発売日: 1997年4月22日
ジャンル: インディーロック、ドリームポップ、ノイズポップ、オルタナティブロック
Yo La Tengoの9作目となるアルバム「I Can Hear the Heart Beating as One」は、インディーロック史に残る傑作として評価される作品である。アイラ・カプラン、ジョージア・ハブレイ、ジェームズ・マクニューの3人が織りなすサウンドは、ノイズポップ、ドリームポップ、フォーク、エレクトロニカなど、ジャンルの枠を超えた広がりを見せ、Yo La Tengoの多様な音楽性が詰まった一枚だ。プロデューサーにはロジャー・マウントンとジョン・マッケンタイアを迎え、彼らの指導のもとで、繊細かつ実験的なサウンドが構築されている。
「I Can Hear the Heart Beating as One」は、Yo La Tengoが得意とするノイズとメロディの融合が際立ち、リラックスした雰囲気と感情の深さが同居している。心地よいループ、浮遊感のあるギター、控えめなボーカルが、リスナーを心地よいトリップへと導くような、夢幻的なサウンドスケープが広がる。全16曲、70分にわたる壮大な音楽体験を提供し、バンドの実験精神と創造性が極限まで発揮されている。
各曲解説
1. Return to Hot Chicken
アルバムのイントロは、穏やかなインストゥルメンタル。メランコリックなギターが優しく響き、アルバム全体の温かみと親しみやすさを感じさせるオープニングだ。
2. Moby Octopad
独特のドラムループとシンセサイザーが絡み合い、浮遊感のあるビートが特徴の一曲。アイラのボーカルがミステリアスに響き、まるで夢の中をさまようような感覚を生み出す。ドリームポップ的なムードが印象的。
3. Sugarcube
力強いギターリフとキャッチーなメロディで構成された「Sugarcube」は、アルバムの中でも特にポップでエネルギッシュなナンバーだ。ノイズの中に織り込まれたメロディが耳に残り、シンプルながらも中毒性のある楽曲。
4. Damage
ジョージア・ハブレイのソフトなボーカルが際立つバラードで、静かなギターとメランコリックなメロディが心に染みる一曲。感情のこもった歌唱が切なさを引き立て、アルバムの中でも特に感傷的な瞬間を提供する。
5. Deeper Into Movies
ノイズポップの影響が強く感じられるこの曲は、ディストーションの効いたギターが際立ち、バンドのエネルギーが溢れている。疾走感と高揚感があり、シンプルながらもエモーショナルなインディーロックの真髄が詰まった一曲。
6. Shadows
淡いボーカルとミニマルなアレンジが特徴の「Shadows」は、内省的でメランコリックなムードが漂う。シンプルなメロディと繰り返されるリフが心地よく、深い感情を引き出す静かな力を持っている。
7. Stockholm Syndrome
ジェームズ・マクニューがボーカルを務めるアコースティックなナンバーで、フォーク調の温かみのあるメロディが印象的。ノイズを抑えたシンプルなサウンドが、リスナーに安らぎをもたらす。歌詞も含め、温かさと切なさが同居する楽曲だ。
8. Autumn Sweater
エレクトロニックなドラムとオルガンが絡み合うサウンドが特徴の「Autumn Sweater」は、恋愛の不安やもどかしさを描いた曲。緩やかなビートと控えめなボーカルが、聴く者に心地よいリズムを提供し、Yo La Tengoの代表曲のひとつとして知られている。
9. Little Honda
The Hondellsのカバー曲で、Yo La Tengoが持つユーモアと遊び心が感じられるアップテンポなナンバー。シンプルなロックンロールサウンドで、バンドの多彩な側面が垣間見える。
10. Green Arrow
9分に及ぶインストゥルメンタルで、緩やかなギターリフと静かなリズムが繰り返されるアンビエント調のトラック。自然の音や環境音が交じり合い、まるで瞑想のような静けさが広がる。
11. One PM Again
控えめで内省的なこの曲は、短くもメロディアスなフォーク調のナンバー。シンプルで心地よいメロディが、リスナーに温かさと親近感を与える。
12. The Lie and How We Told It
ギターとシンセが生み出す音の壁が幻想的なトラックで、浮遊感があり、ノイズポップ的なアプローチが際立つ。メランコリックなサウンドが織り成す空間は、Yo La Tengoの音楽の深さを感じさせる。
13. Center of Gravity
ボサノヴァ風のリズムと軽やかなメロディが心地よい曲で、Yo La Tengoの柔軟な音楽性を象徴する一曲。優しくリラックスしたムードが漂い、カプランとハブレイの掛け合いが温かみを加えている。
14. Spec Bebop
10分近くの長尺曲で、サイケデリックなノイズとループが混ざり合った実験的なトラック。即興的な演奏が続き、サウンドの多様な展開が聴き手を引き込む。
15. We’re an American Band
ユーモアのある軽快なフォークナンバーで、バンドの仲間意識が感じられる一曲。親しみやすくシンプルで、アルバムの中でも異彩を放つ。
16. My Little Corner of the World
アルバムのラストを飾るこの曲は、アンディーズによるカバーで、ジョージアの穏やかなボーカルが優しく響く。アルバム全体の締めくくりにふさわしい、温かく安らぎに満ちたトラックだ。
アルバム総評
「I Can Hear the Heart Beating as One」は、Yo La Tengoの音楽的な冒険と幅広い表現力が詰まった一枚であり、バンドがインディーロックの先駆者としての地位を確立した作品だ。ノイズ、ドリームポップ、フォーク、ボサノヴァなどさまざまなジャンルが融合し、リスナーを豊かな音の旅へと誘う。時に激しく、時に穏やかなサウンドが多様な感情を呼び起こし、繊細かつ実験的なアプローチが光る。Yo La Tengoの最高傑作のひとつとして、多くのファンに愛され続けるだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
And Then Nothing Turned Itself Inside-Out by Yo La Tengo
静謐で内省的なムードが漂う、Yo La Tengoの中でも特に感情的な作品。ノイズの中に秘められた優しさが、リスナーに響く。
Loveless by My Bloody Valentine
シューゲイザーの金字塔で、ノイズと美しいメロディが「I Can Hear the Heart Beating as One」と共通する。
Crooked Rain, Crooked Rain by Pavement
90年代のインディーロックの代表作。ラフでありながらキャッチーなサウンドが、Yo La Tengoファンにとっても楽しめる。
The Soft Bulletin by The Flaming Lips
サイケデリックな要素とエモーショナルなリリックが融合したアルバムで、幻想的なサウンドが共通している。
On Fire by Galaxie 500
ドリームポップの名盤。穏やかなメロディと内省的な歌詞が、Yo La Tengoの静謐で深い音楽性と重なる。
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