
発売日: 1971年11月
ジャンル: ハード・ロック、ロック
2. 概要
『For Ladies Only』は、カナダ/アメリカのロック・バンド Steppenwolf が1971年に発表した6作目のスタジオ・アルバムである。
タイトルが示すとおり、本作は“女性のために”を掲げたコンセプト・アルバムであり、テーマはフェミニズムと女性の解放。
同時に、恋愛や人間関係を扱う、より伝統的なラブソングも織り込まれている。
社会批評色の強い『Monster』や、個人的な内面を描いた『Steppenwolf 7』に続き、今度は“女性の立場”や“男女の関係”に光を当てた作品なのだ。
制作は1970年末から71年春にかけて、カリフォルニアのAmerican Recording Co.で行われた。
前作『Steppenwolf 7』に続き、プロデュースは Richard Podolor、エンジニアは Bill Cooper。
そしてギターは Larry Byrom に代わり、Blues Image 出身の Kent Henry が加入している。
このギタリスト交代により、リフやソロの質感がやや洗練され、時折プログレッシヴ・ロックを思わせるフレーズが顔を出すようになる。
アルバムの中核をなすのは、9分を超えるタイトル曲「For Ladies Only」である。
複雑な展開とオルガンの豊かな和声、リズムの変化など、当時のプログレ的な潮流を意識した構成を持ちつつ、歌詞では“女性蔑視的な態度を改めろ”と男たちに迫るメッセージが語られる。
一方で、アルバムの評価は当時から賛否両論であった。
フェミニズムを掲げながら、ゲートフォールド内側にはハリウッドのウォーク・オブ・フェイム沿いに“男性器型の車”を走らせる写真が使われ、歌詞にも男目線のきわどい表現が多い。
そのため、一部批評家には「むしろセクシストではないか」と受け取られてしまったのである。チャート面では、アルバムは全米Billboard 200で54位を記録。
シングルは「Ride With Me」が全米52位、「For Ladies Only」が64位に入るものの、どちらもトップ40には一歩届かなかった。
それでも、本作はSteppenwolfにとって重要な作品である。
第一に、Kent Henry 体制での唯一のフル・オリジナル・スタジオ作であり、バンドがハード・ロックに留まらず、より複雑な編曲や鍵盤のハーモニーに踏み込んでいく瞬間を捉えている。
第二に、このアルバムが1972年の第一次解散前、最後の新作スタジオ・アルバムとなった点だ。
60年代末、ベトナム戦争やカウンターカルチャーの文脈の中で政治性を強めてきたSteppenwolfが、70年代に入って“女性解放運動”という新たな社会テーマを取り上げた作品。
その意図とズレ、真面目さと悪ノリが同居する“ねじれ”こそが、『For Ladies Only』を単なるコンセプト・アルバム以上の、時代の生々しいドキュメントとして面白くしているのである。
3. 全曲レビュー
1曲目:For Ladies Only
表題曲「For Ladies Only」は、アルバム全体を象徴する9分超の大作である。
イントロでは、Goldy McJohn のハモンド・オルガンがじっくりとコードを鳴らし、Kent Henry のギターがメロディアスなリックを差し込む。
テンポはミディアムだが、セクションごとにビートやコードのニュアンスが変化し、70年代初頭のプログレ・ロックを思わせる構成を取っている。
歌詞は、“男たちの態度を変えろ”という呼びかけから始まる。
女性を軽んじたり、都合のいいときだけ頼ったりしてきた男の側に対して、もっと相手を一人の人間として尊重しろ、と説く内容なのだ。
ただし、その言い方はあくまでロック・バンドの男目線であり、揶揄と自虐が入り混じっている。
“うまくやれない男”が女性に捨てられそうになり、慌てて懺悔しているようなニュアンスもあって、真剣さと照れが同居しているのがSteppenwolfらしいところである。
曲の後半では、コーラスとギター・ソロが長く続き、“説教”というより“祝祭”に近いムードに変わっていく。
フェミニズム・コンセプトの芯を担いながら、同時にバンドの演奏力とアンサンブルの妙がじっくり味わえる、アルバムのハイライトと言えるだろう。
2曲目:I’m Asking
「I’m Asking」は、Jerry Edmonton と Goldy McJohn が書いたミディアム・テンポのロック・チューン。
サウンドの骨格はギター+オルガンの典型的なSteppenwolfスタイルだが、リフはやや滑らかで、コード進行も素朴なブルース一辺倒ではなく、ポップス寄りの感触を持っている。
歌詞で描かれるのは、相手に歩み寄ろうとする“問いかけ”である。
