アルバムレビュー：Heaven or Las Vegas by Cocteau Twins

発売日: 1990年9月17日
ジャンル: ドリーム・ポップ, エクスペリメンタル・ロック

Cocteau Twinsの6作目『Heaven or Las Vegas』は、バンドのキャリアの中でも特に商業的・批評的に成功を収めたアルバムであり、ドリーム・ポップの頂点を極めた作品である。このアルバムでは、エリザベス・フレーザーのヴォーカルがこれまで以上に明瞭で感情的に表現され、ロビン・ガスリーのエフェクトを駆使したギターと、サイモン・レイモンドの豊かなベースラインが、夢のような音の世界を作り出している。『Heaven or Las Vegas』は、浮遊感のあるサウンドスケープ、壮大なメロディ、感情的な深みを兼ね備えた傑作であり、Cocteau Twinsの音楽性が最も豊かに表現された作品だ。

各曲ごとの解説:

1. Cherry-Coloured Funk
   　アルバムのオープニングを飾るこの曲は、柔らかなギターリフとミニマルなビートに、フレーザーの幻想的なヴォーカルが絡む。彼女の声はこの曲で特に楽器のように扱われ、歌詞は不明瞭だが、その分、音の美しさが際立っている。アルバム全体の浮遊感を予感させるトラックだ。
2. Pitch the Baby
   　明るく軽快なトラックで、エレクトロニックなビートと夢幻的なギターが絶妙に組み合わさっている。フレーザーのヴォーカルは明瞭で、言葉がはっきりと聞き取れる箇所もあり、感情がダイレクトに伝わる。リズミカルでキャッチーなメロディが印象的。
3. I Wear Your Ring
   　メランコリックな雰囲気を漂わせるバラード。フレーザーのヴォーカルは、愛や献身に対する感情を優雅に表現しており、シンセサウンドとギターがその感情を支える。全体的に穏やかで、繊細な一曲。
4. Fotzepolitic
   　活気のあるビートと明るいギターリフが特徴的なトラック。フレーザーのヴォーカルは再び抽象的な歌詞を伴いながらも、非常に感情的で、音そのものがメッセージとなっている。浮遊感とリズム感のバランスが心地よい。
5. Heaven or Las Vegas
   　アルバムのタイトル曲であり、代表曲のひとつ。シンセとギターが複雑に絡み合う中、フレーザーのヴォーカルは特にクリアで感情に溢れている。恋愛や人生の喜びと不安をテーマにしており、感情の浮き沈みを反映した壮大なトラックだ。軽快なビートとキャッチーなメロディが、聴く者を包み込む。
6. Fifty-Fifty Clown
   　浮遊感のあるシンセとリバーブの効いたギターが、この曲に特有の夢見心地を与えている。フレーザーのヴォーカルは抑制された感情を表現し、静かな力強さを感じさせる。ミステリアスでありながらも、美しく感動的な一曲。
7. Wolf in the Breast
   　軽快なテンポとキャッチーなリズムが特徴のトラック。フレーザーのヴォーカルは言葉の意味を超えて、感情を音楽として伝える。ガスリーのギターはリズミカルで、全体に軽やかな雰囲気を与えている。
8. Road, River and Rail
   　ゆっくりと進行するこの曲は、低音のベースラインとシンセサウンドが中心。フレーザーのヴォーカルは再び感情的で、アルバム全体の中でも特に内省的な雰囲気が漂う。静けさと深みのあるサウンドスケープが印象的。
9. Frou-Frou Foxes in Midsummer Fires
   　アルバムを締めくくる壮大なトラック。シンセとギターが緩やかに絡み合い、フレーザーのヴォーカルは、まるで祈りのように静かに広がっていく。壮麗な音の波がリスナーを包み込み、アルバム全体を美しく締めくくる。メロディと感情のクライマックスにふさわしいフィナーレだ。

アルバム総評:

『Heaven or Las Vegas』は、Cocteau Twinsが持つサウンドの魅力を最大限に引き出した傑作であり、ドリームポップの名盤として広く評価されている。エリザベス・フレーザーのヴォーカルは、これまで以上に感情豊かで、明瞭さが増し、ロビン・ガスリーのギターとサイモン・レイモンドのベースが織り成すサウンドスケープは、神秘的でありながらもポップな魅力を持つ。アルバム全体に漂う浮遊感、感情の豊かさ、そして壮麗なサウンドが、聴く者を別世界に誘う。このアルバムは、Cocteau Twinsの集大成ともいえる作品であり、ドリームポップの歴史においても重要な位置を占める。

このアルバムが好きな人におすすめの5枚:

1. Treasure by Cocteau Twins
   『Heaven or Las Vegas』の前作で、よりゴシックな要素が強いが、同じく浮遊感のあるサウンドが特徴。エリザベス・フレーザーのヴォーカルが輝くアルバム。
2. Loveless by My Bloody Valentine
   シューゲイザーの名盤で、ノイズとメロディが融合した独自のサウンドスケープが広がる。Cocteau Twinsの夢幻的なサウンドが好きなリスナーにぴったり。
3. Souvlaki by Slowdive
   ドリームポップとシューゲイザーが融合した作品で、儚く美しいメロディと浮遊感のあるサウンドが特徴。『Heaven or Las Vegas』の雰囲気が好きな人におすすめ。
4. Blue Bell Knoll by Cocteau Twins
   『Heaven or Las Vegas』の直前にリリースされたアルバム。よりポップで軽快なサウンドが楽しめるが、同じく幻想的な美しさが詰まっている。
5. Disintegration by The Cure
   メランコリックで壮大なサウンドが特徴のアルバム。Cocteau Twinsの感情豊かで幻想的なサウンドが好きなリスナーには、このアルバムも響くだろう。