Eighties by Killing Joke(1984)楽曲解説

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1. 歌詞の概要

Killing Jokeは1978年にイギリス・ロンドンで結成されたポストパンク/ニューウェーヴの代表的バンドであり、彼らの曲の多くは政治的・社会的批判を含みつつ、攻撃性や不安感を帯びたサウンドが特徴的です。そんなKilling Jokeが1984年に発表したシングル「Eighties」は、彼らのキャリアにおいて重要な楽曲の一つとして知られています。
曲のタイトルが示すとおり、この曲のテーマは「1980年代」という時代そのものに向けられています。歌詞の内容には、成長と拡大を遂げる資本主義や新自由主義的な社会構造への皮肉、冷戦下での核戦争の脅威、そして高度に消費社会化した世界への批判などが、Killing Joke特有の直接的な言い回しと暗いユーモアを交えて表現されています。当時イギリスをはじめとする先進諸国では、マーガレット・サッチャー政権やロナルド・レーガン政権が推進する経済政策、軍拡競争、社会的不安が渦巻いており、Killing Jokeのメンバーもそうした時代の空気を肌で感じながら創作に取り組んでいました。
リズム面では、ポストパンクらしいタイトで硬質なビートと、ギタリストGeordie Walkerの切れ味鋭いリフが印象的です。時にはダンサブルなグルーヴを感じさせながらも、Jaz Colemanのヴォーカルによって強調される厭世的で挑発的な雰囲気が曲を支配し、聴き手の神経を逆撫でするかのような緊張感が漂います。メロディ自体は比較的シンプルで耳に残りやすい反面、その一方で歌詞が伝えるメッセージは重く、常に不穏さをまとっているという、Killing Jokeらしいギャップが魅力的でもあります。

2. 歌詞のバックグラウンド

「Eighties」がリリースされた1984年は、世界的に見れば冷戦構造が激化し、中距離核戦力全廃条約(INF)締結前のヨーロッパが緊張状態にあった時期でもありました。イギリス国内では鉱山労働者のストライキや、大胆な民営化政策など、サッチャー政権の強硬な手法が賛否両論を巻き起こしていました。社会不安が増大する中で、音楽シーンでも激しいプロテストソングやアンダーグラウンドなムーブメントが活況を呈しており、Killing Jokeはそんな混沌とした状況をエネルギー源としつつ、自らのダークで刺々しい音楽性を確立させていったのです。
Killing Jokeは初期から、核戦争や政治腐敗、環境破壊などをモチーフに、バンド特有のアグレッシブなサウンドを通じて社会批評を発信してきました。結成メンバーでもあるJaz Colemanは、神秘主義やオカルト思想にも傾倒しており、彼の持つ超常的かつ過激な思想が歌詞にも大きな影響を与えています。一方で、ポストパンクという音楽性の土台があるため、単に「政治批判」だけではなく、暗鬱な空気感や攻撃的なビート、そしてファンを熱狂させる独特のグルーヴを同居させることに成功しているのがKilling Jokeならではの特徴です。
そうした流れの中で「Eighties」は、特に時代批評の要素が強く前面に押し出されています。80年代という「現代」に対する皮肉や失望感、あるいは未来への警鐘が込められており、若者たちが抱える不安や怒りを代弁するような歌詞になっているのが特徴です。ポストパンクのアティチュードを保ちながらも、キャッチーなリフやコーラス的なリズムを導入しており、Killing Jokeの代表作として長く愛され続ける理由ともなりました。

3. 歌詞の抜粋と和訳

以下に「Eighties」の歌詞の一部を抜粋し、その日本語訳を掲載します。なお、著作権保護の観点から引用は部分的にとどめています。完全な歌詞はリンク先でご参照ください:
Killing Joke – Eighties Lyrics

Eighties – I’m living in the eighties
80年代――俺はまさにこの80年代を生きている
Eighties – I have to push, I have to struggle
80年代――生き抜くために、前に押し進むために必死にならなきゃならない
Oh, it’s the eighties – stuck in the eighties
ああ、80年代だ――まるで閉じ込められたような気分
Eighties – I want to break it all down
80年代――すべてをぶち壊したい衝動がある

上記のフレーズからもわかるように、歌詞は直球で「80年代」を強調しながら、それに対する葛藤や苛立ちをストレートに表現しています。「自分は80年代を生きている」「ここから抜け出せない」というニュアンスは、同時代の価値観や社会情勢への批判や息苦しさを告白するものとして解釈でき、聞き手は80年代の混沌とした空気感をリアルに感じ取ることができるでしょう。

