と語っており、これは自己分析の成果としての楽曲とも言える。
また、「Jealous Guy」はジョンの死後も長く愛され、1981年にはロキシー・ミュージックによってカバーされて全英1位を獲得。以来、多くのアーティストがこの曲を取り上げてきたことからも、その感情の普遍性と音楽的完成度の高さが証明されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元:Genius Lyrics – John Lennon “Jealous Guy”
I was dreaming of the past
And my heart was beating fast
過去のことを夢に見ていた
胸が高鳴っていたんだ
I began to lose control
I began to lose control
僕は自分を失い始めた
自分をうまく制御できなくなった
この冒頭のセクションでは、嫉妬という感情が突然湧き上がり、自分の心を支配していく様子が静かに描かれている。暴力的ではなく、あくまで内的な動揺として語られている点が印象的である。
I didn’t mean to hurt you
I’m sorry that I made you cry
傷つけるつもりなんてなかったんだ
泣かせてしまって、本当にごめん
Oh no, I didn’t want to hurt you
I’m just a jealous guy
違うんだ、本当に傷つけたくなかった
僕はただの嫉妬深い男なんだよ
このリフレインこそが、曲全体の核心である。レノンは行動の正当化を一切せず、自分の感情の弱さと未熟さをそのまま認める。その率直さが、この曲を単なる謝罪ではなく、深い誠意の告白として成立させている。
I was feeling insecure
You might not love me anymore
僕は不安だったんだ
君がもう僕を愛していないかもしれないって
ここでは、嫉妬という感情の根源にある**“愛されなくなるかもしれない”という恐れ**が明確に示される。これは多くの人が共感できる、人間関係における根本的な不安の描写である。
4. 歌詞の考察
「Jealous Guy」は、ジョン・レノンの楽曲の中でも最も個人的で脆く、そして誠実な歌のひとつである。ここで描かれているのは、単なる“嫉妬”という感情ではなく、それが引き起こす自分自身との葛藤と、他者への傷の自覚である。
ジョンはこの曲で、自分の感情を外にぶつけるのではなく、内側に潜り込んでその根を見つめ直す。それは自己分析であると同時に、リスナーに対する優しさでもある。なぜなら、「僕はただの嫉妬深い男なんだ」という一言は、完璧ではない人間の正直な声として、誰かの“弱さ”を肯定する力を持っているからだ。
また、「傷つけるつもりはなかった」「泣かせたくなかった」という繰り返しは、赦しを求めるのではなく、ただ心を伝えたいという切実な思いに溢れている。この“非操作的な謝罪”こそが、聴く者の心を打つ理由なのだ。
ピアノを中心としたシンプルなアレンジと、抑制されたストリングス、そしてジョンの憂いを帯びた声。それらすべてが、この曲を**“静かな魂の懺悔”**として完成させている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Sorry Seems to Be the Hardest Word” by Elton John
謝ることの難しさと心の痛みを綴ったエルトンの名バラード。 - “Wild Horses” by The Rolling Stones
不器用な愛と別れの瞬間を切なく描いたロマンティックなロック・バラード。 - “River” by Joni Mitchell
別れと自己喪失の後悔を、冬の情景とともに描いた傑作。 - “Let It Be” by The Beatles
悲しみや混乱のなかで、流れに身を任せる智慧を歌ったスピリチュアルな一曲。 - “Tears in Heaven” by Eric Clapton
個人的な喪失から生まれた、魂を込めた祈りのバラード。
6. 赦しを乞うのではなく、心をさらけ出す勇気の歌
「Jealous Guy」は、ジョン・レノンという人物の暴力性や不安、そしてそこから抜け出したいという願望を、もっとも正直に描いた楽曲である。
その告白は、決して自己弁護ではなく、ただ“ありのままの弱さ”を見せることの勇気によって成立している。
愛において人はしばしば未熟で、恐れて、間違える。だがそれを認め、相手に向かって“ごめん”と歌うこと――それは、ただの謝罪ではなく、愛そのものへの責任を引き受ける行為だ。
「Jealous Guy」は、誰よりも不完全だった男が、不完全なまま愛を語ることで、私たちにも“正直であることの美しさ”を教えてくれる、静かで力強い名曲である。
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