強がるのではなく、「何を求めているのか教えてくれ」「どうすれば君を大事にできるのか」と、男性側が言葉を探りながら問い続ける姿が描かれる。
『For Ladies Only』のコンセプトを踏まえると、この曲は“分からないなら、まず聞け”というメッセージのようにも響く。
フェミニズムの理論を語るのではなく、ぎこちないコミュニケーションの延長線上にある日常的なジェンダーの問題を扱っている点が興味深い。
3曲目:Shackles and Chains
「Shackles and Chains」は John Kay 作のロック・バラードで、タイトルどおり“鎖”と“束縛”のイメージが通底している。ウィキペディア+1
リズムは抑え気味のミディアム・スロー。
ギターはクリーン〜軽い歪みの中間でコードを刻み、オルガンが厚いパッドを敷く。
サビでのコーラスは大きく広がり、曲全体にメランコリックなトーンを与えている。
“鎖”は文字通りの拘束ではなく、見えない心理的な束縛の比喩として用いられる。
相手を所有しようとすること、自分も相手も不自由にしてしまう関係性――。
『Monster』で社会全体の“Power Play”を歌ったKayが、ここでは2人の関係の中にある支配/従属を見つめ直しているかのようでもある。
4曲目:Tenderness
4曲目「Tenderness」は、“優しさ”をタイトルに掲げた Mars Bonfire 作のナンバーである。
イントロは穏やかなギターとオルガンから始まり、Kay のボーカルもここでは比較的柔らかい。
サビで音量が上がり、コーラスが加わることで、感情が大きく波打つ。
歌詞の核にあるのは、「力や支配ではなく、優しさこそが関係を支える」というメッセージである。
“男らしさ”が強さや支配と結びつけられがちな社会の中で、“Tenderness”を肯定的に掲げること自体が、『For Ladies Only』というアルバムにおいて重要な意味を持っている。
アルバム前半はこの曲まで、比較的落ち着いたテンションのまま進む。
政治的スローガンではなく、ラブソングとしての言葉を通じて価値観を問い直す、そんなコンセプトの組み立て方が見えてくる。
5曲目:The Night Time’s for You
B面頭の「The Night Time’s for You」は、ややテンポを上げたポップ寄りのロック・ナンバー。
ソングライターは Mars Bonfire と Morgan Cavett で、どこかウェストコースト的な軽やかさも漂う。
ギターのカッティングとオルガンの明るいコード進行が、夜の街の浮遊感を描き出す。
“夜は君のものだ”というタイトルどおり、白昼の規範や視線から解放される時間としての夜が歌われている。
『For Ladies Only』のコンセプトの中では、ここでの“君”は、家父長的価値観に縛られた昼の顔から解放される女性であるとも読めるし、孤独な若者全般を指しているとも読める。
いずれにせよ、夜を“危険な誘惑”ではなく“解放の時間”として描く視点に、70年代初頭の空気が感じられる。
6曲目:Jaded Strumpet
「Jaded Strumpet」は、Jerry Edmonton が単独で書いた曲で、タイトルからしてかなり挑発的である。
“Strumpet”は売春婦やふしだらな女を指す古い英語であり、“Jaded”は疲れ果てた、うんざりした、という意味を持つ。
つまり、社会からそうラベリングされ、使い捨てられてきた女性の姿が暗に浮かび上がるタイトルなのだ。
サウンドは重心の低いハード・ロックで、ギター・リフは粘りのあるブルージーなもの。
Kay のボーカルは荒く、時に吐き捨てるようなフレーズも出てくる。
歌詞は一筋縄ではいかない。
表面的には“疲れ切った女”を冷笑しているようにも読めるが、背景には男性側の偽善や二重基準への苛立ちも見え隠れする。
ここにこそ、本作がフェミニズムを掲げながら“セクシスト”と批判された理由のひとつがあるだろう。
問題を語ろうとして、同じ言葉や視線を再生産してしまう、その危うさが生々しく刻まれている。
7曲目:Sparkle Eyes
「Sparkle Eyes」は、George Biondo と John Kay の共作で、柔らかいメロディを持つロック・バラードである。
タイトルが示す“きらめく瞳”は、恋人やパートナー、あるいはまだ若く希望に満ちた女性像の象徴として用いられている。
リズムはミディアム、ギターはアルペジオ多めで、オルガンは繊細なハーモニーを添える。
歌詞では、相手の瞳の奥にある痛みや不安にも触れながら、その輝きが失われないように願う視線が描かれる。
ここでの語り手は、支配者でも救済者でもなく、“そばにいたい人”としての立場にとどまっている。
