発売日: 1975年4月
ジャンル: ブルースロック、ポップロック、ジャズロック
夜に咲く夢想と技巧——ソロ・アーティストとしての覚醒
『Jasmine Nightdreams』は、Edgar WinterがEdgar Winter Group名義ではなく、ソロ名義で1975年にリリースした作品である。
とはいえ、彼の音楽的アイデンティティ——ロック、ブルース、ジャズ、ファンクの混交する自由なスタイル——はそのままに、本作ではよりパーソナルで洗練されたアプローチがとられている。
前作『Shock Treatment』で示した多彩な音楽性を受け継ぎつつも、ここではバンドの“衝動”よりも作曲家・表現者としてのエドガーにスポットが当てられている。
タイトルが示すように、夜の静けさ、夢想、そして幻想が作品全体に漂っており、彼の中にあるロマンティックで詩的な側面が浮かび上がる。
全曲レビュー
1. One Day Tomorrow
ドラマチックなコード進行と、夢見心地なメロディが印象的なバラード。
「明日が来るその日まで」と語りかけるような歌詞は、未来への希望と不安を同時に描き出す。
2. Little Brother
タイトなグルーヴとピアノの疾走感が心地よいロックナンバー。
弟ジョニー・ウィンターとの関係を思わせるタイトルだが、直接的な言及はない。どこか寓話的な視点が漂う。
3. Hello Mellow Feelin’
サイケデリックな響きを残した、ゆるやかなグルーヴが特徴。
「気だるさの中の快楽」とも言える、70年代的なチル感が漂っている。
4. Tell Me in a Whisper
ソフトロック調の繊細な楽曲。
タイトル通り「ささやき声で教えて」というリリックが、恋愛の初期の緊張感を美しく描いている。
5. Shuffle-Low
ピアノのブギウギ的リズムと、軽妙なドラミングが魅力。
陽気さとスイング感に満ちた、ライブ感の強い一曲である。
6. Keep on Burnin’
ファンキーでエネルギッシュなナンバー。
シンセサイザーの使い方にも独自性があり、70年代中盤のクロスオーバー的なサウンドを体現している。
7. Conversation
ジャズロック色の強いインストゥルメンタル。
まるで複数の楽器が対話を交わしているかのような構成で、タイトルそのままの印象を与える。
8. How Do You Like Your Love?
スムースなファルセットとソウル風のグルーヴが心地よい楽曲。
愛の形を問う、ロマンティックなメッセージが印象に残る。
9. I Always Wanted You
切実なヴォーカルが響くスロー・バラード。
過去の後悔や未練を描いたリリックは、聴く者の感情に静かに染み込む。
10. Ebony Eyes
アルバムのラストを飾る美しい小品。
「漆黒の瞳」を持つ誰かへの想いが、幻想的なメロディと共に綴られている。
総評
『Jasmine Nightdreams』は、Edgar Winterという音楽家の内面性と作曲力に改めて注目させられる作品である。
バンド的な爆発力は抑えられているものの、その分だけ各楽曲の構成やアレンジにじっくりと時間がかけられ、彼の音楽家としての器の広さが感じられる。
特に夜の情景や内省的なムードを表現するトーンには一貫性があり、アルバムとしての世界観に没入しやすい。
また、ロックやファンクに加えて、ソフトロックやバート・バカラック的なポップスのニュアンスも漂っており、幅広いジャンルのファンに訴えかける内容となっている。
エドガー・ウィンターのより静かな側面、成熟した音楽観に触れたいリスナーにとって、本作はまさに“夜に咲く夢”のようなアルバムである。
おすすめアルバム
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Boz Scaggs – Silk Degrees
都会的で洗練されたソウル/ポップの感覚が共鳴する作品。 -
Todd Rundgren – Hermit of Mink Hollow
多重録音によるパーソナルな世界観が、Edgarの内省的アプローチと重なる。 -
Stevie Wonder – Fulfillingness’ First Finale
内面に迫るソウルミュージックの名盤。感情と構成力の共存という点で近い。 -
Leon Russell – Carney
幻想的でフォーキーなムードと実験性が、本作の空気感に似ている。 -
Paul McCartney – McCartney II
個人制作ならではの自由さと奇抜さが際立つ、孤独な夢想家の記録。
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