発売日: 2010年5月10日
ジャンル: インディーロック、ポストパンクリバイバル
The Nationalの5作目「High Violet」は、バンドの名声を確立し、彼らのサウンドを一段と深く、洗練されたものに進化させたアルバムである。前作「Boxer」で見せた都会の孤独や内省的な感情表現をさらに押し進め、マット・バーニンガーの渋いバリトンボイスと詩的な歌詞が、個人の葛藤や喪失、そして微かな希望を描き出している。アーロン・デスナーとブライス・デスナーの兄弟によるギターと繊細なアレンジメントが、アルバム全体に一貫した緊張感と叙情性を与え、ダークでシネマティックな世界観が広がる。
アルバムは、バンドが精密に構築した音響空間と深い感情表現の融合を成し遂げており、ピアノやブラス、ストリングスといった豊かなアレンジが特徴的だ。切なさと壮大さが共存するサウンドスケープが、「High Violet」をThe Nationalの代表作として多くのリスナーに愛される作品にしている。
各曲解説
1. Terrible Love
アルバムの幕開けを飾る「Terrible Love」は、不穏なギターリフと力強いドラムで始まり、次第に熱を帯びていく。バーニンガーの歌う愛と苦悩の物語が、バンドの緊張感ある演奏と共鳴し、楽曲が壮大なクライマックスへと向かう。
2. Sorrow
タイトル通り、悲しみをテーマにした「Sorrow」は、静かに心に染みる一曲。繰り返されるシンプルなメロディと、バーニンガーの淡々としたボーカルが、喪失感や孤独をじわじわと伝え、聴く者を引き込む。
3. Anyone’s Ghost
ミニマルなリズムとリフが特徴の「Anyone’s Ghost」は、都会の孤独や疎外感を描いた楽曲。繰り返されるフレーズが中毒性を持ち、バーニンガーの渋い声が切なく響く。
4. Little Faith
「Little Faith」は、抑制の効いたビートとメランコリックなギターが印象的な一曲。現代社会に対する無力感や信仰への疑念が歌われており、どこかダークで深みのある雰囲気が漂う。
5. Afraid of Everyone
不安と恐怖をテーマにした「Afraid of Everyone」は、重厚なリズムと浮遊感のあるメロディが融合し、スリリングなムードを生み出している。ヴァーノン・リードのバックボーカルが加わり、サウンドに奥行きが広がる。
6. Bloodbuzz Ohio
リードシングル「Bloodbuzz Ohio」は、力強いドラムとメランコリックなピアノが印象的。故郷と疎外感、過去と現在が交錯する歌詞が印象的で、バーニンガーのボーカルが情感たっぷりに響き渡る。アルバムを象徴する一曲で、ファンの間でも特に人気が高い。
7. Lemonworld
暗いユーモアと苦みが交錯する「Lemonworld」は、ポストパンク的な冷ややかさが漂う。抑えられたリズムと淡々としたボーカルが、失望感と希望の間で揺れる複雑な心境を表現している。
8. Runaway
優しいピアノと静かなギターが主導する「Runaway」は、切なさと希望が共存するバラード。歌詞には愛や喪失が絡み合い、バーニンガーの声が聴く者の心に深く染み渡る。
9. Conversation 16
「Conversation 16」は、焦燥感とユーモアが混じり合った一曲。ダークな歌詞と軽やかなメロディが対比され、「I was afraid I’d eat your brains」といった不安や恐怖が皮肉を交えて歌われている。
10. England
「England」は、ストリングスとピアノの壮大なアレンジが際立つ楽曲で、切なさが美しく響き渡る。現実と夢の狭間を彷徨うような感覚が、バンドの演奏とバーニンガーのボーカルにより見事に表現されている。
11. Vanderlyle Crybaby Geeks
アルバムを締めくくる「Vanderlyle Crybaby Geeks」は、アコースティックなギターが中心のエモーショナルなナンバー。繊細なメロディとバーニンガーの歌声が胸を締め付け、アルバム全体の余韻を深めている。
アルバム総評
「High Violet」は、The Nationalのサウンドが完成された一枚で、悲しみや孤独、不安が詩的に表現されたアルバムだ。バーニンガーの深い声が織りなすシリアスな歌詞と、バンドの精緻な演奏が一体となり、ダークでシネマティックな音楽体験を提供する。重厚なサウンドと緻密なアレンジが、まるで都会の風景の中で感じる喪失感や孤独感を映し出しているかのようだ。The Nationalの代表作として、多くのリスナーに支持され続けている名盤である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
In Rainbows by Radiohead
エモーショナルで内省的なサウンドと緻密なアレンジが「High Violet」と響き合う。シネマティックな音の旅が楽しめる。
Turn on the Bright Lights by Interpol
冷たさと孤独感が漂うポストパンクの名作で、メランコリックなサウンドがThe Nationalファンに響く一枚。
Hospice by The Antlers
悲しみと希望が共存するアルバムで、繊細な感情が詰まった作品。The Nationalのダークな側面と共鳴する。
The Suburbs by Arcade Fire
社会的テーマと個人的な葛藤を描いた壮大な作品で、「High Violet」と同様に叙情的なサウンドスケープが広がる。
Trouble Will Find Me by The National
「High Violet」の次作で、バンドの成熟したサウンドと深い感情表現が楽しめる。The Nationalファンにとっても必聴のアルバム。
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