1. 歌詞の概要
「I Will Come to You」は、アメリカの兄弟バンドHanson(ハンソン)が1997年にリリースした楽曲で、メジャーデビューアルバム『Middle of Nowhere』に収録されている。大ヒット曲「MMMBop」や「Where’s the Love」のあとにリリースされたこのシングルは、彼らの持つもう一つの側面——繊細でエモーショナルなバラード性を、世界中に印象づけることとなった。
この曲は、文字通り「あなたがつらいとき、悲しいとき、どこにいても私はあなたのもとへ行く」という誓いを描いている。恋愛とも、友情とも、家族愛ともとれる曖昧な関係性のなかで、唯一確かなのは「相手を想い、寄り添おうとする心」だけ。誰かが孤独や不安の中にあるとき、自分の存在がその人の光になることを願う——そんな誠実で、無垢な祈りのようなメッセージが、楽曲全体に満ちている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Hansonは、1997年にアルバム『Middle of Nowhere』でメジャーデビューを果たした際、単なる“若くてかわいい”兄弟バンドとしてだけでなく、卓越したソングライティングと演奏力を備えた“本物のアーティスト”として世界中から注目を浴びた。「I Will Come to You」はその中でも特に内省的かつエモーショナルな一曲であり、当時13歳だったテイラー・ハンソンの圧倒的なボーカルが話題となった。
この楽曲はバンド自身の手によって書かれたもので、当初からバラードとして構想されていた。プロデューサーには、モータウンの流れを汲むStephen Lironiらが参加し、ゴスペル的なハーモニーとストリングスが重厚な深みを加えている。ヨーロッパでは特に人気が高く、イギリスやアイルランドをはじめとした多くの国でトップチャート入りを果たした。
この曲を通じてHansonは、「MMMBop」のようなキャッチーさとは異なる“心の奥に語りかける力”を見せつけ、長期的な支持を得る足がかりを築いたのである。
3. 歌詞の抜粋と和訳
When you have no light to guide you
もしも光を失って、道が見えなくなったときAnd no one to walk beside you
そばに歩いてくれる人がいなくなったとしてもI will come to you
僕が君のもとへ行くよOh, I will come to you
そう、どこまでも会いに行くWhen the night is dark and stormy
夜が暗く、嵐のように荒れているときもYou won’t have to reach out for me
君の方から手を伸ばさなくてもいいんだI will come to you
僕の方から君のところへ向かうよ
引用元: Genius Lyrics – Hanson / I Will Come to You
4. 歌詞の考察
この曲の歌詞は、きわめてシンプルで直接的だが、だからこそ余計な言葉を排して“心そのもの”に触れるような強さがある。「I will come to you」という一節は、まるで祈りのようであり、相手の存在を信じ、支えようとする意思の結晶である。
興味深いのは、この楽曲が具体的な「恋人」「親」「友達」といったラベルを一切使っていない点だ。それによって、リスナーは自分自身の人生の誰か、大切な存在とこの歌詞を重ね合わせることができる。聴くたびに、“自分が必要としている誰か”“かつて手を差し伸べてくれた誰か”を思い出させる力がある。
また、宗教的な文脈でこの曲を捉える人も少なくない。実際、ストリングスやゴスペル風コーラスが醸す荘厳な空気は、魂の救済や無償の愛を連想させる要素を多分に含んでいる。だがそのメッセージは決して重くなく、むしろ誰にでも優しく寄り添ってくれる。
若干の揺らぎを含んだ少年の声で「君を助けるために行くよ」と歌われるからこそ、この曲はより一層、純粋で美しい響きを持つのだろう。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Angels” by Robbie Williams
守るべき誰かへの思いを歌ったUKバラードの名作。救済と愛のテーマが共鳴する。 - “Hero” by Enrique Iglesias
「君を守りたい」という誓いが込められた情熱的なラブソング。 - “Fix You” by Coldplay
大切な人の苦しみを和らげるために寄り添う、心の深くに届くバラード。 - “You Raise Me Up” by Josh Groban
静かで力強いサポートをテーマにした、スピリチュアルな楽曲。 - “Un-break My Heart” by Toni Braxton
喪失と再生をテーマにしたバラード。切実さと情感の豊かさが共通する。
6. “静かなる約束”が残すもの
「I Will Come to You」は、Hansonというバンドの“優しさ”の本質が最もよく現れている楽曲の一つである。華やかなポップナンバーやアップビートなロックチューンではなく、こうした静かで柔らかな曲を通して、彼らは聴き手の“孤独”や“不安”にそっと寄り添ってきた。
この曲が放たれた1997年は、ボーイバンド戦国時代でもあり、派手なビジュアルやキャッチーなサウンドでの競争が激化していた。そんな中で、彼らが「静けさ」と「誓い」の力でリスナーを包み込んだことは、Hansonという存在をただのブームで終わらせなかった大きな要因だろう。
「君のそばに行くよ」と約束してくれる誰かがいる。そのこと自体が、どれほど人の心を救うか——それを体現したのが、この「I Will Come to You」なのである。どんな時代にも、どんな人にも、そっと手を差し伸べてくれるような、永遠に色褪せない“心の居場所”のような一曲である。
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