I Want It That Way by Backstreet Boys(1999)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「I Want It That Way」は、アメリカのボーイ・バンドであるBackstreet Boysが1999年にリリースしたシングルで、マックス・マーティンMax Martin)とアンドレアス・カールソン(Andreas Carlsson)が共作・プロデュースを手掛けた作品として知られています。曲はアルバム『Millennium』に収録され、当時のポップ・ミュージックシーンを席巻した“90年代後半のボーイバンドブーム”の象徴的ナンバーとなりました。
楽曲の歌詞は、いわゆる“ラブソング”の範疇に入るものの、一読すると少し抽象的な表現が多く、ストーリーラインをはっきりと追い切れない不思議な雰囲気があります。サビの “I want it that way” というフレーズは、恋人同士の距離感や誤解に揺れる想いを象徴的に示しており、「お互いを理解し合いたいけれど、なぜかわかり合えない」というもどかしさが歌われているかのようにも感じられます。
しかし、本曲はそうした曖昧な言葉選びよりも、むしろ圧倒的にキャッチーなメロディと美しいボーカル・ハーモニーによって多くの人の記憶に強く残りました。歌詞の詳細よりもサウンド面、特にサビの部分を聴くだけで脳裏に刷り込まれるような耳馴染みの良さが、世界中で爆発的ヒットを生み出した大きな要因といえるでしょう。

2. 歌詞のバックグラウンド

Backstreet Boysは1993年に結成されたアメリカ出身のボーイ・バンドで、メンバーはAJ、ブライアン、ハウィー、ニック、ケヴィンの5人。ヨーロッパ市場で先に火がつき、その後アメリカに逆輸入される形で人気が加速しました。なかでもマックス・マーティンとの協業は彼らにとって極めて重要であり、「Quit Playing Games (With My Heart)」「Everybody (Backstreet’s Back)」などの大ヒットを立て続けに生み出してきました。
マックス・マーティンはスウェーデン出身の音楽プロデューサー兼ソングライターであり、90年代にはチェールガーデン・スタジオ(Cheiron Studios)を拠点に世界的ポップスの数々を作り上げてきた人物として注目を浴びていました。当時のバックストリート・ボーイズをはじめ、NSYNCブリトニー・スピアーズなどにも楽曲を提供することで、彼のキャッチーかつ洗練された“スウェーデン発ポップ”はアメリカや世界の音楽シーンに大きな影響を及ぼしていきます。
一方で、アルバム『Millennium』はバックストリート・ボーイズのキャリアにおいて最高のセールスを記録した作品でもあり、その先行シングルとしてリリースされた「I Want It That Way」は、発売当初から音楽番組やラジオ局で過剰なほどのオンエア回数を誇りました。結果として、全米チャートや世界各国のチャートで上位にランクインし、今なおグループの代表曲としてファンの間で愛されています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「I Want It That Way」の歌詞の一部を抜粋し、1行ごとに英語とその日本語訳を併記します(歌詞の引用元: Backstreet Boys – I Want It That Way Lyrics)。

“You are my fire
The one desire”
「君は僕の炎
僕の唯一の欲望なんだ」

ボーイバンドのラブソングらしい、直球の情熱的な表現が特徴的です。相手を“炎”にたとえ、自分の存在意義を揺るがすほどの大切な相手だと伝えることで、切実な恋愛感情をダイレクトに示しているとも解釈できます。

“But we are two worlds apart
Can’t reach to your heart”
「だけど僕たちはまるで別の世界にいる
君の心に触れられないんだ」

こちらは距離感や誤解を示唆するフレーズとして、曲全体に漂う“すれ違い”のモチーフを象徴しています。

(その他の歌詞は上記リンクを参照ください。歌詞の著作権は原作者に帰属します。)

4. 歌詞の考察

本楽曲は、歌詞の文脈に多少の破綻や論理的な飛躍があると指摘される一方で、それが逆にキャッチーな印象を強めている例としてもよく取り上げられます。特に、メンバー自身が「意図的に曖昧にしている部分がある」ことを後にインタビューで語っており、“I want it that way”という表現は“お互いが求めるものが噛み合わないもどかしさ”を示す一方、“それでも自分の思いを貫きたい”という強い意志を重ね合わせたダブルミーニング的な役割を果たしているとも言われています。
さらに、ボーカルパートがメンバー同士でリレーのようにつながる構成になっていることも注目ポイントです。リードを取るパートによって歌詞のニュアンスが微妙に変化し、聴き手は「これは誰の視点か?」「何を求めているのか?」といった問いを抱きながら曲を聴くことになります。こうした仕掛けが楽曲にドラマ性を与え、ファンがそれぞれのメンバーに感情移入しやすい構造を生み出しているのです。
また、曲調はバラード寄りのミッドテンポでありながら、サビに向けて一気に盛り上がる展開があるため、コンサートなどのライブパフォーマンスでのハイライト曲としても長く愛されています。観客はサビのメロディを自然に口ずさむことが多く、バンドとファンが一体となって歌い上げる瞬間こそが、この曲最大の魅力と言えるでしょう。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • 「Quit Playing Games (With My Heart)」 by Backstreet Boys
    マックス・マーティンとの初期コラボレーションによる大ヒット曲。切ないメロディとソウルフルな歌唱が特徴で、彼らの原点とも言えるサウンドを堪能できます。