政治的メッセージではなく、ごく私的な祈りとしての“フェミニズム的感性”が表現されている曲と言えるかもしれない。
アルバム後半の中でも、静かな余韻を残す一曲である。
8曲目:Black Pit
「Black Pit」は Kent Henry と Goldy McJohn の共作で、タイトルどおり“暗い穴”“底なしの奈落”といったイメージが前面に出る。
ギター・リフはヘヴィで、オルガンは不穏なコードを長く引き伸ばす。
リズムは中速ながら、ベースが粘っこく動くことで、じっとりした閉塞感が生まれている。
歌詞は、精神的にも社会的にも追い詰められた状態を“黒い穴”として描いている。
アルコールやドラッグ、人間関係の破綻、経済的な行き詰まり――そうした要素が直接的ではなくとも、断片的なイメージとして散りばめられている。
『For Ladies Only』の文脈で見ると、この“Black Pit”は、女性だけでなく多くの人が陥る“出口の見えない袋小路”のメタファーとして読める。
前後の曲が比較的メロディアスであるぶん、このダークさがアルバム全体のトーンを引き締めている。
9曲目:Ride With Me
「Ride With Me」は Mars Bonfire 作のナンバーで、アルバムからのシングルとしてBillboard Hot 100で52位を記録した。
軽快なギター・リフとドライヴ感のあるビートが特徴で、“一緒に乗って行こう”という誘いの言葉が曲全体を貫いている。
70年代初頭のアメリカン・ロックらしい、ドライブ感と開放感が前面に出た一曲である。
表面的にはラブソング/ロードソングのように聞こえるが、“ride with me”というフレーズには、“新しい価値観に一緒に飛び込もう”というニュアンスも透けて見える。
『For Ladies Only』のコンセプトを意識して聴くと、古いジェンダー観から抜け出す旅への誘いとも解釈できるのが面白い。
アルバム全体がやや重めのテーマを扱っているなかで、この曲はポップなアクセント兼シングル向けのフックとして、非常に重要な役割を担っている。
10曲目:In Hopes of a Garden
ラストを飾る「In Hopes of a Garden」は George Biondo 作で、2分ほどの短い小品である。
アコースティック寄りのサウンドと穏やかなメロディが、アルバムの締めくくりにふさわしい余韻を残す。
ギターとオルガン、ささやかなリズム隊が静かに寄り添い、Kay ではなくBiondoのカラーが前に出ることで、ほんの少し視点が変わる。
“Garden(庭)への希望”というタイトルは、家父長的な“家庭に閉じ込められた庭”ではなく、“誰もが安心して生きられる場所”のメタファーとして読むこともできる。
激しいリフでも政治的スローガンでもなく、ささやかな希望のイメージで幕を閉じるところに、このアルバムの繊細なバランス感覚が現れていると言えるだろう。
4. 総評
『For Ladies Only』は、Steppenwolf のディスコグラフィの中では決して“代表作”として語られることの少ないアルバムである。
チャートも全米54位と中堅クラスで、批評家からの評価もRobert ChristgauのC+など、総じて厳しめだった。
しかし、バンドのキャリアと当時の社会状況を踏まえて聴き直すとき、この作品はかなり興味深い“問題作”として浮かび上がる。
まず、テーマである。
1971年といえば、アメリカで第二波フェミニズムが本格化し、“Women’s Lib”という言葉が一般誌の紙面に載るようになっていた時期である。
その流れの中で、ハード・ロック・バンドであるSteppenwolfが“女性のために”というタイトルのコンセプト・アルバムを作ったこと自体が、当時としてはかなり挑戦的な動きだった。
ただし、その挑戦は完璧とは程遠い。
ゲートフォールドに収められた“男性器型の車”の写真や、「Jaded Strumpet」に代表されるきわどい言葉遣いなどは、今の感覚からすれば当然ながら問題も多い。
“フェミニズムを掲げながら、同じ男性中心的な視線を再生産しているのではないか”という批判は、当時から存在した。
しかし同時に、『For Ladies Only』には、単純なセクシズムや売り文句だけでは説明できない“揺らぎ”がある。
タイトル曲で男たちの態度を問い直し、「I’m Asking」や「Tenderness」でコミュニケーションや優しさの重要性を歌い、「Renegade」や「Power Play」のような直接的政治歌ではなく、恋愛や日常の中に潜む権力関係を描こうとしている。
そこには、“ロック・バンドとしての自分たちの立場から、できる範囲で新しいテーマに手を伸ばしてみた”というギリギリの誠実さも見えるのだ。
