
発売日: 2007年8月21日
ジャンル: ファンク、ヒップホップ、ジャズ・ファンク、ニューオーリンズ・グルーヴ、オルタナティブ・ラップ
概要
『From the Corner to the Block』は、ニューオーリンズのグルーヴ集団Galacticが2007年に発表したコラボレーション・アルバムであり、ファンクとヒップホップの境界を大胆に乗り越えた“クロスジャンルの金字塔”である。
この時点でJelly Joseph(Anjelika ‘Jelly’ Joseph)はまだ加入していないが、本作は現在の彼女のヴォーカルを含む「声とビートの融合」へと向かう構造的前哨戦として重要な意味を持つ。
本作では、Lyrics Born、Chali 2na(Jurassic 5)、Gift of Gab(Blackalicious)、Mr. Lif、Boots Riley(The Coup)など、アンダーグラウンド・ヒップホップの重量級MCたちをフィーチャー。
Galacticのファンク・グルーヴとラッパーたちの鋭いリリックが融合し、“路上とライブハウスを接続する新しい音楽地図”を描き出した。
全曲レビュー(主要トラック抜粋)
1. What You Need (feat. Lyrics Born)
跳ねるブラスとねじれたファンクに乗せて、Lyrics Bornのユーモアとグルーヴが炸裂。
Galacticのインスト構築力と、ラップの親和性が冒頭から証明される。
2. …And I’m Out (feat. Mr. Lif)
エッジの効いたベースラインとポリリズム的ビートに、Mr. Lifの冷静なフロウが乗る異色トラック。
“都市の現実”と“精神の逃走”が交錯する哲学的ヒップホップ。
3. The Corner (feat. Gift of Gab)
パーカッシブなファンクの上をGift of Gabが超絶技巧で駆け抜ける。
“街角”から世界を見渡す視点が、このアルバム全体のコンセプトを象徴している。
4. Hustle Up (feat. Boots Riley)
The Coupのラジカルな思想を持つBoots Rileyとのコラボ。
階級、資本主義、抵抗というテーマが、アグレッシブなファンクに落とし込まれている。
政治性の高さはJelly Joseph期の楽曲にも受け継がれていく要素。
5. Second and Dryades
インストゥルメンタル・トラック。
ニューオーリンズの通り名を冠したこの曲は、都市と歴史、ジャズとファンクの記憶を抽象化して描く、アルバムの“呼吸”となる一曲。
6. Sidewalk Stepper
本作の象徴的なファンク・ブレイク。
ダンスと暴動のはざまにある“街のパルス”を音で描いたかのような、演奏の緊張感が印象的。
総評
『From the Corner to the Block』は、Galacticがインスト・ファンクバンドから“ビートとリリックを持つ表現集団”へと進化する分岐点であり、Jelly Josephの参加によって完成された“声とグルーヴの物語性”の起源を示す作品である。
ヒップホップとの融合は決して話題性だけでなく、ニューオーリンズという“音楽と政治の交差点”に根ざした社会的必然でもあった。
このアルバムの実験があったからこそ、のちの“Jelly Josephによる歌と語りの統合”が自然に受け入れられる土壌ができた。
“コーナー”から“ブロック”へ──個人からコミュニティへ。
その声をつなぎ、道を鳴らし、ファンクに言葉を与えた、歴史的1枚である。
おすすめアルバム(5枚)
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The Roots / Phrenology
生演奏×ヒップホップの先駆。Galacticとの交差点が多い。 -
The Coup / Pick a Bigger Weapon
Boots Rileyの政治性とグルーヴの結晶。Galacticのコラボ曲のルーツ。 -
Blackalicious / Blazing Arrow
Gift of Gabの技巧と哲学が冴える名盤。言葉の力を再認識できる。 -
Snarky Puppy / Immigrance
インスト主体ながらストーリー性のある現代ジャズ・ファンク。Galacticのインスト側面と共鳴。 -
Galactic / Already Ready Already
Jelly Joseph参加後のボーカル重視フェーズ。『Corner〜』以後の“言葉とグルーヴ”の進化形。
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