発売日: 1969年11月17日
ジャンル: ブルースロック、ソウル、フォークロック
概要
『Joe Cocker!』は、ジョー・コッカーが1969年に発表した2作目のスタジオアルバムであり、
彼のシンガーとしての唯一無二の地位を決定づけた重要作である。
前作『With a Little Help from My Friends』で熱烈な注目を集めたコッカーは、
本作でも再び名曲の数々を独自の解釈でカバーし、
ブルースとソウルを根幹に据えた圧倒的な表現力を見せつけた。
プロデュースは、レオン・ラッセルとダニー・コーチマーが担当。
バックを務めたのは、後に「マッド・ドッグス&イングリッシュメン」として知られる精鋭ミュージシャンたち。
とりわけラッセルのピアノとアレンジが、コッカーの野性味あふれる歌唱に洗練された骨格を与えている。
1960年代末――理想と混沌、希望と絶望が交錯していた時代に、
『Joe Cocker!』は、そんな世界を丸ごと飲み込むような人間的な熱量で彩られたアルバムとなったのである。
全曲レビュー
1. Dear Landlord
ボブ・ディランのカバー。
支配と自由のテーマを、ゴスペル的な重厚感を持ったアレンジで歌い上げる。
2. Bird on the Wire
レナード・コーエン作のバラード。
自由を求める魂の悲しみを、コッカー独特のハスキーボイスで深く掘り下げる。
3. Lawdy Miss Clawdy
ロイド・プライスのR&Bクラシックをカバー。
ブルース色濃厚なアレンジとコッカーのシャウトが冴え渡る。
4. She Came in Through the Bathroom Window
ビートルズのカバー。
原曲よりもグルーヴィーかつソウルフルな解釈で、
楽曲に新たな躍動感を吹き込んでいる。
5. Hitchcock Railway
軽快なリズムとファンキーなグルーヴが印象的なナンバー。
コッカーの泥臭いボーカルが生き生きと躍動する。
6. That’s Your Business Now
唯一の完全オリジナル曲(レオン・ラッセルとの共作)。
冷めた視線と情熱が交錯する、シンプルだが味わい深いロックチューン。
7. Something
ジョージ・ハリスン作のラブソングを、
より泥臭く、ソウルフルに歌い直したバージョン。
コッカーの情熱的なボーカルが、曲に新たな深みを与えている。
8. She’s So Good to Me
軽快でファンキーな楽曲。
愛する女性への賛歌を、躍動感ある演奏でストレートに表現する。
9. Hello, Little Friend
切ない哀愁が漂うミディアムバラード。
内省的な側面を見せる珍しいナンバーである。
10. With a Little Help from My Friends (Live Version) ※一部再発盤収録
ウッドストックでの伝説的パフォーマンスを思い起こさせる熱演。
コッカーの真骨頂を体感できる圧巻のライヴバージョン。
総評
『Joe Cocker!』は、単なるカバーアルバムではない。
それは、「解釈する」という行為そのものを、アートに高めた作品である。
ジョー・コッカーは、他人が書いた歌に自らの痛みと歓喜を注ぎ込み、
それを”自分自身の歌”として生まれ変わらせる。
ブルース、ソウル、ロック――
すべてのジャンルを超えた**”魂の音楽”**が、ここには刻まれている。
また、レオン・ラッセルとのコンビネーションにより、
音楽的なスケール感とアレンジの豊かさが格段に向上。
次作『Mad Dogs & Englishmen』への道筋を照らす、重要なステップとなった。
『Joe Cocker!』は、
時代の熱気と哀しみを抱えながら、
それでもなお人間の強さと美しさを讃えた、
偉大な”声”の記録なのである。
おすすめアルバム
- Joe Cocker / With a Little Help from My Friends
ソウルフルなデビュー作。コッカーの原点を体感できる。 - Leon Russell / Leon Russell and the Shelter People
レオン・ラッセルの代表作。『Joe Cocker!』と精神的に通じる自由な音楽世界。 - The Band / The Band
ルーツ音楽とロックの融合を極めた、時代を象徴するアルバム。 - Eric Clapton / 461 Ocean Boulevard
ブルースとソウルの香りを纏った、成熟期クラプトンの名作。 -
Delaney & Bonnie / On Tour with Eric Clapton
アメリカ南部のソウルフルなルーツロックを体感できる傑作ライヴ盤。
歌詞の深読みと文化的背景
1969年――
アメリカはベトナム戦争の影に覆われ、
イギリスでも若者たちは社会に対する失望と怒りを抱えていた。
そんな時代、ジョー・コッカーは
“怒り”や”希望”を、直接政治的スローガンにするのではなく、
“声”と”感情”そのもので表現した。
「Dear Landlord」や「Bird on the Wire」では、
自由を求める魂の痛みが、
「Something」や「She’s So Good to Me」では、
愛することの切なさが、
コッカーの圧倒的な歌唱によって、
聴き手の心に深く刻まれる。
『Joe Cocker!』は、
時代の混沌を飲み込みながらも、
“生きる”という行為そのものを、
力強く、そして温かく肯定するアルバムなのだ。
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