1. 歌詞の概要
『Freelance』は、Toro y Moi(トロ・イ・モア)が2019年に発表したアルバム『Outer Peace』のリードシングルであり、彼の音楽的な進化と自己アイロニーを大胆に詰め込んだ、スタイリッシュかつ批評性の高いエレクトロ・ポップソングである。この曲の核にあるのは、現代の労働観、セルフブランディング、そしてデジタル社会における「自分の輪郭をどう保つか」という問いかけである。
タイトルの“Freelance”が示すように、この曲は単にフリーランスの働き方をテーマにしているのではなく、むしろ“自由”と“孤立”、“柔軟性”と“アイデンティティの喪失”という二面性を表現している。トラックはファンキーでグルーヴィー、カラフルなビートとパーカッションが弾ける一方で、歌詞はどこか冷めたトーンで現代人の自己演出と疲弊を描いている。
「リラックスしてるけど緊張してる」「クールでいようとしながら不安を抱えている」――そんな矛盾を抱えた都市生活者のリアリティを、Toro y Moiはポップでありながら知的なセンスで描いている。表面的には軽快でも、裏にある“空虚さ”を感じ取ることで、この曲は単なるダンスチューンに留まらない深みを獲得している。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Freelance』は、Toro y Moiの6作目のスタジオアルバム『Outer Peace』に先行シングルとしてリリースされた楽曲で、彼が以前よりも明確にダンス・ミュージック、特にファンクやハウス、エレクトロの方向性を追求する中で生まれたトラックである。
この時期のChaz Bearは、芸術家としての活動(グラフィックデザインやファッション)も含め、“自己をいかにプロデュースするか”に強い関心を持っていた。『Freelance』というタイトルには、ただ職業的な自由という意味だけではなく、「自己が“商品”として機能する時代」のパラドクスが込められている。
また、彼はこの曲を制作する際に、Daft PunkやChromeo、LCD Soundsystemといった“ダンサブルで批評的なポップ”を意識したと語っており、実際この楽曲は、聴きやすさとメッセージ性を高い次元で両立している。
3. 歌詞の抜粋と和訳
No more shoes and socks, I only rock sandals
靴も靴下もやめて、今はサンダルだけI can’t tell if I’m hip or getting old
それってイケてるのか、ただの老化なのか、もうわからない
ここでは、ファッションやライフスタイルの選択が“スタイル”なのか“年齢”なのかの区別が曖昧になる現代的なアイロニーが描かれている。
Freelance, tryna get my money right
フリーランスで金を稼ごうとしてるJust relaxin’ in the studio
スタジオでくつろいでるだけさ
自営業的な自由と、それに伴う“自己管理責任”が対照的に並置されている。ゆるさの裏にある、常に経済的不安が透けて見える一節。
Do yourself a favor, turn your hip song down
頼むから、その“イケてる曲”の音量、少し下げてくれよI’m tryna get to heaven
こっちは“悟り”を開こうとしてんだ
騒がしいトレンドやSNSの喧噪から距離を取りたい語り手の感覚が、皮肉交じりに表現されている。現代的な“静けさへの憧れ”が感じられる。
引用元:Genius – Toro y Moi “Freelance” Lyrics
4. 歌詞の考察
『Freelance』の本質は、現代における“セルフブランディング社会”の風刺である。私たちは日々、SNSで自分を見せる仕事をしている。音楽家であれ、会社員であれ、クリエイターであれ、誰もが「自分という商品」をマネジメントし続けなければならない。
歌詞では、その状態を批判的というよりも、むしろ“達観”したように描いている。「とりあえず自分の空間で、今できることをやる。それ以上は求めない」――そうした“内なる平和(outer peace)”が、本曲の主題とリンクしている。Chaz Bearは、プレッシャーや雑音の多い時代において、“自分に戻る場所”を探しているのだ。
また、ファッションや年齢に関する自嘲、スタジオにこもるという姿勢、周囲の“流行”に対する距離感。これらはすべて、「何が正しいのか誰にもわからない」時代のリアリズムを描いたものである。決して孤独を嘆いているわけではなく、「それでも自分なりのリズムでやっていくしかない」という、柔らかな意志表明のようにも聴こえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Chromeo – Jealous (I Ain’t With It)
ファンキーなエレクトロ・ポップとウィットに富んだ歌詞が共通。 - LCD Soundsystem – Someone Great
都市生活者の孤独と雑音の中のポップネスを描いた、批評性の高い名曲。 - Blood Orange – Best to You
繊細で多層的な人間関係と都市的なリズムが融合したR&B。 - Thundercat – Dragonball Durag
自己演出と不安のあいだをユーモラスに行き来する、現代的ファンクソウル。
6. “自由とセルフイメージ”の狭間に立つポップソング
『Freelance』は、Toro y Moiというアーティストが自身のアイデンティティを軽やかに、しかし鋭く問い直した曲である。そのサウンドは明るくダンサブルだが、そこに含まれるメッセージはきわめて現代的で切実だ。
「自分の“外側”を平和に保つために、内側はどこまで犠牲になるのか?」
その問いに明確な答えはない。ただ、Chaz Bearはこの曲で、リズムに身を任せながらも“考え続けること”の価値を肯定している。踊れるのに、深い。軽やかなのに、重い。それが『Freelance』の魅力であり、Toro y Moiという存在の本質でもある。
歌詞引用元:Genius – Toro y Moi “Freelance” Lyrics
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