  • 「Shape of My Heart」 by Backstreet Boys
    アルバム『Black & Blue』収録のバラードナンバー。やや大人びた曲調とエモーショナルなボーカルが印象的で、「I Want It That Way」に近いメロディアスな魅力を感じられます。
  • 「Tearin’ Up My Heart」 by _NSYNC
    Backstreet Boysと同時期に活躍したボーイバンド_NSYNCの代表曲の一つ。アップテンポなダンスビートと切ない歌詞のコンビネーションが秀逸で、“90年代ボーイバンド”らしいエネルギーが詰まった楽曲です。

  • 「Everybody (Backstreet’s Back)」 by Backstreet Boys
    力強いビートと中毒性のあるサビが特徴で、ダンスフロアで盛り上がること間違いなしの一曲。コーラスワークにも注目すると、バックストリート・ボーイズのポップ・コーラスグループとしての完成度の高さがより際立ちます。

  • …Baby One More Time」 by Britney Spears
    こちらもマックス・マーティンが手がけた1990年代後半のメガヒット。女性アーティストによるキュートさとポップセンスが存分に堪能できる作品で、同時代の“ティーン・ポップ”を語る上で外せない楽曲です。

6. 90年代ポップ・シーンへの影響と象徴性

「I Want It That Way」は、いわゆる“ティーン・ポップ”や“ボーイバンドブーム”の絶頂期を象徴する一曲であり、世界中で音楽チャートを席巻しました。リリース当時、バックストリート・ボーイズの洗練されたルックスと完璧なハーモニーは多くの若者を虜にし、音楽番組やMTVを通じて数え切れないほどのファンを獲得。メディアの後押しもあり、コンサート会場では数万人規模のオーディエンスが熱狂し、チケットは即完売というケースが続出しました。
この曲のインパクトは、単に売上やチャート順位だけに留まりません。ポップス界の新たなスタンダードとして、多くのアーティストやプロデューサーが模倣を試みるきっかけともなりました。マックス・マーティンが提示した“覚えやすいメロディラインとわかりやすいサビ構成、そしてリスナーの感情に直接訴える歌詞”という一連の手法は、その後のポップソング制作において広く踏襲されるようになります。これにより、スウェーデン勢が世界の音楽産業に大きな影響力を持つ流れがさらに加速し、結果的にアメリカやイギリスの伝統的なヒットメイキングの手法とは異なる新風を吹き込むことにも成功しました。
また、「I Want It That Way」のビデオクリップは、空港のターミナルを舞台に白い衣装に身を包んだメンバーが歌う印象的な映像が特徴で、当時のファッションやビジュアルスタイルがそのまま“90年代末〜2000年代初頭”という時代の象徴となっています。このビデオは数多くのパロディを生み出し、芸人や他のアーティストによって再現されるなど、ポップ・カルチャー全体に持続的な影響を与えました。
さらに言えば、メンバー自身のボーカルスキルとコーラスワークは、アイドル的側面だけでなく真っ当な音楽的評価も得る重要な要因であり、当時の音楽評論家や業界関係者の中には「ボーイバンド=パッケージアイドル」という先入観を覆されたと感じる者も少なくなかったのです。実際、バックストリート・ボーイズは長年にわたり活動を続け、アルバムをリリースし、世界各国をツアーで回る中で、その音楽性を着実に進化させています。「I Want It That Way」はグループの礎となった曲と言っても過言ではなく、ライブでも欠かせない定番ソングとしてファンから絶大な支持を集め続けています。
こうした背景を通して振り返ると、この曲が持つ大衆的な吸引力と時代性の高さは、まさに“ポップスの黄金期”を象徴するキートラックであることがわかります。リスナーの人生のある瞬間と強烈に結びつき、青春の一ページを形作ってきたこの曲は、デビューから数十年が経過した今でも多くの人々の思い出やノスタルジアを掻き立てる力を失っていません。日常のなかでふと耳にすると、当時の熱狂やワクワク感が一瞬にしてよみがえる――そんな“タイムマシン”的な魅力を携えた楽曲こそが「I Want It That Way」だと言えるでしょう。

そして、その背後には世界規模での楽曲流通を可能にした音楽ビジネスの変革や、MTVを中心とするミュージックビデオ文化の隆盛、そしてスウェーデンの音楽制作陣が築き上げた緻密なポップセンスといった多くの要素が複雑に絡み合っています。そうした時代の追い風を最大限に受けながらも、曲自体の完成度が高かったからこそ、これほどまでに長く愛され、語り継がれるクラシックとなったのでしょう。
「I Want It That Way」は、90年代末から2000年代初頭にかけて青春を過ごした人々にとってはもちろん、後の世代の音楽ファンにとっても、ポップミュージックの魅力を凝縮した一本の“教科書”のような存在として残り続けるに違いありません。かつて世界中を席巻した“ボーイバンド”というムーブメントの熱狂と、マックス・マーティンを中心とする北欧ポップ制作陣の天才性の結晶が、この曲には余すところなく封じ込められているのです。

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