アルバムレビュー：Fugue State by VULFPECK

アルバムレビュー

2025.04.25

発売日: 2014年4月20日
ジャンル: ミニマル・ファンク、インストゥルメンタル・グルーヴ、DIYソウル、エレクトロ・ファンク

概要

『Fugue State』は、ミシガン大学出身のファンク集団VULFPECKが2014年に発表した3作目のEPであり、「引き算の美学」を徹底しつつ、“バンドとしての物語性”が初めて明確化された重要作である。

このEPでVULFPECKは、インストゥルメンタル中心の構成を保ちながら、Antwaun Stanleyというソウル・シンガーとの共演を本格的に開始。
ジャム・バンド的だった初期作から、より“ソングバンド”としての輪郭が浮かび上がる作品へと進化している。

タイトルの“Fugue State（解離性遁走状態）”は、記憶を失ったままどこかへ行ってしまう精神状態のこと。
しかしこの作品の“遁走”は、むしろ日常からの軽やかな脱出、あるいは心地よい音楽的トリップとして機能しており、聴き手をユーモラスな陶酔へと誘っていく。

タイトル曲にして、開幕からいきなりバッハ的構造のグルーヴ・アンサンブルが炸裂。
クラシック音楽の対位法をファンクに落とし込むという離れ業。
Jack Strattonの鍵盤が構築美を支え、Joe Dartのベースが対話する。知的でダンサブルな問題作。

Antwaun Stanleyを迎えた、VULFPECK初の本格ソウル・ボーカル曲。
コーラスの繰り返しとクラシックなコード進行が、あまりにも温かく、どこか懐かしい。
「一位にならなくてもいい、でも君は特別だ」という歌詞に滲む脱競争的やさしさが、彼らの哲学を体現している。

この曲で中心にいるのは、ドラムそのもの。
Theo Katzmanによる超絶ミニマルなビート構成がメロディすら凌駕し、
ベースとシンセがその“空白”にグルーヴを刻む。まさに“音楽のミニマリズム”の体現。

Jack Strattonによるチープでローファイな語り口のシンセ・ポップ小品。
スカイモール（機内通販）のノスタルジーを軽く揶揄するユーモアが効いている。
この曲で見せる“ナード的な世界観”は後のVULFワールドへ続く重要モチーフ。

シリーズ第3弾。ここでグルーヴはさらに研ぎ澄まされ、まるでリズムのラビリンスを歩くような錯覚を与える。
ベースと鍵盤の複層的なリフが、ファンクの無限ループを描く。
短い曲だが中毒性は抜群。

EPのクロージングは、スムースでメロウなファンク・バラード。
“クリスマスのロサンゼルス”という、寒さのない季節感が逆に切ない。
サックスの入りがジャジーで、エンディングにぴったりな“夜明け前の静けさ”を感じさせる。

『Fugue State』は、VULFPECKがミュージシャン集団から“作品を作るバンド”へとシフトした象徴的EPであり、
その後の人気を決定づけるエッセンスがすでに明確に現れている。

“複雑にして軽やか”“ナードでありながらダンサブル”“笑って聴ける、でも感動する”──
そうした矛盾を成り立たせる音楽的知性と美学が、ここに詰まっている。

彼らの音楽にとって、“Funk”とはジャンルではなく、思考と構造のスタイルなのだ。