I Kissed a Girl by Katy Perry(2008)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

「I Kissed a Girl(アイ・キスド・ア・ガール)」は、Katy Perry(ケイティ・ペリー)が2008年にリリースしたメジャーデビューアルバム『One of the Boys』からのリードシングルであり、彼女の名前を一躍世界的に知らしめた出世作です。楽曲の歌詞は、タイトルの通り“女の子とキスをした”という一夜の出来事を描いており、性的な好奇心、衝動、そしてその先にある“自己の境界の曖昧さ”をユーモラスかつ挑発的に歌っています。

一見軽薄なポップソングのように見えるかもしれませんが、歌詞の裏側には、「自分が思っていたよりも流動的な欲望」「既存のルールに従わない感情」「好奇心と罪悪感の共存」といった、現代的で複雑なテーマが潜んでいます。Katy Perryはこの曲を通じて、“他者と違うかもしれない自分”を肯定的に描く一方で、社会が求める“型”に収まらない感情のリアリティを軽やかに表現しました。

2. 歌詞のバックグラウンド

「I Kissed a Girl」は、Katy Perryにとって本格的なブレイクスルーとなった作品で、2008年にリリースされるとアメリカ、カナダ、オーストラリア、イギリスをはじめ世界各国のチャートで首位を獲得し、Billboard Hot 100では7週連続1位を記録しました。

プロデュースはDr. LukeとMax Martinという当時の最強ヒットメイカーコンビ。Katy Perry本人は、保守的なキリスト教家庭で育った自身のバックグラウンドを持ちながら、この楽曲で性やアイデンティティに対するオープンな視点を提示し、ポップカルチャーに“タブーを超える自由な感情”を持ち込んだのです。

ただし、この曲は同時に一部で物議も醸しました。LGBTQ+コミュニティからは、「好奇心としてのレズビアニズムをセンセーショナルに扱い、同性愛を軽んじているのでは」といった批判も寄せられました。一方で、この曲がきっかけで「自分のセクシュアリティについて考え直した」という声も多く、リスナーの人生に実際の変化をもたらした楽曲でもあります。

ケイティ自身は後年、「この曲は完全に私のリアルな体験ではないけれど、いろんな感情や空気感を混ぜ込んだ“瞬間の真実”だった」と語っており、あくまで“感情のスナップショット”としての表現だったことを強調しています。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「I Kissed a Girl」の印象的な歌詞を抜粋し、日本語訳を添えて紹介します。

This was never the way I planned
Not my intention

こんなつもりじゃなかった
私の計画にこんな展開はなかった

I got so brave, drink in hand
Lost my discretion

手にはお酒、ちょっと勇気が出て
理性をちょっと失っただけ

It’s not what I’m used to
Just wanna try you on

私はこんなタイプじゃないけど
ちょっと試してみたかったの

I’m curious for you
Caught my attention

あなたが気になってた
興味を惹かれてしまったの

I kissed a girl and I liked it
The taste of her cherry chapstick

女の子にキスをしたの、しかも悪くなかった
あのチェリーのリップの味、忘れられない

I kissed a girl just to try it
I hope my boyfriend don’t mind it

ちょっと試してみたかっただけ
彼氏が気にしないといいけど…

It felt so wrong, it felt so right
Don’t mean I’m in love tonight

間違ってるようで、正しい気もして
でも今夜、恋に落ちたわけじゃないの

歌詞引用元: Genius – I Kissed a Girl

4. 歌詞の考察

「I Kissed a Girl」は、ジャンルとしてはキャッチーなポップロックでありながら、その歌詞は“性的好奇心”と“自己認識のゆらぎ”という極めてセンシティブなテーマに触れています。語り手は「こんなこと初めて」「間違っているかも」と言いながらも、その経験を否定せず、「悪くなかった」と率直に語っています。この両義的な感情こそが、現代的な人間のリアルな心の動きとして共感を集めた所以でしょう。

特に「It felt so wrong, it felt so right(間違ってるようで、正しい気もした)」というラインは、自己と社会規範とのズレ、内なる欲望と道徳との葛藤を表す名フレーズであり、“自由と罪悪感”のせめぎ合いを1行で表現しています。

また、主人公は自分を「こういうタイプじゃない」としながらも、その“型”を超えていく。ここに、アイデンティティが固定されたものではなく、流動的でありうるという柔軟な視点があり、当時のポップスの中でも先鋭的でした。

同時に、この曲は「人は自分の中にある新しい一面に触れたとき、どんな反応をするのか」という心理実験的な側面も持っており、単なる“禁断のキス”を描いた歌ではなく、自己探求としての恋愛と衝動をユーモラスに描いた物語でもあるのです。

歌詞引用元: Genius – I Kissed a Girl

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Girls/Girls/Boys by Panic! At The Disco
    性的アイデンティティの多様性をテーマにしたロックポップ。境界を曖昧にする感覚が共通する。

  • Cool for the Summer by Demi Lovato
    「I Kissed a Girl」の“ちょっと試したい”を継承するようなテーマとサウンドを持つセクシーなポップ。

  • Secrets by Mary Lambert
    自分のありのままを肯定するリリックが魅力のエンパワーメントソング。オープンな自己開示が共鳴する。

  • Bloom by Troye Sivan
    曖昧さや柔らかさをテーマにしたLGBTQ+の恋愛表現を繊細に描く、美しいポップソング。

6. “キス”の先にある、アイデンティティのゆらぎと可能性

「I Kissed a Girl」は、2000年代後半のポップミュージックにおいて、セクシュアリティや好奇心のあり方に一石を投じた挑戦的な楽曲です。その“衝撃性”と“軽やかさ”の両立こそが、Katy Perryというアーティストの才能を象徴しています。

ただのセンセーショナルな一発屋ではなく、この曲がこれほど長く人々に記憶されているのは、そこに込められた“心の動揺”や“瞬間の正直さ”が普遍的だからです。人は誰でも、自分の中に知らなかった面を持っている。それを発見する瞬間に、恐れと喜びが同時にやってくる——そんな“人間らしいゆらぎ”を、この曲はポップソングという形式で見事に描ききっています。

ケイティ・ペリーの「I Kissed a Girl」は、単なる話題作ではなく、“ありえたかもしれない自分”に出会う瞬間を描いた、現代的な自己発見のポップ・アンセムなのです。

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