1. 歌詞の概要
「Gut Feeling」は、Devoが1978年にリリースしたデビュー・アルバム『Q: Are We Not Men? A: We Are Devo!』に収録された楽曲である。タイトルの「Gut Feeling」は直訳すると「腸の感覚」だが、英語では「直感」「腹の底の感覚」という意味を持つ。歌詞では「直感的に何かがおかしい」と感じつつも、表面的には物事が進んでいく状況を描いている。
その「違和感」は恋愛関係や社会全体に向けられているとも解釈でき、いずれにしても「理性や論理を超えたところで、人間は違和感を覚えている」という感情が主題になっている。アルバム後半ではこの曲が「Slap Your Mammy」という短い暴走的ナンバーへとつながり、楽曲全体が「違和感が爆発する瞬間」を音楽で体現している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Gut Feeling」はジェラルド・カセールとマーク・マザーズボーによって書かれ、アルバムの中でも特に構成がユニークな曲である。冒頭は長いインストゥルメンタル・パートで、Devo特有のぎこちないリズムとミニマルなギターリフが徐々に積み重なり、やがてヴォーカルが入ってくる。
その展開は「抑えきれない違和感がゆっくりと形を持ち、最終的に制御不能な衝動に変わっていく」過程を表現しているようで、アルバムの中でもひときわ実験的かつドラマティックな楽曲となっている。
ライブでも人気の高い曲であり、Devoが持つ「パフォーマンス・アートとしてのロック」の側面を示す定番の一曲とされている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(歌詞引用元:Devo – Gut Feeling / Slap Your Mammy Lyrics | Genius)
Something about the way you taste
君の味わい方には何かがおかしい
Makes me want to clear my throat
それで僕は喉をかきむしりたくなる
There’s a message to your movements
君の動きには何かメッセージがある
That really gets my goat
それが僕を苛立たせるんだ
I got a gut feeling
僕には直感がある
You’re gonna leave me all alone
君は僕をひとり残して去っていくに違いない
歌詞は恋愛関係の違和感を語っているようでありながら、Devo特有の不穏なイメージが随所に混じり、「人間関係」と「社会的違和感」が二重写しになっている。
4. 歌詞の考察
「Gut Feeling」は、単なる恋愛の歌ではなく、「直感的に世界は間違っている」というDevoの世界観を象徴する曲である。人間関係の不協和を描きながらも、それは「消費社会や近代社会そのものの不自然さ」を暗示しているように読める。
「Something about the way you taste」という冒頭のフレーズは一見官能的に聞こえるが、すぐに「喉をかきむしりたくなる」という嫌悪感へと変わる。この二面性は「快楽と不快」「愛と嫌悪」が常に背中合わせであることを示している。
さらに「You’re gonna leave me all alone」というラインは、恋愛の破局を語るだけでなく、「最終的に人間は孤独に直面せざるを得ない」という存在論的テーマに接続している。
音楽的にも、徐々に不穏さを増していく構成は「違和感から破局へ」というプロセスをそのまま音で再現しており、歌詞とサウンドが完全に呼応している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Jocko Homo by Devo
人間の退化と異化をテーマにした代表曲。哲学的かつ風刺的な内容が共通する。 - Uncontrollable Urge by Devo
衝動の制御不能さを描いたデビューアルバム冒頭曲。エネルギーと不安定さが似ている。 - Life During Wartime by Talking Heads
違和感と緊張感に満ちたニューウェイヴの代表曲。社会批評的。 - Being Boiled by The Human League
初期シンセポップの不穏な名曲で、Devo的な未来批評性を共有する。 - Warm Leatherette by The Normal
冷徹な電子サウンドで人間の不安を描いたエレクトロ・パンク。
6. 「Gut Feeling」の象徴性
「Gut Feeling」は、Devoの音楽における「不安」と「直感」をもっとも強く体現した楽曲のひとつである。歌詞は表面的には恋愛の歌の体裁を取りながら、実際には社会批評や存在論的なテーマを孕み、Devoのコンセプト「退化論」を裏付けるものとなっている。
また、構成上のドラマ性――静かな始まりから徐々に緊張を高め、最後に爆発的な混乱へ突入する流れ――は、彼らの楽曲の中でも特に演劇的で、リスナーに強烈な印象を与える。
結果として「Gut Feeling」は、Devoのデビューアルバムを締めくくる重要曲であり、彼らの「違和感の美学」を象徴するアンセムとして今なお鮮烈に響き続けている。
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