
1. 歌詞の概要
「In My Blood」は、Shawn Mendes(ショーン・メンデス) が2018年にリリースしたセルフタイトルの3rdアルバム『Shawn Mendes』のリードシングルであり、彼のキャリアにおいて最もパーソナルで内面的な感情を吐露した楽曲のひとつです。
テーマはずばり、不安障害(anxiety)との向き合いと克服の意志。表面的には強く見えるショーンが、自分の内面の不安や孤独を赤裸々に語りながらも、「諦めたいけど、諦めない」と繰り返すことで、精神的な闘いを音楽という形で解放しようとする真摯な姿が描かれています。
「Stitches」や「Treat You Better」のような恋愛中心の楽曲とは異なり、「In My Blood」では個人の葛藤や心の奥底にある叫びが中心に据えられていることが特徴であり、ショーン・メンデスというアーティストの成熟と進化を示す重要なターニングポイントです。
2. 歌詞のバックグラウンド
ショーンはこの曲のリリースにあたり、「この曲を書いたことで、初めて本当に自分の心の状態と向き合えた」と語っており、不安障害に悩む多くの人たちに**“自分だけじゃない”という共感を届けたい**という想いを込めたと明かしています。
楽曲は Teddy Geiger、Scott Harris、Geoff Warburton との共同制作によって生まれ、ショーン自身の実体験をもとに書かれています。彼はツアーやメディア露出の中で経験したプレッシャーや不安、孤独感に苦しみ、それでも人前では完璧を装わなければならなかったジレンマを、この曲で初めて真正面から吐き出す決意をしたのです。
音楽的には、静かなギターのアルペジオから始まり、サビで一気にロック的な展開へと高まるダイナミックな構成が、不安の波と闘う心の内面をドラマティックに表現しています。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に「In My Blood」の印象的な一節と和訳を紹介します:
“Help me, it’s like the walls are caving in
Sometimes I feel like giving up”
「助けてくれ、壁が押し寄せてくるような感覚なんだ
諦めそうになることがある」
“It isn’t in my blood”
「でも、それは僕の血には流れていないんだ(=僕は諦めない)」
“Laying on the bathroom floor, feeling nothing
I’m overwhelmed and insecure, give me something”
「バスルームの床に横たわり、何も感じられない
圧倒されて、不安で、何かがほしいんだ」
“I need somebody now
I need somebody now”
「今すぐ、誰かが必要なんだ
今すぐ、誰かが…」
引用元:Genius Lyrics
繰り返される“It isn’t in my blood”というフレーズには、絶望の中でも希望を見失わない姿勢がにじみ出ており、聴く人の心に強く残ります。
4. 歌詞の考察
「In My Blood」は、メンタルヘルスというセンシティブなテーマに、ポップスターが真正面から向き合ったことが大きな意義を持つ作品です。特にティーンや若年層にとって、“弱さを見せることは悪ではない”というメッセージを発信した点で、ショーンのキャリアにおけるターニングポイントとなりました。
最も象徴的なのは、サビで繰り返される“It isn’t in my blood”という言葉です。これは「弱さが自分にない」という意味ではなく、「苦しいけど、諦めることは自分の本質じゃない」という決意の表明です。つまり、不安や無力さを認めながらも、そこに飲み込まれずに立ち上がろうとする意志の歌なのです。
また、歌詞の中に登場する“laying on the bathroom floor”という描写は、パニックや抑うつ状態のリアルな感覚を描いており、リスナーの共感を深く呼び起こす部分でもあります。ショーンはヒーローではなく、私たちと同じように揺れ動く存在として自分を描き出すことで、音楽を通じて共感と癒しを生み出す力を発揮しているのです。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- 1-800-273-8255 by Logic ft. Alessia Cara & Khalid
自殺防止ホットラインの番号をタイトルにした、メンタルヘルスと希望の物語。 - Lovely by Billie Eilish & Khalid
不安と孤独を美しいサウンドで包み込んだ、現代的なエモーショナルバラード。 - Youth by Daughter
抑圧された感情と繊細な内面世界を描く、リスナーの心に深く響く楽曲。 - Skyscraper by Demi Lovato
傷ついた自分を立て直そうとする力強いバラード。再生の象徴として共通点あり。 - Breathin by Ariana Grande
不安やパニック障害と向き合う中で「呼吸をすることだけでもいい」という優しい肯定。
6. 特筆すべき事項:メンタルヘルスへの扉を開いた“告白の歌”
「In My Blood」は、ポップミュージックにおいて“心の健康”をテーマに掲げた代表的な楽曲の一つです。これまでアイドル的なイメージが強かったショーン・メンデスが、この曲で自分の弱さを曝け出したことは、ポップアーティストが「完璧さ」ではなく「人間らしさ」を提示する時代への移行を象徴しているとも言えるでしょう。
さらにこの楽曲の成功は、メンタルヘルスに悩む若者たちにとっても非常に大きな意味を持ちます。誰かに助けを求めること、苦しいと感じること、立ち上がれない夜があること――それをショーン・メンデスという若く成功したスターが堂々と歌ったことで、“声をあげていい”という共感と許可が多くの人に与えられました。
**「In My Blood」**は、不安の中で生きるすべての人に向けた、“諦めない心”の讃歌です。傷ついても、立ち上がれなくても、呼吸すら苦しくても、それでも「諦めたくない」と願う――その純粋な想いが、ショーン・メンデスの声に乗って、世界中の心に静かに灯をともした一曲です。
コメント