アルバムレビュー：Hemispheres by Rush

アルバムレビュー

2025.03.13

発売日: 1978年10月29日
ジャンル: プログレッシブロック、ハードロック

プログレッシブロックの極限へ――Rushの技巧と構成美が頂点に達したアルバム
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総評
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プログレッシブロックの極限へ――Rushの技巧と構成美が頂点に達したアルバム

1978年にリリースされた『Hemispheres』は、Rushのプログレッシブロック路線の集大成とも言える作品であり、高度な楽曲構成と哲学的なテーマ、圧倒的な演奏技術が詰まった傑作である。本作では、前作『A Farewell to Kings』（1977年）の続編的な位置づけとなる「Cygnus X-1 Book II: Hemispheres」を収録し、バンド史上最も野心的なプログレ組曲を生み出した。

また、アルバム後半にはRushの名インストゥルメンタル曲「La Villa Strangiato」や、ダイナミックな展開を持つ「The Trees」など、バンドの技巧と作曲力が存分に発揮された楽曲が並んでいる。このアルバムをもってRushは長尺プログレから脱却し、次作『Permanent Waves』からよりコンパクトでダイレクトなロックサウンドへと移行するため、本作は彼らのプログレ時代の到達点とも言える。

全曲レビュー

1. Cygnus X-1 Book II: Hemispheres

Rushのプログレッシブロックの集大成とも言える18分超えの大作。前作『A Farewell to Kings』の「Cygnus X-1 Book I: The Voyage」の続編であり、宇宙のブラックホールに吸い込まれた主人公が、「理性（アポロ）」と「情熱（ディオニュソス）」の対立する世界へとたどり着くという壮大な物語を描く。

Prelude：力強いギターとドラマチックな展開で物語の幕を開ける。
Apollo: Bringer of Wisdom：理性を象徴するアポロの視点。リフが明確で、構築的なメロディが特徴。
Dionysus: Bringer of Love：情熱を象徴するディオニュソスの視点。流れるようなリズムと感情的なギターが対比を生む。
Armageddon: The Battle of Heart and Mind：両者の対立が激化し、激しいギターと変拍子のリズムが展開される。
Cygnus: Bringer of Balance：主人公がバランスをもたらし、調和を生み出す結末へ。ラストの壮大なコーダが印象的。

この曲はRushの哲学的なテーマとプログレッシブな構成力が最も際立った楽曲のひとつであり、ファンの間でも伝説的な一曲となっている。

2. Circumstances

アルバムの中では比較的短めな楽曲（4分半）で、シンプルながらもテクニカルな演奏が光るハードロックナンバー。
人生の浮き沈みや不条理をテーマにした歌詞が特徴で、Rushの哲学的な視点をより直接的に表現している。シンセの使い方も絶妙で、プログレとハードロックのバランスが取れた一曲。

3. The Trees

社会風刺をテーマにした、Rushの中でも最もユニークな歌詞を持つ楽曲。
森の中で樹木（オークとメープル）が対立するという比喩的なストーリーを通じて、社会階級の格差や政治的な対立を風刺している。
アコースティックギターから始まり、徐々にダイナミックな展開へと移行する構成が見事。アレックス・ライフソンのギターソロも印象的で、Rushのメロディアスな側面が強調されている。

4. La Villa Strangiato

Rush史上最も象徴的なインストゥルメンタル曲であり、10分近くにわたる圧巻の楽曲。
「夢に基づいた9つのセクション」から構成され、テクニカルなギターソロ、プログレ的な展開、ジャズ・フュージョンの要素が詰め込まれている。

Opening (Buenos Nochas, Mein Froinds)：穏やかなギターのアルペジオから始まる。
Danza de los Muertos：速いテンポのスリリングなパート。
Monsters! (Revenge of the Giant Baby)：変拍子と急激な転調が特徴的なセクション。
A Farewell to Things：アレックス・ライフソンのエモーショナルなギターソロが炸裂。
Strangiato Theme：プログレ的な展開がピークに達するフィナーレ。

この曲は、Rushの演奏力が極限まで発揮された楽曲として名高く、特にアレックス・ライフソンのギターソロは、歴代最高のギターソロの一つとも称される。

総評

『Hemispheres』は、Rushのプログレッシブロック時代の最高到達点であり、複雑な楽曲構成と技術的な演奏が極限にまで高められた作品である。
「Cygnus X-1 Book II: Hemispheres」では哲学的なテーマと壮大な物語が展開され、「La Villa Strangiato」ではインストゥルメンタルの極致が示される。まさに、70年代プログレッシブロックの美学をRushが完璧に表現したアルバムと言える。

しかし、このアルバムの制作はバンドにとっても極度に負担が大きかったと言われており、この作品を最後にRushは長尺のプログレ路線をやめ、次作『Permanent Waves』（1980年）からはよりシンプルでストレートな楽曲へと移行することになる。

プログレ好きなら絶対に聴くべきRushの代表作の一つであり、テクニカルなロックが好きな人にも強くおすすめできる名盤。