発売日: 2019年9月13日
ジャンル: フォークロック、アメリカーナ、インディーフォーク
The Lumineersの3枚目のスタジオアルバムIIIは、これまで以上に深い物語性を持ったコンセプトアルバムだ。3つの章からなるこのアルバムは、架空の家族「スパークス一家」を中心に、愛、喪失、依存、トラウマといったテーマを描いている。
各楽曲がストーリーの一部として機能し、アルバム全体が一つの壮大な物語として構成されているのが特徴だ。プロデューサーは前作に続きSimon Feliceが務め、ミニマルでありながらも深い感情を引き出すアレンジが際立つ。特に、アコースティック楽器を中心としたサウンドは、The Lumineers特有の温かみを持ちながらも、アルバムの持つ重く暗いテーマにしっかりと寄り添っている。
各章と楽曲ごとの解説
第1章: グロリア(Gloria Sparks)
1. Donna
アルバムのオープニングを飾る静謐な楽曲。家族の苦悩を暗示する歌詞が、穏やかなピアノとともに展開される。悲しみと優しさが同居する一曲。
2. Life in the City
躍動感のあるリズムが印象的なトラックで、グロリアの人生の苦闘を描写している。都会での孤独や葛藤が、歌詞と音楽に込められている。
3. Gloria
アルバムのリードシングルで、依存症をテーマにした楽曲。キャッチーなメロディと暗いテーマのコントラストが印象的で、物語の核となる一曲。
第2章: ジミー(Jimmy Sparks)
4. It Wasn’t Easy to Be Happy for You
軽快なリズムに乗せて、裏切りと悲しみを描いた楽曲。ジミーの苦悩が、歌詞とアレンジに現れている。
5. Leader of the Landslide
物語の中でも特にドラマチックなトラックで、愛と裏切り、家庭内の緊張がテーマ。ギターの繊細なアルペジオと感情的なボーカルが心を打つ。
6. Left for Denver
静かなメロディと内省的な歌詞が特徴の楽曲。ジミーが抱える孤独と葛藤が詩的に描かれている。
第3章: ジュニア(Junior Sparks)
7. My Cell
控えめなアレンジが際立つトラックで、孤独や希望を描いた歌詞が心に響く。ストーリーの中でジュニアの視点が丁寧に描写されている。
8. Jimmy Sparks
タイトルにもなっているジミーの物語を締めくくる楽曲。重厚なピアノと暗いトーンのメロディが、物語の結末に緊張感を与えている。
9. April
短いインストゥルメンタルトラックで、アルバムのクライマックスに向けた静かな余韻を提供する。
10. Salt and the Sea
アルバムのラストを飾る感動的なトラック。救済や希望をテーマにした歌詞が、静かなメロディに乗せて歌われる。スパークス一家の物語を締めくくるにふさわしい一曲。
フリーテーマ:物語と音楽が融合した壮大なコンセプトアルバム
IIIは、ストーリーテリングと音楽が見事に融合した作品だ。それぞれの楽曲が物語の一部として機能し、聴き手に感情的な深みを提供している。依存症や家庭の葛藤といった重いテーマを扱いながらも、The Lumineers特有の親しみやすいメロディがそれを和らげ、聴き手をアルバム全体の旅へと誘う。
映像作品としての短編映画がアルバムのプロモーションとして公開されており、楽曲と物語が視覚的にも補完されている点も、この作品のユニークさを際立たせている。
アルバム総評
IIIは、The Lumineersがフォークロックの枠を超えて、ストーリーテリングを中心に据えた音楽的挑戦を成功させたアルバムだ。シンプルなアコースティックサウンドと、深いテーマを持つ歌詞が見事に融合し、聴き手に強烈な印象を与える。特に「Gloria」や「Leader of the Landslide」、「Salt and the Sea」といった楽曲は、彼らの代表作として長く愛されるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Cleopatra by The Lumineers
物語性と感情的な楽曲が共通するバンドの2作目。
The Suburbs by Arcade Fire
家庭や成長をテーマにしたストーリーテリングが魅力の作品。
For Emma, Forever Ago by Bon Iver
内省的な歌詞とシンプルなアレンジが共通するアルバム。
Barton Hollow by The Civil Wars
フォークとアメリカーナを融合させた叙情的な作品。
Lost in the Dream by The War on Drugs
孤独や再生をテーマにした深い音楽性が共通する一枚。
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