4. 歌詞の考察

本楽曲においてKilling Jokeが提示する「80年代」というキーワードは、単なる年代の名を呼ぶに留まらず、当時の社会や政治の動向、文化の潮流、消費社会の暴走などを象徴するアイコンのような働きをしています。つまり「Eighties」とは、“当時を取り巻く様々な矛盾や問題の集合体”そのものを指し示す言葉になっているのです。
歌詞の中では、労働者たちの置かれた過酷な状況や核の脅威をはじめ、社会全般が不安と焦燥に包まれていることを暗に示唆しつつ、「俺は80年代に縛りつけられている」という強い表現で、その時代性に対する怒りや抗いきれない閉塞感を描き出しています。
さらに興味深いのは、こうした苛立ちや攻撃性が曲自体のダンサブルなリズムと共存している点です。ギターリフとビートは中毒性が高く、クラブやロックの現場でも盛り上がりを生むように作られている一方で、歌詞は絶望的な社会批評に満ちている――この二面性こそがKilling Jokeの真骨頂と言えるでしょう。聴く者は“音”の享楽性を感じながらも、その裏には“社会的・政治的な叫び”が潜んでいることを意識せざるを得ません。このギャップに、Killing Jokeの鋭いアイロニーと不穏さが凝縮されているのです。

5. この曲が好きな人におすすめの曲

  • Love Like Blood” by Killing Joke
    同じKilling Jokeの代表曲。こちらは愛を“血”に喩え、暴力的なほどの情熱を描く作品。ポストパンクの暗さとダンサブルなビートの融合が光り、バンドの別の一面を味わえます。

  • “Bela Lugosi’s Dead” by Bauhaus
    ゴシック・ロックの原点的名曲であり、暗黒要素やビートのストイックさ、時代性へのアンチテーゼという点で共通する部分が多い。重苦しい雰囲気が好きな方には必聴と言えるでしょう。
  • “A Forest” by The Cure
    ポストパンク~ニューウェーヴの最重要バンドの一つであるThe Cureの初期代表曲。メランコリックで冷たい音像が特徴で、Killing Jokeとはまた異なる角度の“80年代の闇”を堪能できます。

  • “Cities in Dust” by Siouxsie and the Banshees
    ニューウェーヴ/ゴシックを代表するバンド。都市の崩壊を描く象徴的な歌詞とダンサブルなビートの組み合わせが、Killing Jokeファンにも通じるアグレッシブな魅力を放っています。

  • Damaged Goods” by Gang of Four
    ポストパンク創世記を支えたバンドによる攻撃的な一曲。社会や消費文化、政治への鋭い批判を盛り込みつつ、ドライで切れ味のあるサウンドが炸裂。Killing Jokeとの思想的共通点も見出せるでしょう。

6. 特筆すべき事項:時代への怒りとダンスフロアの融合

「Eighties」はKilling Jokeのディスコグラフィの中でも、とりわけ“時代批評”の度合いが高く、それをストレートな歌詞表現でぶつける点が顕著な一曲です。80年代のポストパンク・ニューウェーヴシーンでは、暗鬱なサウンドと政治的・社会的メッセージが融合した音楽が数多く生み出されましたが、「Eighties」はその代表的な例といっても過言ではありません。
一方で、曲のビートやギターリフは多くのリスナーが乗れるキャッチーさを兼ね備えており、そのためカルト的な支持を得るだけでなく、比較的広い層に受け入れられた経緯があります。実際、ライブで演奏される際には大きな盛り上がりを見せる定番曲の一つとしても知られています。Jaz Colemanの挑発的かつ鬼気迫るボーカルは、喉の奥から絞り出すような怒りや苛立ちをリアルに伝え、時に破壊的ともいえるエネルギーを客席に放出するのです。
さらに、この曲には後年のロックシーンやオルタナティブ系アーティストへ多大な影響を与えた要素が含まれています。例えば、「Eighties」のギターリフがNirvanaの「Come as You Are」に似ているとして議論を呼んだ一件は有名な話です(Killing Joke側は訴訟を起こしたとされるが、その後和解していると伝えられています)。このエピソードは、Killing Jokeの音楽がグランジ~オルタナムーブメントにも密かに響いていた証左とも言えるでしょう。
また、80年代という暗雲立ち込める時代背景は、現代においてもさまざまな形で繰り返し参照されます。核の脅威や経済格差、社会の分断など、多くの問題は今もなお人類が抱える課題となっており、「Eighties」に込められた怒りや焦燥感が色あせることはありません。むしろ、バンドが予見していた不穏な気配は、いっそう切実なものとして私たちに迫ってくるといってもいいでしょう。
こうした意味で、「Eighties」は単なる80年代の記念碑的なポストパンク曲ではなく、時代を超えて有効な警鐘を鳴らし続ける存在でもあります。猛烈なエネルギーを発散しながらも、厳しい現実を凝視する視点を失わないKilling Jokeの姿勢は、多くのフォロワーやリスナーに深い影響を与えてきました。そして今後も、社会が混迷を深めるほどに「Eighties」の響きは鮮烈さを増し、ロックファンのみならず、時代を見つめ直す全ての人々のアンテナに触れるはずです。
Killing Jokeはその後も何度か解散や再結成を繰り返しながら、スタイルを変えつつ精力的な活動を続けていますが、「Eighties」のようなパワフルな楽曲はバンドの核となる精神を如実に示すものとして愛され続けています。80年代の陰鬱な空気、社会への怒りと破壊衝動、そして激しいビートに支えられたダンサブルな高揚感――これらが結実した「Eighties」は、ポストパンク/ニューウェーヴ史における一つの金字塔であり、Killing Jokeというバンドの本質が凝縮された名曲として、今なお世界中のリスナーを魅了してやまないのです。

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