サウンド面では、Kent Henry 加入後のギターと、Goldy McJohn のキーボード・ワークが大きい。
タイトル曲の長尺構成や、部分的なリズム/コードの変化には、当時流行していたプログレッシヴ・ロックの影響が色濃く感じられる。
とはいえ、完全にプログレ路線に舵を切るわけではなく、「Ride With Me」のようなストレートなシングル曲も並べることで、Steppenwolfらしいロック・バンドの骨格を維持している。
これは、“ルーツ・ロック+社会批評”というSteppenwolf本来の持ち味と、“より複雑な構成やテーマに挑む70年代的ロック”との間で揺れる過渡期のサウンドとも言える。
実際、Jazz Rock Fusion Guitar やファンの回想でも、このアルバムは“分かれ道に立つバンドの、過渡期の作品”と評されている。キャリア的な位置付けも重要だ。
『For Ladies Only』は、ゴールド・ディスクに届かなかった最初期のスタジオ作であり、トップ20入りを逃した初のスタジオ・アルバムでもある。
それは同時に、バンドの最初の黄金期が終わりに近づいているサインでもあった。
この後、Steppenwolfは1972年にいったん解散し、再結成後は別のフェーズへと移っていく。
その意味で『For Ladies Only』は、“60年代的カウンターカルチャーの延長としてのSteppenwolf”の最終盤を記録した作品なのだ。
ベトナム戦争、ドラッグ、政治、そして女性解放――。
それらのテーマを巡って激しく揺れていたアメリカ社会を、ハード・ロック・バンドという立場からどう受け止めるか。
その答えのひとつとして、このアルバムは生まれている。
今日のリスナーが『For Ladies Only』を聴くとき、そこには二重の視点が必要になるだろう。
ひとつは、当時のジェンダー観や言葉遣いが持つ問題性を、批判的に見つめる視点。
もうひとつは、その不器用さの中に、“男性ロック・バンドがフェミニズムという新しい波にどう向き合おうとしたか”という歴史的な試行錯誤を見る視点である。
この二つを行き来しながら耳を傾けると、『For Ladies Only』は決して“失敗作”ではなく、“成功と失敗が同じだけ詰まった、時代のスナップショット”として非常に豊かな聴き物になってくる。
ヒット曲だけでは見えない、Steppenwolfというバンドの複雑さと限界、その両方を教えてくれるアルバムなのだ。
5. おすすめアルバム(5枚)
- Monster / Steppenwolf
アメリカの歴史とベトナム戦争をテーマにした政治コンセプト・アルバム。
“国家と権力”を正面から批判したこの作品を聴いたあとに、『For Ladies Only』の“日常とジェンダー”の視点に触れると、バンドの問題意識の変遷がよく見えてくる。 - Steppenwolf 7 / Steppenwolf
直前作となるスタジオ・アルバム。
George Biondo 加入後のサウンドが固まりつつある作品で、『For Ladies Only』と比べると、政治性と個人的テーマのバランスがやや前者寄りに傾いている。
両作を並べて聴くと、“ハード・ロック・バンドがテーマをどこまで広げるか”という模索の過程が浮かび上がる。 - Steppenwolf / Steppenwolf
「Born to Be Wild」「The Pusher」を収めたデビュー作。
まだフェミニズムなどの大きなテーマには踏み込んでいないが、ブルースとハード・ロックが混ざり合った荒々しいサウンドが、後年の社会批評的作品とのコントラストを際立たせる。 - E Pluribus Funk / Grand Funk Railroad
同じ1971年のアメリカン・ハード・ロック作。
社会派というよりは肉体派寄りのロックだが、当時の“男臭い”ハード・ロック像を確認したうえで『For Ladies Only』を聴くと、Steppenwolfのジェンダー意識のねじれがよりくっきりと見えてくる。 - Tapestry / Carole King
こちらも1971年に発表された女性シンガー・ソングライターの金字塔。
女性自身の言葉で日常や感情を描いたこの作品と、男性バンドが“女性のために”を掲げた『For Ladies Only』を並べて聴くと、同時代における“声の出どころ”の違いが鮮やかに対比される。
7. 歌詞の深読みと文化的背景
『For Ladies Only』の歌詞を、当時の文化的背景と重ねて読むと、いくつかのポイントが浮かび上がる。
ひとつめは、“フェミニズムを掲げる男性ロック・バンド”という立ち位置の難しさである。
タイトル曲「For Ladies Only」では、男たちの無神経さや、女性を都合よく扱ってきた態度が批判される。
