発売日: 1994年4月18日
ジャンル: ブリットポップ、オルタナティブ・ロック
Pulpの4thアルバム『His ‘n’ Hers』は、バンドがブリットポップのシーンで本格的に成功を収めるきっかけとなった作品だ。1990年代のブリットポップムーブメントの中で、BlurやOasisと並んで注目されたこのアルバムは、ジャーヴィス・コッカーの鋭い観察眼と、風刺に満ちた歌詞が特徴的。性的なテーマや人間関係の不条理を描く彼の詞と、ドラマチックかつキャッチーなサウンドが見事に融合し、Pulpの独自のスタイルを確立した。『His ‘n’ Hers』は、後の傑作『Different Class』への布石となる重要なアルバムであり、Pulpが真の意味で世に名を知らしめた作品といえる。
各曲ごとの解説:
- Joyriders
反抗的でややシニカルな歌詞が特徴のオープニングトラック。ティーンエイジャーの無軌道な行動をテーマに、軽快なギターリフと疾走感のあるリズムが曲全体を支えている。ジャーヴィス・コッカーの皮肉たっぷりのボーカルが楽曲をさらに引き立てている。 - Lipgloss
アルバムのシングル曲であり、失恋とアイデンティティをテーマにしたキャッチーな一曲。切ないメロディと、ジャーヴィスの感情的なボーカルが融合し、哀愁とポップが絶妙なバランスで展開されている。ギターのリフが印象的で、アルバム全体のトーンを決定づける楽曲だ。 - Acrylic Afternoons
日常の中の性的な緊張感をテーマに描いた楽曲。ダークで緊張感のある雰囲気が漂い、ジャーヴィス・コッカーの独特の語り口調が印象的。ミステリアスなメロディと軽快なリズムが曲の緊迫感を高めている。 - Have You Seen Her Lately?
内省的で少しメランコリックな楽曲。失恋や変わりゆく感情をテーマにしており、ドラマチックなメロディとジャーヴィスの優しさと悲しみを含んだボーカルが響く。感情的に豊かな楽曲で、アルバムの中でも特に感傷的な一曲だ。 - Babies
『His ‘n’ Hers』の代表曲で、青春の混乱や性的な好奇心を描いた物語的な楽曲。キャッチーなギターリフと軽快なリズムが特徴で、ジャーヴィス・コッカーの語り口調のボーカルが曲にユーモアと哀愁を加えている。Pulpの名曲の一つとして今でも評価が高い。 - She’s a Lady
性的なパワーダイナミクスを扱った、ドラマチックな楽曲。サイケデリックな要素も感じられるサウンドが、複雑な人間関係の緊張感を表現している。曲全体を覆うミステリアスな雰囲気が、アルバムに深みを与えている。 - Happy Endings
儚い恋愛をテーマにした、ミッドテンポのバラード。切ないメロディと、ギターとストリングスが重なり合い、ジャーヴィスの感情豊かなボーカルが感動的に響く。ロマンチックでありながら、甘酸っぱさを残す一曲。 - Do You Remember the First Time?
シングルとしてもリリースされたこの曲は、初めての経験や若さをテーマにした青春のアンセム的な一曲。キャッチーでノスタルジックなメロディが心に残り、ジャーヴィスのウィットに富んだ歌詞と感情的なボーカルが特徴。アルバムのハイライトの一つ。 - Pink Glove
恋愛における支配や束縛をテーマにした楽曲。ダークなギターサウンドとシンセサイザーが、サスペンスフルな雰囲気を作り出している。セクシャルなテーマを扱いつつも、感情的なボーカルが楽曲に深みを与えている。 - Someone Like the Moon
メランコリックでミステリアスな雰囲気が漂う一曲。シンセサウンドが夜空を連想させ、歌詞は孤独感や疎外感をテーマにしている。ジャーヴィスの繊細なボーカルと、曲の持つ幻想的な要素が調和している。 - David’s Last Summer
青春の終わりと喪失感をテーマにした、アルバムを締めくくる一曲。長尺の楽曲でありながら、変化に富んだ展開と美しいメロディが最後まで飽きさせない。ノスタルジックで感動的なエンディングを迎える壮大な楽曲だ。
アルバム総評:
『His ‘n’ Hers』は、Pulpがブリットポップシーンでの地位を確立した重要なアルバムであり、バンドの個性が全開に発揮された作品だ。ジャーヴィス・コッカーの観察眼に基づいた鋭い歌詞と、バンドのドラマチックでキャッチーなサウンドが見事に融合している。性的なテーマや人間関係の機微を描いた歌詞は、ウィットとユーモア、そして哀愁を兼ね備えており、Pulpのスタイルが確立された一枚だ。後の『Different Class』での爆発的な成功の前兆とも言える、完成度の高いアルバムである。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚:
- Parklife by Blur
ブリットポップの代表作で、社会観察や風刺的な歌詞がPulpのスタイルに通じる部分が多い。キャッチーなメロディとユーモラスな歌詞が魅力。 - The Queen Is Dead by The Smiths
モリッシーの風刺的な歌詞とメロディアスなサウンドが特徴の名作。Pulpの皮肉混じりのスタイルを楽しむ人にはぴったりのアルバム。 - Definitely Maybe by Oasis
ブリットポップのもう一つの象徴的作品。エネルギッシュでキャッチーなロックサウンドとともに、青春や反抗をテーマにしており、Pulpのファンにも響く内容。 - Elastica by Elastica
90年代のインディーロックの名盤で、シンプルなギターサウンドとウィットに富んだ歌詞が特徴。ブリットポップファンにとって必聴の一枚。 - Suede by Suede
ブリットポップの先駆けとも言える作品。グラムロックとオルタナティブロックが融合したサウンドで、Pulpの初期作品と共鳴する部分が多い。
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