1. 歌詞の概要
「Greek Tragedy」は、イギリス・リヴァプール出身のインディーロックバンド、The Wombatsが2015年にリリースした3rdアルバム『Glitterbug』に収録された楽曲で、美しくも不穏なラブソングとして世界中のファンに深く愛されている。
タイトルの「Greek Tragedy(ギリシャ悲劇)」は古典演劇における破滅の物語を指し、ここでは破滅的な愛、報われない執着、そして崩壊に向かう恋人たちのメタファーとして用いられている。語り手は、ある女性に心酔し、彼女のすべてを知ろうとするが、その関係性は次第に歪んでいく。愛しているからこそ手放せないが、手に入れた先には破滅が待っている——そんな**「終わりの予感に満ちたロマンス」**が、軽快なインディー・ポップのメロディに乗って描かれる。
表面的にはダンサブルでキャッチーな印象を持つこの曲だが、リリックを読み解くと、愛と執着、理想と現実の落差、そして自己喪失といった重いテーマが見えてくる。それこそが「Greek Tragedy」の二面性であり、リスナーに強烈な印象を残す理由でもある。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Wombatsは、2007年のデビュー以来、ユーモラスで軽快な歌詞とダンサブルなサウンドで人気を博してきたが、『Glitterbug』ではよりシリアスで成熟したテーマに取り組んでいる。「Greek Tragedy」はその象徴的な一曲であり、バンドが“青春の焦燥”から“恋愛の深淵”へと歩を進めた瞬間を捉えている。
ボーカルのマシュー・マーフィーは、本作を「関係性の危うさ、特に恋愛における境界線の曖昧さ」についての曲だと語っており、一歩踏み外せば依存やコントロール、自己崩壊につながるような愛のダイナミズムを描こうとしたという。
さらにこの曲は、2021年にOliver NelsonによるリミックスバージョンがTikTokで大バズリし、再評価される形で新たなファン層を獲得した。ミームやショートビデオの文脈で「不気味でロマンチックな世界観」が再発見され、元々の歌詞やMVに秘められた狂気性にも注目が集まるようになった。
ミュージックビデオでは、美しい女性ファンがバンドメンバーをストーキングし、最終的には殺害してしまうというショッキングでサイコロジカルな内容が描かれ、楽曲の持つ「愛が狂気に変わる瞬間」が映像として具現化されている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Greek Tragedy」の印象的なフレーズと和訳を紹介する。
We’re smashing mics in karaoke bars
カラオケバーでマイクを叩き壊してるYou’re running late with half your makeup on
君はメイクも半分のままで、遅れて走ってくるThis love, it is a pyramid
この愛は、まるでピラミッドのようだIt’s so sensual and misunderstood
官能的で、でもいつも誤解されてばかりI love this feeling, but I hate this part
この感情は好きだけど、この展開は嫌なんだI want it to persist, but I know it won’t
続いてほしい、でも続かないことは分かってるShe hits like ecstasy
彼女はまるで麻薬みたいに衝撃的でComes up and bangs the sense out of me
やってきて、理性を吹き飛ばしていく
引用元:Genius Lyrics – The Wombats “Greek Tragedy”
4. 歌詞の考察
「Greek Tragedy」の語り手は、明らかに破滅に向かっている関係性の中で、それでもなお彼女への愛と欲望を抑えきれない男である。彼女はどこか奔放で、常に遅れてやってきて、語り手をかき乱す。だがその混沌の中に、語り手は快楽と興奮、そして一種の生の実感を感じている。
「This love, it is a pyramid」という比喩には、堅固で崇高な愛への憧れがありながらも、その構造が逆に重く、崩れるときには一気に瓦解してしまう危うさも同時に含まれている。また、「She hits like ecstasy」というラインでは、恋人の存在が理性を狂わせる中毒性を持っていることが描かれており、恋愛という名の依存が浮かび上がる。
さらに、「I love this feeling, but I hate this part」という自問自答は、愛の中にある快楽と苦痛の両面性を明確に示しており、これはギリシャ悲劇というテーマとも重なる。すなわち、この楽曲は**“美しく始まった恋が、自分自身を破壊するまでを描いた悲劇”**なのである。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Wombats “Greek Tragedy”
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Somebody Else by The 1975
報われない愛と自己喪失を描いたバラード。耽美的で毒のあるロマンスが共通する。 - Sweater Weather by The Neighbourhood
官能と距離感の交差するラブソング。恋の甘さと冷たさの共存が特徴。 - Love It If We Made It by The 1975
混沌と怒りの中でも希望を求める歌詞世界。近代の“悲劇”を象徴する1曲。 - Midnight City by M83
都会の夜と孤独を包み込むシンセ・ポップ。甘くも切ないサウンドが似ている。
6. “現代のギリシャ悲劇”──恋の中毒性と破壊性
「Greek Tragedy」は、The Wombatsが“踊れるインディーロック”の枠を超え、恋愛の狂気や依存、破滅性に真正面から向き合った意欲作である。その根底には、恋とは人を幸せにするだけでなく、時に破壊し、支配し、飲み込んでしまう力を持つという認識がある。
それでも語り手は、彼女との関係を手放すことができない。むしろその崩壊すらも、自ら望んでいるようにすら見える。この矛盾した感情が、この曲を単なるラブソングではなく、“美しすぎる破滅”の歌として際立たせている。
そしてこの楽曲がTikTokなどで若者たちの共感を集めたのは、まさにその感情の複雑さと、どうしようもない愛の重みに、現代のリスナーが自身を投影したからに他ならない。The Wombatsはここで、恋の最も危険で、最も魅力的な側面を切り取り、それをポップの形式で見事に昇華させてみせた。
「Greek Tragedy」は、愛に溺れた者の“美しい破滅”を祝福する、現代の悲劇詩なのだ。
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