
発売日: 2008年8月18日
ジャンル: エレクトロニカ、フォークトロニカ、アートポップ
デジタルと人間の融合—穏やかなる未来の讃歌
2008年、Brian EnoとDavid ByrneはMy Life in the Bush of Ghosts(1981年)以来27年ぶりとなるコラボレーション・アルバムEverything That Happens Will Happen Todayをリリースした。本作は、前作の実験的なサンプリングと音響コラージュとは異なり、よりメロディアスで温かみのある作風となっている。Eno自身が「ゴスペル・エレクトロニカ」と呼ぶように、電子音楽の洗練されたプロダクションと、Byrneの人間味あふれるヴォーカルが融合した作品であり、未来志向でありながらもどこか郷愁を感じさせるアルバムだ。
リリースはCDだけでなく、当時としては革新的だったデジタル配信によって行われ、アルバムのテーマである「未来の予感」とシンクロしている。混沌とする現代社会の中で、優しさと希望を見出すことを目的としたようなこの作品は、リスナーに静かな感動を与える。
全曲レビュー
1. Home
暖かみのあるアコースティックギターとエレクトロニカのシンプルなビートが印象的なオープニングトラック。「Home(故郷)」という普遍的なテーマが、静かで穏やかなメロディとともに心に染み入る。
2. My Big Nurse
フォーク・ポップのような雰囲気を持つ楽曲。Byrneの柔らかいヴォーカルが際立ち、メロディの親しみやすさが特徴的。
3. I Feel My Stuff
アルバムの中で最も実験的なトラックの一つ。Enoの得意とするミニマルなビートと、不規則なコード進行が独特の浮遊感を生み出している。Byrneのヴォーカルは徐々に熱を帯び、終盤に向かって高揚する。
4. Everything That Happens
アルバムのタイトルを冠した楽曲で、神聖な雰囲気を持つメロディが特徴。アンビエント的なシンセとアコースティックギターが融合し、未来と過去が交差するような感覚を生み出す。
5. Life Is Long
ピアノとギターが交差するシンプルなアレンジの中で、「人生は長い」と繰り返される歌詞が印象的。アルバム全体の中でも最も穏やかでポジティブなメッセージが込められた楽曲。
6. The River
エレクトロニック・ミュージックの要素を前面に押し出したミッドテンポのトラック。河の流れのように一定のリズムを刻みながら、優しく包み込むようなサウンドスケープを作り出している。
7. Strange Overtones
本作のリードシングルであり、最もキャッチーな楽曲。軽快なリズムとキャッチーなメロディが心地よく、Byrneのヴォーカルが力強くも温かい。音楽の創造過程を描いた歌詞がメタ的な視点を与えている。
8. Wanted for Life
静謐なシンセと控えめなビートの上に、Byrneの歌声が浮遊する。夢の中をさまようような幻想的な楽曲であり、サウンドデザインが際立つ。
9. One Fine Day
希望に満ちた楽曲で、聴いていると自然と前向きな気持ちになれるような雰囲気を持つ。シンプルなメロディが力強く響く。
10. Poor Boy
やや実験的なサウンドデザインが施された楽曲。Byrneのヴォーカルがミステリアスな響きを持ち、エレクトロニックなビートが緊張感を生む。
11. The Lighthouse
アルバムの最後を飾る美しいバラード。まるで灯台の光のように、静かに希望を照らし続けるような楽曲で、聴き終えた後に余韻が残る。
総評
Everything That Happens Will Happen Todayは、Brian EnoとDavid Byrneのコラボレーションにおける新たなフェーズを示す作品だ。My Life in the Bush of Ghostsのような過激な実験性は抑えられ、代わりにメロディアスでヒューマンな音楽が展開される。本作では、デジタル技術を駆使しながらも、どこかアナログな温かみが感じられる。
音楽的にはフォークトロニカやミニマル・エレクトロニカの要素が強く、近年のSufjan StevensやBon Iverの作品にも通じる質感がある。一方で、歌詞は希望と癒しをテーマにしており、世界の不確実性を受け入れながらも、そこに美しさを見出そうとする姿勢が印象的だ。
穏やかでありながらも、心の奥に深く響く本作は、静かに自己と向き合いたい時に最適なアルバムである。
おすすめアルバム
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David Byrne – Grown Backwards (2004)
アートポップの要素を持ちながらも、よりオーガニックなサウンドが楽しめる作品。 -
Brian Eno – Another Green World (1975)
アンビエント・ポップの名盤で、本作の音楽性に通じる部分が多い。 -
Sufjan Stevens – Carrie & Lowell (2015)
フォークとエレクトロニカが融合した内省的な作品で、本作と共鳴する部分が多い。 -
Bon Iver – 22, A Million (2016)
デジタル技術と人間的なエモーションが融合したアルバムで、本作と似たアプローチを取っている。 -
Peter Gabriel – So (1986)
エレクトロニカとゴスペルの要素を組み合わせた作品で、本作の「ゴスペル・エレクトロニカ」の要素に通じる。
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