アルバムレビュー：Empire by Kasabian

アルバムレビュー

2024.11.05

発売日: 2006年8月28日
ジャンル: オルタナティブ・ロック、エレクトロ・ロック、ダンスロック

Empireは、カサビアンが2004年のセルフタイトルデビューアルバムで築いたサウンドを進化させ、バンドの力強いパフォーマンスと洗練されたエレクトロロックの融合を一段と押し広げた作品である。この2ndアルバムは、デビュー作の荒々しいエネルギーを継承しつつ、サウンドの幅を広げ、より大規模でドラマティックな楽曲構成が特徴的だ。アルバムのタイトル「Empire（帝国）」が示すように、カサビアンはここで野心的なテーマとビジョンを持ち込み、より洗練された、統一感のある作品を完成させた。

プロデュースには、デビュー作に続きジム・アビスが携わり、重厚なベースとエレクトロニックなリズムが、カサビアンならではの独特のダンスロックサウンドを支えている。シンセサイザーやデジタルエフェクトに加え、軍歌風のコーラスや壮大なアレンジが多用され、映画のようなスケール感を持つトラックが並ぶ。歌詞には反戦のメッセージや政治批判も込められ、バンドのメッセージ性が強まっている。リリース直後にはイギリスのアルバムチャートで1位を獲得し、バンドの存在感をさらに確立した。

トラックごとの解説

1. Empire
アルバムのタイトル曲で、ミリタリースタイルのドラムとエネルギッシュなギターリフが特徴的。戦争と暴力を批判するテーマが歌われ、カサビアンの反抗的な姿勢が表れている。コーラスが壮大で、アンセミックな雰囲気が強い。

2. Shoot the Runner
シンプルで覚えやすいギターリフとダンサブルなビートが魅力のトラック。トム・ミーガンとセルジオ・ピッツォーノのボーカルが交互に登場し、曲にエッジを加えている。キャッチーでありながらも攻撃的な印象を与える一曲。

3. Last Trip (In Flight)
サイケデリックなエフェクトとゆったりとしたテンポが特徴で、浮遊感があるトラック。スペーシーなサウンドがリスナーを包み込み、アルバムにおいて異色のダウンテンポな一曲。

4. Me Plus One
ダークでメロウなメロディが特徴のトラックで、軽快なギターリフとエレクトロビートが心地よく調和している。政治的なメッセージが込められており、リリックに皮肉が漂う。

5. Sun Rise Light Flies
アルバムの中でも特に壮大でサイケデリックな一曲。シンセサイザーの音が宇宙的な雰囲気を演出し、広がりのあるサウンドがリスナーを異空間へと誘う。

6. Apnoea
短いながらも緊迫感のあるインストゥルメンタルで、重厚なビートとシンセが融合し、アルバム全体にリズムの流れをもたらす。サウンドトラックのような役割を果たしている。

7. By My Side
メローで静かなイントロから始まり、次第にエネルギーを増していく。淡い悲しみが漂うメロディが、リスナーを深く引き込む。

8. Stuntman
力強いビートとシンセリフが印象的な一曲で、フロア向けのダンサブルなトラック。ボーカルがリズムに乗って強烈に響き、エレクトロとロックが見事に融合している。

9. Seek & Destroy
重いギターとシンセサウンドが交錯する、緊張感あるトラック。戦いの準備をするかのような勇ましい雰囲気が漂い、アルバムのダークなテーマを強調している。

10. British Legion
アコースティックギターがメインのシンプルな曲で、哀愁漂う雰囲気が特徴。戦争の無意味さと悲しさを表現しており、メイヤーの真摯なボーカルが胸に響く。

11. The Doberman
アルバムを締めくくる壮大なナンバーで、スローテンポながらも緊迫感に満ちている。映画のエンディングシーンのようなシンセとギターが絡み合い、力強いフィナーレを飾る。

アルバム総評

Empireは、カサビアンがエレクトロロックとオルタナティブロックの境界を越え、さらに壮大でドラマティックな音楽性を追求したアルバムである。戦争や社会に対する批判的なメッセージが強調されており、トラックごとに異なるテーマが展開される一方で、アルバム全体として一貫性がある。特に「Empire」や「Shoot the Runner」などのシングル曲は、ライブでも人気が高く、カサビアンのスタイルを象徴する楽曲として定着している。デビューアルバムと比べ、より洗練された音作りと、壮大なアレンジが印象的で、バンドの成長を強く感じさせる作品だ。Empireは、カサビアンの音楽的な野心が形となった名盤であり、彼らのキャリアにおける重要な一歩となっている。