
1. 歌詞の概要
「Heroes(ヒーローズ)」は、The Wallflowers(ザ・ウォールフラワーズ)が1998年に映画『ゴジラ』(アメリカ版リメイク作品)のサウンドトラックのためにカバーした楽曲であり、原曲はデヴィッド・ボウイ(David Bowie)が1977年に発表した名曲中の名曲である。
ボウイのオリジナルは東西冷戦のベルリンの壁を背景に“刹那の愛と希望”を歌ったものだったが、The Wallflowersによるこのヴァージョンでは、より抑制され、アメリカン・ロック的な硬質な響きを帯びたアレンジが施されており、新たな感情の層を加えている。
歌詞の本質は変わらず、「一瞬でもヒーローになれる」という、希望と儚さの同居するテーマが貫かれている。
その“ヒーロー”とは決して超人的な存在ではなく、ごく普通の人間が、ある瞬間だけ立ち上がり、愛し合い、何かを守ることのできる存在であるという視点が特徴的である。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Wallflowersが「Heroes」をカバーしたのは、1998年公開のハリウッド映画『GODZILLA』のサウンドトラックのためであり、同サントラにはほかにもGreen Day、Foo Fighters、Jamiroquaiなど当時の人気アーティストが多数参加していた。
このバージョンは映画本編中でも使用され、サウンドトラックのプロモーションの一環としてMTVなどでも頻繁に流され、The Wallflowersの代表曲のひとつとしても知られるようになった。
ヤコブ・ディラン(Jakob Dylan)の落ち着いた低音ボーカルは、ボウイのドラマチックな原曲とは対照的に、より現実的で等身大の感情を浮かび上がらせており、「ヒーロー」という言葉の意味を“偶像”から“日常の中の強さ”へと引き寄せている。
サウンド面でも、オリジナルのアンビエントで浮遊感あるサウンドとは異なり、ギターの歪みとバンドアンサンブルの重厚さが“都市の夜”や“戦いの気配”を想起させる作りとなっている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Heroes」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“We can be heroes / Just for one day”
「僕たちはヒーローになれる / たった一日だけでも」
“We can beat them / Just for one day”
「彼らに打ち勝てるかもしれない / ほんの一日でも」
“Though nothing will drive them away / We can be heroes”
「どんな手を尽くしても彼らを追い払えなくても / 僕たちはヒーローになれるんだ」
“I, I can remember / Standing by the wall”
「覚えているよ / 壁のそばに立っていたことを」
歌詞全文はこちらで確認可能:
David Bowie – Heroes Lyrics | Genius
※The Wallflowersのバージョンは歌詞自体に大きな変更はなく、構成・演奏スタイルに違いがあります。
4. 歌詞の考察
「Heroes」は、デヴィッド・ボウイによる原曲からして、政治的・文化的象徴性の強い楽曲であり、それをThe Wallflowersが現代的(当時の1998年)な文脈で再解釈したことに大きな意味がある。
このバージョンでは、世界の構造や歴史に抗うようなメッセージよりも、むしろ“日常の中にある英雄性”や、“失われた希望をかき集めるような歌”としての意味合いが強まっている。
ヤコブ・ディランの控えめで内省的な歌い方は、「ヒーロー」という言葉に宿るキラキラしたニュアンスを脱色し、あくまでも“ありふれた人間の中の微かな強さ”を強調している。
それは、無力であっても手をつなぐこと、恐れても立ち向かうこと、誰かを守ろうとすることの中にこそ、ヒーロー性が宿るという提示である。
映画『GODZILLA』という、破壊とパニックに満ちたコンテクストの中でこの曲が流れることで、なおさらその“静かなヒロイズム”が際立ち、破壊と混沌の中にも人間的な小さな光を見出すことができるようになっている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Into the Fire by Bruce Springsteen
悲劇の中で立ち上がる人々の姿を静かに讃えた、真のヒーローたちへの歌。 - Run by Snow Patrol
愛と別れ、そして“守る”という行為に宿る強さを壮大に描いたバラード。 - The Rising by Bruce Springsteen
9.11を受けて書かれた現代の“祈りと再生”のアンセム。 - Fix You by Coldplay
誰かの苦しみを少しでも和らげようとする無力な優しさと献身。 - Lightning Crashes by Live
命の循環と喪失を包み込む、宗教的ともいえる叙情的なオルタナティブ・ロック。
6. “ヒーローであることは、ほんの一瞬の勇気かもしれない”
The Wallflowersによる「Heroes」は、原曲が持っていた“ロックの神話性”を、よりリアルで日常的な領域に引き寄せ、そこに「人間らしさ」という強さを宿らせたバージョンである。
それは、戦場でもなく革命でもない、都市の一角や、誰かのそばでそっと立ち尽くすこと。
決して大仰ではないが、その一歩にこそ“英雄”の意味が宿るという、静かなメッセージなのだ。
このカバーは、私たちが誰かのために動いたその瞬間が、たとえたった一日でも“ヒーローであった証”になりうることを、確かに示してくれる。
それは名もなき勇気への、美しくささやかな讃歌である。
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