アルバムレビュー:Golden by Kylie Minogue

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発売日: 2018年4月6日
ジャンル: カントリーポップ、ダンスポップ、アコースティック・ポップ


ナッシュビルで見つけた“私自身”——Kylieが歌う、年齢と人生のまばゆさ

Goldenは、Kylie Minogueにとって14作目のスタジオ・アルバムにして、キャリアの中でも特異な輝きを放つ作品である。
その最大の特徴は、Kylieがキャリア初となるカントリーミュージックの要素を大胆に導入し、自身のパーソナルな感情や人生観をこれまで以上に前面に押し出している点にある。

制作の大半は、アメリカ・ナッシュビルで行われた。
カントリーポップ的な素朴さ、アコースティックな響き、語りかけるような歌詞表現——これらはKylieのダンスポップ女王というイメージとは一見対照的だが、本作ではそれが驚くほど自然に融合している。

「Golden(黄金)」とは、単に光り輝くことだけを意味しない。
それは、失われた時間を慈しみ、過去の傷を抱えたままでも未来を信じるという、成熟した生の肯定そのものを表す言葉なのだ。


全曲レビュー

1. Dancing

カントリー・ギターのイントロから、すぐにKylieらしい軽やかなビートへ。
「死ぬときだって踊っていたい」というフレーズに、彼女の人生哲学が詰まっている。

2. Stop Me from Falling

フォークとポップの中間を行くリズミカルな一曲。
恋に落ちていく高揚と戸惑いを、自然体で歌う。

3. Golden

タイトル曲は、自分の“黄金の価値”を見つけようとする魂の歌。
痛みと希望が同居する、Kylieの人生観が静かに伝わる。

4. Sincerely Yours

ファンに向けた“ラブレター”的なバラード。
ステージから少し離れても、心はいつも繋がっているというメッセージが温かい。

5. One Last Kiss

カントリー風味のギターとビートが絶妙に絡む。
恋の終わりを軽やかに、しかし情熱的に描いている。

6. Live a Little

自分自身を縛るルールから解き放たれようとするメッセージソング。
「少し自由に生きてみない?」という呼びかけが爽快だ。

7. Shelby ’68

Kylieの父が愛した車種をモチーフにした、ノスタルジックな楽曲。
思い出の風景を映画のように切り取る、美しい叙情性。

8. Radio On

深夜のラジオと孤独を重ねた静かなバラード。
Kylieのウィスパーボイスが優しく寄り添ってくるような一曲。

9. Love

言葉数少なく“愛”そのものを静かに問いかけるミニマルな曲。
不完全さを受け入れること、それこそが愛であるという思想が滲む。

10. Raining Glitter

再びダンスフロアに戻ってきたかのようなキラキラ感。
“傷ついても、私はまだ輝ける”というメッセージがサビに溢れる。

11. Music’s Too Sad Without You (feat. Jack Savoretti)

イタリア系シンガー、ジャック・サヴォレッティとの美しいデュエット。
悲しみを音楽に乗せることで癒す、静かなラメント。


総評

Goldenは、Kylie Minogueが“ポップの女神”としてではなく、一人の女性として、年齢と人生と向き合ったアルバムである。
ここには、クラブのきらめきも、過去の栄光もある。
だがそれらはすべて、「今の私」を受け入れ、愛し、歌うための材料にすぎない。

カントリーのフォーマットを借りながらも、根底にはKylieらしいポップの美学が息づいている。
“踊るように生きる”というテーマは、ここでも確かに鳴っているのだ。
そしてそのビートは、これまでより少し優しく、少し深い。


おすすめアルバム

  • Rainbow by Kesha
     ——苦難からの再出発と自己回復を描いた、カントリーポップとエレクトロの融合作。
  • Golden Hour by Kacey Musgraves
     ——ジャンルを超えて支持された、カントリー×ポップの静かな革命。
  • Confessions on a Dance Floor by Madonna
     ——痛みをビートに昇華する“踊る哲学”という意味で、精神的共鳴が強い。
  • Come On Over by Shania Twain
     ——ポップとカントリーの理想的なバランス。Kylieの方向性に近い感触。
  • Disco by Kylie Minogue
     ——次作で再びダンスフロアへと舞い戻った作品。“Golden”の次の章として必聴。

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