1. 歌詞の概要
「Hitza Hitz(ヒッツァ・ヒッツ)」は、バスク出身の音楽家 Fermin Muguruza(フェルミン・ムグルサ) による2000年の楽曲であり、タイトルのバスク語「Hitza Hitz」は直訳すると「言葉は約束」、あるいは「言葉は言葉としての重みを持つ」といった意味になる。
この曲は、言葉の力、語ることの責任、そして沈黙することへの拒絶をテーマとし、音楽とメッセージが一体化した、レジスタンス詩としてのサウンド・アートである。
フェルミンはこの楽曲において、言葉が奪われ、捻じ曲げられ、使い捨てにされる現代社会において、それでも“真実の言葉”を語り続けることの意味を問う。
それは、詩人として、アクティビストとして、ミュージシャンとして、彼が一貫して発してきたメッセージの中心でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
この楽曲は、2000年にリリースされたソロアルバム『In-komunikazioa』に収録された。
「In-komunikazioa(非通信)」とは、スペイン語の法的・警察用語であり、“連絡・接見禁止状態”を意味する。つまり、逮捕された者が外部との接触を一切断たれた状態、あるいは国家権力による沈黙の強制を象徴するタイトルである。
そのようなコンセプト・アルバムの中において、「Hitza Hitz」は核心を担う存在だ。
バスク語で歌われるこの曲は、少数言語に宿る文化的アイデンティティと、発話を通じた抵抗の行為を結びつけ、言葉こそが自由の源であるという信念を鳴らす。
この楽曲のリリース当時、スペインおよびフランスでのバスク分離独立運動とそれに対する弾圧は非常に緊張感をはらんでおり、“言葉を持つ者”としての責任が問われる時代背景の中で生まれた一曲である。
3. 歌詞の抜粋と和訳(意訳)
“Hitza hitz, ezin da isildu”
「言葉は言葉、沈黙することはできない」“Ez dut beldurrik, ez dut barkamenik eskatuko”
「私は恐れない、許しを乞うつもりもない」“Egia da gure armarik indartsuena”
「真実こそが、私たちの最も強い武器だ」“Hitzak dira gure balak”
「言葉は私たちの弾丸だ」
これらの詩句は、音楽にのせた言葉が単なる娯楽ではなく、武器であり、連帯の手段であり、歴史の記録であることを力強く宣言している。
とりわけ「Hitzak dira gure balak(言葉は弾丸だ)」というフレーズは、Ferminの音楽哲学そのものを象徴する名言である。
4. 歌詞の考察
「Hitza Hitz」は、言葉がいかにして沈黙に抵抗し、抑圧を撃ち抜くかを描いた、音楽による言語哲学の実践である。
Fermin Muguruzaは、この曲において、言葉を発するという行為そのものが“政治的な選択”であることを明確に示す。
「言葉は約束である」「言葉を裏切らない」——その感覚は、権力によって奪われる表現の自由、操作される報道、個人に課せられる自己検閲といった現代的課題にも通じる。
また、バスク語という“マイノリティ言語”を使用している点も極めて重要である。
それは言語という文化資本が、国家的な抑圧によって消される可能性のある危ういものであることを示しており、この曲の中でFerminは**“話すことそのものが抵抗になる”**という感覚を、ビートとともに叩きつけている。
音楽的には、ダブやエレクトロニカ、ヒップホップの要素が融合され、“言葉の断片がループしながらも、消されずに響き続ける”という構造自体が、テーマと強くリンクしている。
これはまさに、形式と内容が一体化したプロテスト・サウンドの好例である。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “They Don’t Care About Us” by Michael Jackson
音楽を通して社会の不正義に対抗する姿勢が共通する。 - “Freedom of Speech” by Ice-T
言葉と表現の自由を主題にしたヒップホップの反骨ソング。 - “Txus” by Negu Gorriak
Ferminのかつてのバンドによる代表作。同じく言語と抑圧が主題。 - “Power to the People” by John Lennon
言葉が政治的力を持つという思想を世界規模で展開した名曲。 -
“Rap del Exilio” by Ana Tijoux
スペイン語圏における亡命とアイデンティティをテーマにした叙情的なラップ。
6. 沈黙することは、屈すること——“語る”という抵抗の詩
「Hitza Hitz」は、Fermin Muguruzaという存在がいかにして音楽と政治、詩と現実、言葉と武器を一体化させてきたかを象徴する名曲である。
この曲は叫ばない。だが、静かに燃えるような意志を持っている。
それは、“言葉の尊厳”を守ろうとする姿勢であり、
それゆえに、“話すこと”そのものが最もラディカルな行為になる瞬間を描いている。
沈黙が強いられる時代に、
語ること、書くこと、歌うことは、
ただの表現ではなく、“存在の証明”になる。
Ferminはその信念を、打ち込むようなビートと共にこう言うのだ——
「Hitza hitz. 言葉は、約束だ」。
そしてその約束は、誰かの耳に届いたときに、未来の希望へと変わるのかもしれない。
コメント