
発売日: 1969年3月17日
ジャンル: カントリーポップ、フォークロック、アダルトコンテンポラリー
概要
『Galveston』は、グレン・キャンベルが1969年に発表したスタジオアルバムであり、
前作『Wichita Lineman』に続き、彼の黄金時代を決定づけた重要作である。
タイトル曲「Galveston」は、ジミー・ウェッブによる名曲で、
ベトナム戦争の影を背景に、遠く故郷を想う兵士の心情を繊細に描いた。
一見、晴れやかなメロディに包まれながら、
その裏にある切実な不安と郷愁が、リスナーの心を静かに打つ。
アルバム全体もまた、カントリーとポップ、フォークのエッセンスを融合し、
1960年代末のアメリカの感情風景を映し出す作品となっている。
全曲レビュー
1. Galveston
アルバムの表題曲。
祖国を離れた兵士が故郷ガルベストンを思い出すというテーマを、
美しいメロディと清らかな歌唱で包みながら、
戦争の不安と悲しみをほのかににじませる。
2. Take My Hand for a While
愛への渇望と脆さを繊細に歌った、柔らかなバラード。
3. If This Is Love
愛の本質を疑問視する複雑な感情を描く、内省的なナンバー。
4. Today
ピーター・ポール&マリーの影響を感じさせる、フォーキーなラブソング。
希望と微かな不安が交錯するトーンが印象的。
5. Gotta Have Tenderness
人生の厳しさの中にあっても、優しさが必要だと訴える、
温かくも力強いミディアムテンポの楽曲。
6. Friends
友情と絆をテーマにした、爽やかなミッドテンポナンバー。
70年代的なポジティブな空気を先取りしている。
7. Where’s the Playground Susie
再びジミー・ウェッブ作。
壊れてしまった恋愛を、子供時代の遊び場のイメージと重ね合わせる、
詩的で哀切なバラード。
8. Time
時の流れと愛の変化を静かに見つめる、叙情的なナンバー。
9. Until It’s Time for You to Go
バフィー・セント・メリーによる名曲のカバー。
愛しながらも別れを受け入れる運命を、穏やかに歌い上げる。
10. Oh What a Woman
アップテンポで明るいカントリーロックナンバー。
アルバム後半のリズムチェンジとして爽やかに機能している。
11. Every Time I Itch I Wind Up Scratchin’ You
愛情と葛藤をコミカルに描いたユーモラスなナンバー。
ウィットに富んだ歌詞と軽快な演奏が光る。
総評
『Galveston』は、
グレン・キャンベルがカントリーポップという枠を超えて、
時代の感情そのものを歌ったアーティストであることを証明したアルバムである。
前作『Wichita Lineman』に続き、
叙情的な歌詞と洗練されたアレンジの融合はさらに深まり、
静かだが抗いがたい力強さを持つ作品に仕上がっている。
特に「Galveston」のように、
華やかなサウンドの奥に社会的な痛みを忍ばせる表現力は、
同時代のカントリーやポップスには見られない、グレン・キャンベルならではのものだった。
『Galveston』は、
個人の愛と社会の不安を静かに交差させた、
アメリカ音楽史における珠玉の一枚なのである。
おすすめアルバム
- Glen Campbell / Wichita Lineman
叙情性と普遍性を兼ね備えた、グレン・キャンベルの金字塔的作品。 - Jimmy Webb / Words and Music
「Galveston」などの作者による、自作曲の鮮烈なセルフプロデュース作。 - Bobbie Gentry / Fancy
南部の女性視点から社会を切り取った、ドラマティックなカントリーポップ。 - Kris Kristofferson / Kristofferson
社会への視線と個人の感情を重ねた、フォークカントリーの名盤。 -
The Byrds / Ballad of Easy Rider
同時代のアメリカン・カントリーロックを象徴する叙情的名作。
歌詞の深読みと文化的背景
1969年――
アメリカはベトナム戦争への反発が高まり、
社会の不安と分断がピークに達していた。
「Galveston」の主人公――
遠い戦場にいながら、故郷ガルベストンを想う若者――は、
そんな時代の無名の兵士たちの心の声を代弁している。
しかしジミー・ウェッブの作詞、そしてグレン・キャンベルの歌唱は、
単なる政治的メッセージにはとどまらず、
人間存在の普遍的な哀しみと希望をそっと掬い取っている。
『Galveston』は、
一見穏やかだが、
その奥に時代の痛みと個人の祈りを封じ込めた、
静かなるプロテストアルバムなのである。
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