
1. 歌詞の概要
「Electric(エレクトリック)」は、Luscious Jackson(ラッシャス・ジャクソン)が1994年にリリースした1stフルアルバム『Natural Ingredients』に収録されたトラックであり、そのタイトルが示す通り、“身体を貫くような衝動”や“都市のエネルギー”を象徴するエレクトリックな感覚をテーマにした楽曲である。
この曲では、恋愛関係や人との関係性を通して感じる高揚、あるいは“触れ合った瞬間に走る電流”のような感覚が、比喩と直喩を行き来するスタイルで表現されている。
“Electric”という単語は、エネルギーの象徴であると同時に、性的な緊張感や感情の閃光、そして直感的な結びつきのイメージも内包しており、リリック全体が“感覚で理解される言葉”として構成されているのが特徴だ。
語り手は、誰かとの出会いや言葉、視線といったミクロな接点に“放電”するようなリアクションを感じながら、それに翻弄されるでもなく、自分のリズムの中でコントロールしようとする意志を見せる。
そのバランス感覚こそ、Luscious Jacksonの音楽に流れる“都会的で知的な女性像”そのものである。
2. 歌詞のバックグラウンド
Luscious Jacksonは、Beastie Boysが設立したレーベル「Grand Royal」からデビューし、1990年代のニューヨーク・アンダーグラウンド・シーンで大きな注目を浴びた女性4人組バンドである。
彼女たちの音楽は、ヒップホップのビート感、ファンクのグルーヴ、ジャズの洒落っ気、そしてオルタナティブ・ロックのエッジを柔軟に組み合わせた、当時としては非常にモダンかつミクスチャー的なスタイルであった。
「Electric」は、そうしたジャンル横断的な彼女たちのスタイルをもっとも体感的に味わえる楽曲のひとつであり、アルバム『Natural Ingredients』の中でも際立って“肉体的”で“感覚的”なトラックである。
電子音を多用するわけではなく、生演奏とループの組み合わせの中で“エレクトリックな感覚”を喚起するという手法は、むしろその逆説的なアプローチにこそ90年代の感性が宿っている。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Electric」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“You touched my arm and it was electric”
「あなたが私の腕に触れたとき / まるで電流が走ったみたいだった」
“The moment sparked and then I knew”
「その瞬間に火花が散って / 私はすぐに悟ったの」
“We’re caught up in the wires”
「私たちはコードの中に絡め取られてる」
“This isn’t love, but it’s something true”
「これは恋じゃない、でも確かな何かよ」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Luscious Jackson – Electric Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Electric」は、恋愛とも性愛とも限定しきれない“つながり”の瞬間に生じる感覚を、そのまま言葉にしたような楽曲である。
一瞬の触れ合いがすべてを変えてしまうような衝撃――それは科学的に測れるものではないが、誰もが体験として知っている感覚であり、それが“Electric”というたった一語に凝縮されている。
とりわけ興味深いのは、語り手がその衝撃に“飲み込まれていない”ことだ。
「これは恋じゃない、でも確かな何か」というラインに象徴されるように、感情に名前をつけず、それでもその存在を認める。
この距離感、冷静なまなざし、だが完全に無関心ではいられないというバランスこそ、Luscious Jacksonならではの“都会的で成熟したフェミニニティ”の表現と言えるだろう。
また、“wires(ワイヤー)”や“spark(火花)”といったテクノロジー的なメタファーを用いることで、人間関係そのものが“通電”のようなプロセスであるという視点も提示される。
つまり人と人との関係とは、“電圧が高いときにしか通じない”ものであり、“つながる”という行為自体が物理的で不確かなものだという認識が、この楽曲の背景にはある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Ray of Light by Madonna
身体の加速度と感情の電流を音に変えた、現代的スピリチュアル・ポップ。 - I Feel It All by Feist
内省と爆発の間を行き来する感情を、しなやかなビートに乗せた秀作。 - Groove Is in the Heart by Deee-Lite
感覚的な快楽と都市のエネルギーを極彩色で描いたダンス・アンセム。 - Cannonball by The Breeders
瞬間的な衝動をノイジーで感覚的に表現した、90年代オルタナの象徴曲。 - Born Slippy (NUXX) by Underworld
感情の電流がビートに変わり、都市を疾走するようなエレクトロニック・カタルシス。
6. “衝動は、言葉よりも速く走る”
「Electric」は、感情が思考を超えて身体を突き動かす瞬間――その“説明できない体験”をそのまま音と詩にしたような作品である。
それは名付けることを拒むようでありながら、確かに心と身体を震わせる実感をもって迫ってくる。
この楽曲は、都市に生きる誰かと誰かがふと交錯する“感覚の火花”を、冷静に、しかし鮮やかに切り取った、ラッシャス・ジャクソンならではのエレクトリック・バラッドである。
言葉ではなく、リズムで理解される。その瞬間、あなたの中にも何かが点灯する。そんな1曲だ。
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