発売日: 2008年5月19日(デジタル先行)、6月24日(フィジカル)
ジャンル: サイケデリック・ロック、オルタナティブ・ロック、エレクトロニカ、スペース・ロック
概要
『Earth to the Dandy Warhols』は、The Dandy Warholsが2008年に自主レーベルBeat the World Recordsからリリースした6作目のスタジオ・アルバムであり、メジャーレーベルからの独立後初の試みとして制作された“自由と混沌のマニフェスト”である。
前作『Odditorium or Warlords of Mars』ではサイケデリックな実験性が極まり、聴き手にとっては難解な側面もあったが、本作ではギター、シンセ、エレクトロ要素をより柔軟に融合させた雑多な音世界が展開されている。
タイトルの「Earth to…」という言い回しには、宇宙と地球、現実と虚構、孤立と再接続といったテーマが暗示されており、自己再定義と自己応答の意志が読み取れる。
また、レジェンド級ゲスト――The Heartbreakersのマイク・キャンベル、デッド・ケネディーズのジェロ・ビアフラなどの参加も話題となり、過去のロック史との対話を意識した音づくりが見られる。
本作は、批評的には評価が分かれたものの、The Dandy Warholsというバンドの「自分たちのやり方で音楽を続ける」覚悟と、その進化の途中経過を刻んだ意欲作として記憶されるべきアルバムである。
全曲レビュー
1. The World Come On
荒々しいギターとレイドバックしたボーカルが交錯する、ルーズなオープニング。
ゆったりとしたテンポのなかで、宇宙規模の広がりと地上の倦怠感が同居する。
2. Mission Control
エレクトロファンクなグルーヴが光る、80年代風ディスコ・パンク。
宇宙からの通信というテーマと、都市的なテンションが融合している。
3. Welcome to the Third World
政治的・社会的メッセージをにじませたスロウ・サイケ。
“第三世界へようこそ”というフレーズが、文明の二面性を皮肉る。
4. Wasp in the Lotus
メタリックなギターとエフェクトの洪水が続く、スペース・ロック色の濃いトラック。
“ロータスに紛れたスズメバチ”という象徴的なタイトルが示す通り、平穏の中の不穏を表現。
5. And Then I Dreamt of Yes
ドリーミーなシンセがリードする、内省的で美しい楽曲。
アルバム中でもっとも情感的で、夢と現実の曖昧さが織り交ざる。
6. Talk Radio
マイク・キャンベルがギターで参加。
80sのAORを思わせる洗練された一曲で、メディアと個人の関係を静かに描き出す。
7. Love Song
タイトルに反して、ラブソングの形式を揶揄するようなアイロニカルな構造。
メロディは親しみやすくも、感情表現にはどこか距離がある。
8. Now You Love Me
エフェクト過多なボーカルと無機質なビート。
愛の変容や誤解を描く、アート・ロック的アプローチ。
9. Mis Amigos
スペイン語のタイトル通り、ラテンフレーバーを感じさせる異色作。
ヘロヘロとした演奏と雑然とした構成が、酩酊した友情のように響く。
10. The Legend of the Last of the Outlaw Truckers
アメリカーナとカルト・サイケの融合。
長いタイトルどおり、アウトローの神話と現代的疎外感がミックスされている。
11. Beast of All Saints
哀愁を帯びたバラード調のサイケ・ナンバー。
“すべての聖人の獣”というタイトルが象徴するように、宗教性と暴力性が交錯する。
12. Valerie Yum
女性像を神話化するような幻想的ポップ。
サウンドは比較的軽やかだが、歌詞には執着と謎が漂う。
13. Musee D’Nougat
アルバムを締めくくるカオティックなエクスペリメンタル・トラック。
タイトル通り“ヌガーの博物館”という意味不明さが、逆に作品全体の“自由さ”を象徴する。
総評
『Earth to the Dandy Warhols』は、The Dandy Warholsが自主レーベルという完全な自由空間で生み出した、音楽的雑種性の極地である。
一見すると統一感のない楽曲群だが、それはバンドがジャンルや美学に縛られず、“音の断片で世界と対話しようとした”結果とも言える。
ここには、かつてのサイケやガレージ、エレクトロやAOR、パンクやスペース・ロックが共存しており、それらが“誰でもないダンディ・ウォーホルズ”という存在を浮かび上がらせる。
批評家からは“まとまりがない”“方向性が見えない”と評されもしたが、それこそが本作の価値なのだ。
秩序や整合性を拒絶し、音のカオスのなかでバンドとしての“現在地”を表現するという美学が貫かれている。
“地球へ呼びかける”というタイトルは、同時に“自分たちの位置を確かめる”内向的試みにもなっていたのかもしれない。
おすすめアルバム
- The Flaming Lips / At War with the Mystics
サイケとポリティカルメッセージ、エレクトロの混在という構成が近似。 - MGMT / Oracular Spectacular
ジャンル横断的で幻覚的ポップを追求する姿勢に共通点がある。 - Of Montreal / Skeletal Lamping
多様性と分裂、奇妙なポップ美学が炸裂した同時代的異端作。 - Beck / The Information
DIY感覚と実験性、ジャンルミックスの感覚が非常に近い。 - Tame Impala / Innerspeaker
サイケと現代性をつなぐ作品として、『Earth to…』の発展形とも言える。
ファンや評論家の反応
『Earth to the Dandy Warhols』は、その実験的な内容とDIY的背景から、ファンの間でも評価が分かれた問題作である。
一方で、バンドがメジャー体制を脱し、“好きなようにやっている”ことへの敬意は高く、ライブでは本作収録曲の支持率は意外にも高い。
音楽メディアからの評価は概ね控えめだったが、近年では「自由なDandy Warholsの原点」として再評価の兆しも見られる。
本作は、成功やヒットを狙わず、“存在すること自体がメッセージとなる”音楽の在り方を体現したとも言えるだろう。
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