1. 歌詞の概要
「For Your Love」は、イギリスのロックバンド、The Yardbirdsが1965年にリリースしたシングルで、彼らにとって初の大ヒットとなった曲である。情熱的な献身と愛のための犠牲を歌ったバロック・ポップ風のラブソングであり、従来のブルース志向だった彼らの音楽性を大きく変えるターニングポイントにもなった。
この曲の語り手は、タイトルの通り“君の愛のために”なら何でもする、と繰り返し強調する。富、時間、魂、そして命ですら捧げる——と、究極的な愛の表現が並び立ち、その絶対的な献身がドラマチックな音楽構成と合致している。その一方で、どこか報われない愛や一方通行の想いが滲み出る構成にもなっており、ただの情熱的なラブソングとは一線を画す深みを持っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
「For Your Love」は、The Yardbirdsにとって転機となった楽曲である。これまで彼らは、エリック・クラプトンを擁してロンドンのR&B/ブルースシーンで活躍していたが、本曲はよりポップかつ商業的な方向性を打ち出したことで、クラプトンがバンドを脱退するきっかけにもなった。
作曲は、後に10ccのメンバーとして知られるグレアム・グールドマンが手がけており、当時彼はまだティーンエイジャーだった。この曲をThe Yardbirdsがレコーディングしたことで、グールドマンも作曲家として一気に注目を浴びた。
また、「For Your Love」は当時としては珍しいハープシコードの導入が印象的で、ロックとクラシカルな要素を融合させたサウンドは、後のバロック・ポップやサイケデリック・ロックの先駆けとも言える。エリック・クラプトンのギターは控えめに抑えられ、ポップな構成とメロディを前面に押し出したアレンジは、バンドの大衆性を高める結果となった。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「For Your Love」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳を紹介する。
For your love
君の愛のためならI’d give you everything and more, and that’s for sure
君にすべてを捧げる、それ以上のものも、間違いなくFor your love
君の愛のためにI’d bring you diamond rings and things right to your door
ダイヤの指輪も贈るし、なんでも君のもとに届けるI’d give the moon if it were mine to give
もし月を手に入れられるなら、それも捧げるよI’d give the stars and the sun ‘fore I live
太陽も星も、自分の命より前に君にあげたい
引用元:Genius Lyrics – The Yardbirds “For Your Love”
4. 歌詞の考察
「For Your Love」の歌詞は、一見すると情熱的でロマンティックなラブソングの典型のように見えるが、その過剰な献身の表現は、聴き手にどこか不安や違和感を抱かせる力を持っている。富や時間だけでなく、「月」「星」「太陽」「命」まで差し出すという表現は、ロマンティックであると同時に危うい執着や狂気性さえ感じさせる。
語り手は自分のすべてを差し出すと宣言するが、そこには「見返りを求めない」一途さではなく、むしろ「すべてを与えるから愛をくれ」というある種の取引的な響きすらある。このような微妙なニュアンスが、ただの甘いラブソングではなく、人間の恋愛感情に潜むエゴと自己犠牲のバランスを問いかけている。
また、サウンド面の不安定な転調やハープシコードの神秘的な音色は、この歌詞に不思議な不穏さを与えており、まるで**“愛の深淵を覗き込むような感覚”**を生み出している。ここには、60年代中盤のポップミュージックが単なる“恋の歌”から脱却しようとしていた時代性も色濃く表れている。
※歌詞引用元:Genius Lyrics – The Yardbirds “For Your Love”
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Bus Stop by The Hollies
同じくグレアム・グールドマン作曲の名曲。恋の始まりを繊細に描いたポップソング。 - She’s Not There by The Zombies
ミステリアスな雰囲気と幻想的なサウンドが「For Your Love」と共鳴する。 - Tired of Waiting for You by The Kinks
恋人を待ち続ける焦燥感を歌った曲。抑制された感情が近い質感を持つ。 - White Room by Cream
クラプトンが脱退後に組んだCreamによる名曲。心理的な深みと幻想性が引き継がれている。
6. “ブルースからポップへの転換点”──ロック進化の分岐を刻んだ一曲
「For Your Love」は、The Yardbirdsにとって単なるヒット曲ではなく、バンドとロック史全体における大きな方向転換の象徴である。それまでブルース色の強かった彼らの音楽が、よりポップで実験的な領域に踏み出したことで、ファン層を広げる一方、クラプトンの脱退という代償も生んだ。
しかし、その後のジミー・ペイジやジェフ・ベックといった才能を取り込むことで、Yardbirdsはさらに音楽的な深みを増していく。つまり「For Your Love」は、バンドに“別の道”を選ばせた分水嶺のような存在だった。
また、この楽曲がポップミュージックに与えた影響は計り知れない。ハープシコードというクラシカルな楽器の導入、転調を多用した構成、恋愛に潜む狂気を表現した歌詞など、1960年代ポップの常識を塗り替える実験的精神がここには詰まっている。
「For Your Love」は、甘い言葉で飾られた“愛の賛歌”であると同時に、その背後にある執着や痛みを垣間見せる、ロックの新しい地平を開いた歌なのである。
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