Everybody Wants to Be Famous by Superorganism(2018)楽曲解説

 

1. 歌詞の概要

Superorganismの「Everybody Wants to Be Famous」は、2018年のセルフタイトル・アルバム『Superorganism』からのシングルであり、現代のデジタル社会──とりわけSNS文化と名声欲──を風刺的に描いた楽曲である。タイトルの通り、「誰もが有名になりたがっている」というメッセージが歌詞の核にあり、インターネット時代における自己表現と承認欲求の奇妙なねじれを軽妙かつ皮肉に描き出している。

歌詞の構成はシンプルで、繰り返しが多く、耳に残る言い回しが特徴的だが、その裏には深い批評性が潜んでいる。「Everybody wants to be famous / Nobody wants to be nameless」というリフレインは、現代社会のアイデンティティの不安を的確に言い当てており、派手なサウンドの中にも不穏な空気が流れている。

この楽曲は、誰もが自分の「15分の名声(15 minutes of fame)」を求める世界において、“本当の自分”や“持続的な幸福”が見失われていく現実を、ポップでサイケデリックな音像に乗せて描き出している。キャッチーでありながら、不安と混乱を伴う現代の空気感を鋭く捉えたポップ・アートソングである。

2. 歌詞のバックグラウンド

Superorganismは、2017年に突如として現れた多国籍の8人組バンドであり、その創作手法は完全にインターネット時代的である。ボーカルのOrono Noguchiは当時17歳の日本人高校生で、インターネットを通じてバンドメンバーと出会い、音源のやり取りだけで曲を完成させていた。こうした背景自体が、まさに“誰もがどこからでも有名になれる”という現代のパラドックスを体現している。

「Everybody Wants to Be Famous」は、そんなSuperorganismの哲学と世界観をもっとも象徴する楽曲であり、“バイラル”と“承認”の文化を肯定するのではなく、そこに漂う空虚さや危うさをユーモアとともに浮き彫りにしている。

また、ミュージックビデオも印象的で、テレビ、SNS、YouTubeなど、現代のメディア消費の象徴をカラフルかつサイケデリックに描きながら、その中で踊らされる個人の姿を風刺している。これにより、楽曲は単なる“流行りのポップソング”ではなく、メディア時代の自己と他者の関係性に踏み込んだアート作品としての深みを獲得している。

3. 歌詞の抜粋と和訳

引用元:Genius Lyrics – Everybody Wants to Be Famous

Everybody wants to be famous
みんな 有名になりたがってる

Nobody wants to be nameless, aimless
誰も 名前のないまま 目的もなく生きたくなんかない

People, are you ready? Let’s start the show
みんな準備はいい? さあ、ショーを始めよう

You never knew what hit you when the stars glow
スターの光に当てられて 何が起きたか分からないまま

How could you ever grow old?
こんなまま どうやって年をとるっていうの?

You’re just doing what you’re told
君はただ 言われたことをやってるだけさ

言葉はポップで軽やかに聞こえるが、内容は非常にシリアスだ。スターになることが幸福なのか、それとも何かを失う道なのか。その曖昧さがこの曲の魅力を一層深くしている。

4. 歌詞の考察

「Everybody Wants to Be Famous」は、名声という現代の“擬似宗教”についての考察とも言える。かつては「名を成す」ことは時間と努力を要する価値ある目標だったが、SNSが普及した現代では、フォロワー数や“バズる”ことが即座の成功の証明となり、誰もが“誰かに見られること”を欲望するようになった。

この楽曲はその状況を、決して道徳的に断罪するのではなく、あくまで“現実として肯定的に認識しながら、しかし風刺を込めて描く”というスタンスをとっている。Superorganismは、“私たちはこのシステムの中にいて、楽しんでいるけれど、それが全部じゃない”というメッセージを巧妙に仕込んでいるのだ。

「How could you ever grow old?」というラインには、名声と若さが不可分であるという時代の圧力が見える。歳をとることは、関心の外に置かれることと同義──それがこの社会における暗黙のルールなのだろう。そしてそれは、自己表現が“他者に映る自分”を前提に成り立っていることの裏返しでもある。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Pop Culture by Madeon
    サンプラー文化の究極系。音楽とメディアの融合をテーマにした名パフォーマンス。
  • Los Ageless by St. Vincent
    若さと名声、人工的な美しさをテーマにしたアイロニカルなアートポップ。
  • Royals by Lorde
    セレブ文化と名声至上主義を批判的に捉えたミニマル・ポップの傑作。
  • Internet by Post Malone
    ネット社会における疲弊と孤独を描いた、現代のリアルなエレジー。
  • Time to Pretend by MGMT
    スターになることの空虚さと幻想を、きらびやかなサウンドに託した名曲。

6. 名声の時代を生きる、私たち自身のテーマソング

「Everybody Wants to Be Famous」は、Superorganismが“ただ奇抜な新人バンド”ではなく、“現代の文化と心理に対する鋭い観察者”であることを証明した楽曲である。そのポップなサウンドは耳に心地よく、インスタントに楽しいが、その奥には“誰かに見られないと存在できない”という不安と、“見られても本当には理解されない”という孤独が潜んでいる。

この曲は、TikTok、Instagram、YouTubeといった“名声の装置”が日常化した今の時代において、自己とは何か、表現とは何か、注目されることの価値とは何かを問いかけてくる。しかもそれを説教ではなく、ユーモアとリズム、そして耳に残るメロディで届けるのが、Superorganismの天才的な手腕である。

誰もが有名になりたい。でも、本当は何者にもなれないことの方が、ずっと深くてリアルなのかもしれない。「Everybody Wants to Be Famous」は、そんな矛盾を抱えて生きる私たちに、“それでも踊りながら生きよう”と静かに励ましてくれる、新時代のアンセムなのだ。

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