1. 歌詞の概要
「Five Years」は、デヴィッド・ボウイが1972年に発表したアルバム『The Rise and Fall of Ziggy Stardust and the Spiders from Mars』の冒頭を飾る楽曲である。この曲はアルバム全体の壮大な物語を導く序章として機能し、人類が滅亡まで残された5年間という設定を提示する。歌詞の語り手は、テレビのニュース放送を通じて「地球はあと5年で終わる」という衝撃的な事実を知り、その後の世界の混乱や人々の反応を目撃する。そこには絶望、悲嘆、混沌、そして愛や人間同士の結びつきが浮かび上がる。単なる黙示録的な描写にとどまらず、限られた時間の中で生きる意味や、人間同士の絆の大切さを投げかける内容なのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
本曲はアルバム『ジギー・スターダスト』のストーリー全体を始動させる役割を担っている。ボウイはこのアルバムにおいて、異星から訪れるロックスター「ジギー・スターダスト」という架空の存在を通して、人類の滅亡、救世主的存在、そして名声の光と影を描いている。その第一章とも言える「Five Years」は、まず「地球に残された時間がわずか5年である」という設定を提示し、聴衆を物語世界へと引き込む。
制作背景としては、1970年代初頭の不安定な国際情勢が大きく影響している。冷戦の緊張、核戦争への恐怖、公害や環境破壊への懸念など、終末的なムードは時代の空気として色濃く存在していた。また、ロックミュージシャンの中には「世界の終わり」をテーマにする者も少なくなかったが、ボウイはそれを単なる絶望ではなく、ロック・オペラ的な物語の始まりとして昇華させた。
音楽的には、比較的シンプルなドラムとピアノの伴奏が反復され、淡々としたリズムの中に次第に感情が高まり、最後には切迫感と絶叫が入り混じるような展開を見せる。このダイナミズムは、聞き手に黙示録的な情景を鮮烈に焼き付ける役割を果たしている。特に終盤でボウイが感情を爆発させるように「five years」と繰り返す部分は、彼の歌唱の持つドラマ性を最大限に発揮した場面だと言える。
また、ボウイ自身はインタビューで「ニュースを通じて終末が宣告される」というシチュエーションについて、メディアの力や社会の受け止め方にも暗示を込めていたと語っている。つまり、この曲は単なるフィクションの物語であると同時に、現実の社会に潜む危機感や情報伝達のあり方への批評とも読み取れる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
(引用元:Genius Lyrics)
We’ve got five years, stuck on my eyes
僕らにはあと5年しかない、その光景が目に焼き付いて離れない
Five years, what a surprise
5年…なんて驚きなんだろう
We’ve got five years, my brain hurts a lot
あと5年しかない、脳が割れるほどに苦しい
Five years, that’s all we’ve got
5年、それが僕らに残されたすべてだ
ここで繰り返される「five years」という言葉は、切迫したリフレインとして聴き手の心に突き刺さる。世界の終末が漠然とした未来の話ではなく、目の前に迫った現実であることを強調している。
4. 歌詞の考察
「Five Years」は単なる終末の歌ではなく、人間の感情のカタログのように、多様な人物や場面を切り取っているのが特徴である。歌詞の中では泣き叫ぶ母親、絶望する人々、街角に立つ警官、混乱の中で互いを抱きしめる恋人など、細やかなスケッチが並んでいる。これはまるでドキュメンタリーのように、終末を前にした人類の姿を描いているのだ。
この曲の核心は「人類の残された時間が有限である」という設定を通じて、逆説的に「生の意味」を強調している点にある。終わりが定められて初めて、人々は互いに抱きしめ合い、愛を確認し、存在の重さを意識する。ボウイは、ジギー・スターダストの物語に入る前に「限られた時間」というテーマを鮮烈に提示することで、アルバム全体のトーンを決定づけた。
また、この曲にはボウイ自身の芸術観がにじんでいる。彼にとって音楽やパフォーマンスは単なる娯楽ではなく、人間存在の根源に迫るメッセージを届ける手段だった。「Five Years」の緊張感と情緒的な高まりは、聴き手に「自分ならこの5年間をどう生きるか」と問いかけるように響く。
同時に、メディアによって伝えられる「世界の終わり」という設定は、情報と現実の関係についても暗示的である。人々はニュースを通して一斉に動揺し、社会全体がその報道に支配される。現代的に読み替えると、情報の洪水やメディア・パニックの先駆的な表現にも感じられるのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Life on Mars? by David Bowie
同じく人間存在の不条理を描いたボウイの代表作。壮大なドラマ性を共有している。 - The End by The Doors
終末をテーマにした60年代ロックの代表曲で、詩的かつ黙示録的な世界観が「Five Years」と響き合う。 - A Day in the Life by The Beatles
日常の断片と突然の死を描き、壮大なオーケストレーションでクライマックスを迎える点が共通する。 - Rock ’n’ Roll Suicide by David Bowie
『ジギー・スターダスト』のラストを飾る曲で、孤独や終末を救済の叫びへと昇華する。 - The Sound of Silence by Simon & Garfunkel
社会不安や人間の孤立を詩的に描き、内省的で終末的な響きを持つ楽曲。
6. 「ジギー・スターダスト」の序章としての役割
「Five Years」が特筆すべきは、アルバムの冒頭曲として、まるで舞台の幕を開けるような役割を果たしている点である。この曲で「地球はあと5年で終わる」という設定が示されなければ、後に登場するジギーという存在の意味や役割は理解できない。まさに物語の地盤を築いた曲であり、アルバム全体をオペラ的な流れとして聴くために欠かせない導入部なのだ。
さらに、ライブパフォーマンスにおいても「Five Years」は重要な位置を占めた。1970年代のコンサートでは、ボウイが感情を込めて絶叫するシーンがしばしば観客を圧倒し、終末を共有するような一体感を生み出した。音楽と演劇性が融合した瞬間であり、彼が単なるロックスターではなく「芸術家」と呼ばれる所以を示している。
結局のところ、「Five Years」は黙示録的な恐怖を描きながらも、人間の愛と結びつきを見つめ直すための歌であり、ジギー・スターダストの壮大な物語を支える礎となった楽曲なのである。
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