
発売日: 1993年11月
ジャンル: ルーツ・ロック、アメリカーナ、フォークロック
概要
『Jericho』は、The Band が1993年に発表した“再結成後初”のスタジオアルバムであり、
クラシック期の終焉から17年を経て届けられた新章の始まり を告げる重要作である。
1976年“The Last Waltz”をもってオリジナル編成は事実上解散し、
Robbie Robertson は映画音楽/ソロへ、
Levon Helm、Rick Danko、Garth Hudson は各々活動を続けながらもバンド形態へ戻ることはなかった。
しかし1980年代末〜90年代初頭、アメリカ音楽界で“ルーツ回帰”が進む中で、
残る3人(Levon、Rick、Garth)は、仲間の思いを継ぐように再びThe Band名義で集結。
そこに、Jim Weider、Randy Ciarlante、Richard Bell ら新メンバーを加えた“第二期 The Band”が生まれた。
『Jericho』は、この新体制で制作された初めてのスタジオ作であり、
Richard Manuel(1986年死去)不在、Robbie Robertson 不在という状況にも関わらず、
The Bandらしい土臭い温かさ、声、物語性 が驚くほど強く息づいている。
新旧メンバーが有機的に融合し、
“音楽に戻ってきた3人”が持つ 気力、優しさ、哀しみ、喜び がアルバム全体に染み込んでいる。
オリジナル曲とカバー曲が混在し、
Levon・Rick が中心となる“人間味のあるルーツロック”が復活。
The Band のスピリットの継続を証明した作品として、現在では極めて重要視されている。
全曲レビュー
1曲目:Remedy
Levon Helm の力強いボーカルが帰還を告げる、直球のルーツロック。
ホーンの響き、泥臭いドラム、温かいギター。
“再び立ち上がる”というメッセージが身体的に伝わる、アルバムの象徴曲。
2曲目:Blind Willie McTell
ボブ・ディラン未発表曲の名カバー。
Rick Danko が魂を込めて歌い、Garth Hudson のオルガンが深い霧のように広がる。
南部の歴史と黒人音楽への深い敬意が刻まれた、アルバムのハイライト。
3曲目:The Caves of Jericho
Jim Weider のギターを中心に広がる新生 The Band の重要トラック。
“Jericho”=崩れゆく壁を象徴として扱い、再生と希望をテーマにしている。
4曲目:Atlantic City
ブルース・スプリングスティーンの曲をフォークロックに再構築した有名カバー。
Levon Helm の渋い声と Rick のハーモニーが美しく、荒んだアメリカの物語に温度が宿る。
本作でも屈指の完成度。
5曲目:Too Soon Gone
Richard Manuel に捧げられた、涙を誘うバラード。
Rick Danko の切ないボーカルと、Garth の美しいkeyboardが胸に染みる。
“去りゆく友への想い”が真っ直ぐ伝わる名曲。
6曲目:Country Boy
軽快なカントリーロック。
Levon のドラミングとヴォーカルが、アメリカ南部の空気をそのまま運んでくるような曲。
7曲目:Move to Japan
ファンキーで遊び心あるトラック。
新生 The Band のユーモラスな側面が楽しめる。
8曲目:Same Thing
ブルースの王道曲カバー。
Levon の“土臭いブルース魂”が炸裂する。
ドラムとヴォーカルが完全に一体化しているのが魅力。
9曲目:Amazon (River of Dreams)
Rick Danko が中心となる、幻想的なアメリカーナ曲。
南米を題材としたスケールの大きなサウンドスケープが特徴。
10曲目:Stuff You Gotta Watch
陽気でグルーヴィなロックンロール。
The Band が本来持つ“酒場のエネルギー”が蘇る。
11曲目:White Cadillac
ロックンロールの香りが強い中速曲。
90年代のThe Bandらしい落ち着いた勢いが魅力。
12曲目:Shinin’ On
温かいサザン・ゴスペル風の締めくくり。
“まだ光は消えていない”というメッセージが、アルバムを希望で包む。
総評
『Jericho』は、“クラシック期”ではない。
しかし同時に、
The Band の精神が確かに息を吹き返した瞬間を捉えた、感動的な再生の記録
である。
Levon Helm と Rick Danko は依然として偉大な歌い手であり、
Garth Hudson の鍵盤は深い物語を奏で続ける。
Richard Manuel の不在は痛いが、
彼に捧げる曲がアルバムの中心にあることで、
“仲間を失ったあとも音楽と共に生き続ける”
という深い情緒がアルバム全体を貫いている。
カバー主体でありながら、
オリジナル曲も高い完成度を持ち、
The Band 第二期の美しさを象徴する暖かいアルバム として重要視されている。
人間味に満ちた、静かな復活の一枚だ。
おすすめアルバム(5枚)
- The Band / The Band (1969)
The Band の原点であり神話。新生期との対比が鮮やか。 - Northern Lights – Southern Cross (1975)
後期の創造力ピーク。本作の再生感をより深く理解できる。 - High on the Hog / The Band (1996)
再結成後の流れを続けるアルバム。『Jericho』の次章として最適。 - Stage Fright / The Band (1970)
不安と希望の混在というテーマ性が『Jericho』と響き合う。 - The Last Waltz (1978)
The Band の終わりと新生の始まりを繋ぐ歴史的ライブ作品。



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