Independence Day by The Comsat Angels（1980）楽曲解説

楽曲レビュー

2025.05.04

1. 歌詞の概要
2. 歌詞のバックグラウンド
3. 歌詞の抜粋と和訳
4. 歌詞の考察
5. この曲が好きな人におすすめの曲
6. 静かなる決意としての「独立記念日」
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1. 歌詞の概要

「Independence Day」は、イギリスのポストパンク・バンド、The Comsat Angels（コムサット・エンジェルズ）のデビュー・アルバム『Waiting for a Miracle』（1980年）に収録された代表曲である。

タイトルが指し示すのはアメリカの建国記念日でも、政治的な独立でもない。ここでいう「Independence」とは、個人としての自由、感情的な自立、そして束縛からの解放を意味している。だが、その自由は必ずしも喜びとは限らない。むしろ「独りであること」や「支えを失うこと」の痛みすら孕んでいる。

この楽曲は、関係性の崩壊やアイデンティティの喪失という主題を、冷たく乾いた視点から描き出す。歌詞にはあからさまな怒りや悲しみはない。しかし、その抑制された語り口の裏に、感情の澱が深く沈殿していることが静かに感じ取れる。

2. 歌詞のバックグラウンド

The Comsat Angelsは、1978年にシェフィールドで結成された。バンド名は、J.G.バラードの短編小説『The Comsat Angels』から取られている。Joy DivisionやMagazine、Wireと並ぶイギリスのポストパンク・シーンの重要な存在でありながら、商業的成功には恵まれず、むしろカルト的な支持を得ていったタイプのバンドである。

「Independence Day」は、彼らの最初のシングルであり、デビュー作『Waiting for a Miracle』の中心に位置する曲でもある。Steve Fellowsの切迫感のあるヴォーカルと、ミニマルで緊張感のある演奏が融合したこの曲は、バンドの方向性を明確に示した重要な一曲だ。

この楽曲は後にU2のThe EdgeやRadioheadのメンバーにも高く評価されており、その影響力は密かに現代のオルタナティブ／ポストロック・シーンにも及んでいる。

3. 歌詞の抜粋と和訳

印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。全歌詞はこちら（Genius Lyrics）から閲覧可能。

I’m not afraid of losing, I’m just afraid of losing you
負けることが怖いんじゃない、君を失うのが怖いんだ

このラインは、感情の本質を鋭く突いている。独立するということは、自分ひとりで立つことだが、同時に愛する人を手放すという意味にもなる。

And every day it’s Independence Day
そして毎日が独立記念日

この一節は皮肉に満ちている。自由であることが本来喜ばしいものであるはずなのに、それが「毎日続く」とき、そこには孤独と虚無が忍び込んでくる。解放とは、常に代償を伴うものなのだ。

4. 歌詞の考察

この楽曲における「Independence Day」は、愛や信頼といった人間関係からの自立であり、あるいは強制的な切断でもある。歌詞が描くのは、誰かのもとを離れてひとり歩み始めた人物の内面である。

「I’m not afraid of losing, I’m just afraid of losing you」という一節には、独立という概念に対する二重の視点が含まれている。一方では自立の美学があるが、もう一方では他者との結びつきの喪失という苦しみがある。それはまさにポストパンク的世界観に通じる感情であり、The Comsat Angelsの音楽の核心でもある。

また、サウンド面も歌詞の緊張感を見事に補完している。冷たいギターのリフ、絶え間ないリズム、抑制されたヴォーカルは、感情が抑えきれずに今にも崩れそうな一歩手前の瞬間を切り取っている。喜びや怒りといった明快な感情表現を排し、むしろ“感情の不在”や“空虚さ”によってリスナーの心を揺さぶるアプローチは、当時の多くのポストパンク・バンドの中でも特に繊細かつ知的なものだった。