
発売日: 1997年10月20日
ジャンル: インダストリアル・ロック、ダーク・ウェーブ、エレクトロニック
神と悪魔、光と闇——Numanが創り出した黙示録的サウンドスケープ
1997年、Gary NumanはアルバムExileをリリースし、90年代のダーク・エレクトロ/インダストリアル・ロックの流れを決定的なものにした。本作は、彼の復活を告げた前作Sacrifice(1994年)をさらに進化させ、より壮大で、より陰鬱な世界観を描いたアルバムである。
Exileのテーマは「宗教と欺瞞」。アルバム全体を通して、神と悪魔、善と悪の概念が揺らぎ、Numan流の反宗教的視点が貫かれている。 彼はインタビューで「もし神が本当に存在するなら、なぜこんなにも世界は残酷なのか? もしかしたら、神こそが悪魔なのでは?」という疑問を抱いていたことを語っており、その思索がこのアルバムの根底にある。
サウンドは、前作Sacrificeのインダストリアルな要素をさらに強化し、よりシネマティックでドラマチックなアレンジが施されている。壮大なシンセパッド、ヘヴィなリズム、ゴシックなメロディが交錯し、まるで終末の世界を旅するかのような感覚をリスナーに与える。
Nine Inch NailsやMarilyn Mansonが台頭していた90年代後半において、Numanはこの流れに影響を与えるだけでなく、自身もその波に乗る形で、新たなファン層を獲得することとなった。
全曲レビュー
1. Dominion Day
アルバムの幕開けを飾る、ダークで壮大な楽曲。重厚なビートとシンセの洪水が、一瞬でリスナーを黙示録的な世界へと引きずり込む。 歌詞は「神がいなくなった世界」を描写しており、アルバムのテーマを明確に提示している。
2. Prophecy
シンセとギターが絡み合う、不穏で重厚なナンバー。タイトル通り、「預言」にまつわる楽曲で、宗教的なメッセージが込められている。 コーラスの荘厳さが印象的で、アルバム全体の雰囲気をさらに強調している。
3. Dead Heaven
「もし神が本当に存在するなら、なぜこれほど世界は残酷なのか?」というNumanの疑問を象徴する楽曲。スローテンポのビートと、幽玄なシンセサウンドが交錯し、まるで天国と地獄の間に漂っているような錯覚を覚える。
4. Dark
タイトル通り、このアルバムの中でも特にダークで内省的な楽曲。 Numanのボーカルは囁くようでありながらも、内に秘めた怒りと絶望が滲み出ている。
5. Innocence Bleeding
美しくも悲壮感の漂う楽曲。静かなピアノのイントロから始まり、徐々に壮大なインダストリアル・サウンドへと発展していく。「無垢が血を流す」というタイトルは、宗教的な犠牲や人類の堕落を象徴している。
6. The Angel Wars
本作のハイライトのひとつ。タイトルからも分かる通り、「天使の戦争」という神話的なテーマを扱っている。 戦争や人類の自己破壊をテーマにした歌詞が印象的で、シンセとギターが激しくぶつかり合うサウンドは、まるで戦場のような迫力を持っている。
7. Absolution
ゴシックなムードが強い楽曲で、神への懺悔と疑念が交錯する内容。荘厳なシンセのパッドが楽曲全体を包み込み、まるで宗教儀式のような雰囲気を醸し出している。
8. An Alien Cure
異星人の視点から描かれたような楽曲で、Numan特有のSF的な要素が垣間見える。機械的なビートと、冷たいシンセの音色が、異世界感を強調している。
9. Exile
アルバムのタイトル曲にして、最も重要な楽曲のひとつ。アルバムの全体テーマである「追放された神」について描かれており、シンセとギターが絡み合い、まるで神話の終焉を告げるかのような壮大なサウンドを展開している。
10. The Saviour
アルバムのラストを締めくくる楽曲。タイトルが示すように、「救済者」がテーマになっているが、その存在に対する懐疑や不信が込められている。静かなイントロから始まり、最後には壮大なクライマックスを迎える。
総評
Exileは、Gary Numanのダークで宗教的なテーマを極限まで突き詰めた作品であり、彼のインダストリアル・ロック期の最高傑作のひとつである。前作Sacrificeよりもサウンドのスケールが増し、よりシネマティックでドラマチックなアプローチが取られている。
本作を聴くと、神と悪魔の境界が曖昧になり、善と悪の概念すら揺らぐような感覚に陥る。これはまさにNumanが意図したことであり、リスナーを終末の世界へと引きずり込むようなアルバムとなっている。
Nine Inch Nails、Marilyn Manson、Depeche Modeといったバンドがインダストリアル・ロックの最前線を走っていた90年代後半において、Numanは彼らと共鳴しながらも、独自の哲学を持つ作品を生み出した。このアルバムを機に、彼は再び多くのファンを獲得し、キャリアの第二の黄金期へと突入することとなる。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
- Nine Inch Nails – The Fragile(1999年)
荘厳なインダストリアル・ロックの傑作。Exileのダークな雰囲気と共鳴する。 - Marilyn Manson – Mechanical Animals(1998年)
90年代後半のインダストリアル・ロックの象徴的作品。Numanの影響が色濃く表れている。 - Depeche Mode – Ultra(1997年)
ダークでゴシックなムードを持つシンセ・ロック作品。Numanファンにおすすめ。 - David Bowie – Outside(1995年)
ボウイがインダストリアルなサウンドに挑戦した異色作。 - Front Line Assembly – Millennium(1994年)
インダストリアル・ロックとエレクトロの融合が魅力の作品。
Exileは、Numanが創り出した宗教的ディストピアのサウンドトラックであり、インダストリアル・ロックの名盤として語り継がれるべき作品である。
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