しかし、その語り口はあくまで“仲間内に向かって語る男の声”であり、女性の視点が直接的に出てくるわけではない。これは、当時の第二波フェミニズムが“女性自身の声”を求めていたのに対し、『For Ladies Only』が“女性のために”を男側の代表者が代弁している、という構図にも通じる。
その善意と限界が、アルバム全体の歌詞に影を落としているとも言えるだろう。
ふたつめは、言葉の選び方のアンビバレンスだ。
「Jaded Strumpet」における“Strumpet”のような古めかしい蔑称や、ゲートフォールド写真の性的メタファーは、男性ロック文化の“悪ノリ”の延長線上にある。
バンドはそれを批判的に使っているのかもしれないが、結果的にはその語彙を再生産してしまっている。
一方で、「Tenderness」や「Sparkle Eyes」「In Hopes of a Garden」のような曲では、女性を“守るべき存在”として扱うのではなく、同じ地平に立つパートナーとして描こうとする気配もある。
ここには、当時の男性ミュージシャンが、“マッチョなロック”からどのように距離を取るか、その模索が反映されているようにも思える。
三つめは、政治性の変化である。
『Monster』では、アメリカ史を俯瞰して国家を“モンスター”と呼んだSteppenwolfが、本作では“男女関係”や“日常のコミュニケーション”にテーマを移している。
これは、60年代末の大文字の政治から、70年代初頭の“日常の中の政治”へ関心が移っていく、広い意味での文化の流れとも重なる。
その意味で、『For Ladies Only』は、フェミニズムをめぐるロックの歴史の中で、成功と失敗を同時に体現したアルバムである。
完璧にフェミニストな作品とは言い難いが、だからこそ、当時のジェンダー観やロック文化の限界を可視化する資料としての価値がある。
現代のリスナーがこのアルバムを聴くとき、“ここはダメだな”と思う部分も含めて、何がどう問題なのかを言葉にしていくこと自体が、70年代ロックとの健全な向き合い方なのかもしれない。
10. ビジュアルとアートワーク
『For Ladies Only』のジャケットは、Tom Gundelfinger の写真とデザインによるゲートフォールド仕様である。
外側には、ロサンゼルスの風景とバンドのイメージが組み合わされており、一見すると70年代ハード・ロックらしいアートワークに見える。
しかし内側を開くと、ハリウッドのウォーク・オブ・フェイム沿いに、“男性器型の車”が走っているきわどい写真が大きく配置されている。
このイメージは、フェミニズム・コンセプトと強く結びつく。
“男根的権力”を視覚化し、それを笑い飛ばそうとしているのか、それとも単なるショック狙いなのか。
当時のロック・アートワークの文脈では、挑発的なセクシュアル・イメージは珍しくなかったが、“女性のために”というタイトルとセットで提示されることで、一層複雑な読みを要求してくる。
結果として、このアートワークは一部批評家から“セクシスト”と見なされ、アルバム自体の評価にも影響を与えた。
しかし、現代から振り返ると、このジャケットは“男性ロック文化がフェミニズムをどう誤読したか”を象徴するアイコンにもなっている。
音だけでなく視覚表現も含めて、『For Ladies Only』は1971年という年の矛盾と葛藤をそのまま封じ込めたアルバムなのである。
参考文献
- Wikipedia “For Ladies Only” (作品概要、トラックリスト、コンセプト、チャート情報、評価)ウィキペディア+1
- Jazz Rock Fusion Guitar “Steppenwolf – 1971 For Ladies Only” (アルバムの位置づけ、フェミニズム・コンセプト、制作背景の概要)jazz-rock-fusion-guitar.blogspot.com
- Chart-History.net “Steppenwolf – Album-Chart-History / Singles-Chart-History” (アルバムおよびシングルのチャート推移)chart-history.net
- BGO Records “Early Steppenwolf / For Ladies Only” (トラック構成と再発情報の確認)bgo-records.com
- Psychedelic Baby Magazine “The Steppenwolf Story – Chapter Eight” (『For Ladies Only』の商業的評価と解散前最後のスタジオ作としての位置づけ)It’s Psychedelic Baby Magazine



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