発売日: 1996年5月21日
ジャンル: グランジ、オルタナティブ・ロック
「Down on the Upside」は、Soundgardenにとってキャリアの転換点となったアルバムだ。前作「Superunknown」で頂点を極めた後、本作ではグランジ特有のヘヴィで暗いトーンを維持しながらも、バンドは新たな方向性を模索している。セルフプロデュースを採用したことで、個々のメンバーの個性がより際立ち、これまでよりも実験的かつ多様性のあるサウンドに仕上がっている。
しかし、制作期間中にはバンド内の緊張が高まり、その解散への兆候が徐々に表面化していた。それにもかかわらず、アルバム全体にはバンドの成熟と進化が感じられ、特にChris Cornellの深みのあるボーカルとKim Thayilの創造的なギターリフは見事に際立っている。「Down on the Upside」は、Soundgardenの集大成とも言える一方で、彼らが次のステップへ進む可能性を示唆した重要な作品である。
トラック解説
- Pretty Noose
アルバムのリードシングルで、印象的なギターリフとキャッチーなメロディが特徴的なトラック。「感情の罠」を暗喩した歌詞は、バンド特有の暗いテーマとポップな要素が絶妙に調和している。コーラスでのCornellの伸びやかな声が特に心に残る。 - Rhinosaur
ヘヴィなリフと不規則なリズムが特徴の実験的な楽曲。歌詞は皮肉とユーモアに満ちており、サウンドは野性的でありながらも洗練されている。Matt Cameronのドラムワークが曲全体を引き締めている点が印象的だ。 - Zero Chance
メランコリックで静かな曲調の中に、切なさが漂うバラード調の楽曲。内面的な孤独や諦めがテーマになっており、Cornellのボーカルが特に感情的に響く。ギターのアルペジオが楽曲の哀愁を一層際立たせている。 - Dusty
明るめのコード進行とメロディが目立つトラックで、Soundgardenらしさに新しい息吹を感じさせる一曲。歌詞は内省的で、失われた時間や希望をテーマにしている。 - Ty Cobb
バンドのディスコグラフィの中でも特に異色のトラック。アコースティック楽器とマンドリンをフィーチャーしながらも、リズミカルで攻撃的なエネルギーに満ちている。歌詞には挑発的な言葉が並び、激しさとユーモアが共存している。 - Blow Up the Outside World
このアルバムのハイライトとも言えるバラード風の楽曲で、自己崩壊や孤独をテーマにしている。静かなギターパートから始まり、サビでの爆発的な盛り上がりが感動的だ。歌詞の「Nothing seems to kill me no matter how hard I try」というフレーズが心に刺さる。 - Burden in My Hand
アコースティックギターを軸にしたドラマチックな楽曲で、殺人を暗示するような歌詞が聴き手に衝撃を与える。明るいメロディとダークなテーマのコントラストが見事で、バンドの新たな可能性を示した一曲だ。 - Never Named
短く攻撃的な楽曲で、パンク的なエネルギーが炸裂する。ThayilのギターリフとCameronの疾走感あるドラムが中心となり、アルバム全体に勢いを与える存在。 - Applebite
不気味で幻想的な雰囲気を持つトラック。変則的なリズムとエフェクトが効いたサウンドスケープが印象的で、実験的な一面が光る。暗闇を彷徨うような感覚を覚える異色の楽曲だ。 - Never the Machine Forever
Thayilが作詞作曲を担当したトラックで、ギターワークの独創性が際立っている。歌詞は冷淡な皮肉に満ち、サウンドは金属的で攻撃的。バンド全体のテクニカルな側面が存分に発揮されている。 - Tighter & Tighter
ゆったりとしたリズムと叙情的なメロディが特徴の楽曲。Cornellのボーカルが切なさを帯びており、バンドの中でも特に感情的な一面を引き出している。深みのある曲調がリスナーの心に響く。 - No Attention
鋭いギターリフと怒りに満ちた歌詞が特徴のヘヴィロックナンバー。パワフルなドラムとベースが曲を引き締め、バンドの原始的なエネルギーが感じられる。 - Switch Opens
ゆるやかなテンポで進行するこの楽曲は、ストーリーテリング的な歌詞と独特のサウンドスケープが魅力。アルバム全体の中で、息抜きとなるような落ち着きがある。 - Overfloater
サイケデリックな要素が強いトラックで、浮遊感のあるギターパートと幻想的なメロディが心地よい。歌詞は抽象的で夢の中を彷徨うような感覚を生み出している。 - An Unkind
ストレートなロックナンバーで、激しいリフとスピーディーな展開が耳を引く。Thayilのギターが生み出す荒々しさが光る楽曲。 - Boot Camp
アルバムの最後を飾るこの曲は、静かでミニマルなサウンドが特徴的。Cornellの柔らかなボーカルが際立ち、静かに終わりを告げる締めくくり方が美しい。
アルバム総評
「Down on the Upside」は、Soundgardenの実験精神が溢れる多様性に富んだアルバムである。一方で、バンド内の緊張感がサウンドやテーマに反映され、どこか不安定さや不穏なムードが漂う作品でもある。このアルバムは商業的な成功と同時にバンド解散への序章とも言えるが、その音楽的な冒険心と進化は大いに評価されるべきだ。エネルギッシュな楽曲と内省的なバラードが織りなすコントラストが、リスナーに新たな発見をもたらすだろう。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
Yield by Pearl Jam
「Down on the Upside」と同様に、個々のメンバーの多様な音楽的視点が反映されたバラエティ豊かなアルバム。
No Code by Pearl Jam
実験的でありながら感情的な深みを持つ作品で、「Down on the Upside」の持つ多面的な魅力に共鳴する。
Aenima by Tool
ヘヴィでありながらもサイケデリックな要素を含むサウンドスケープが、本作の雰囲気に近い。
Vitalogy by Pearl Jam
挑戦的な楽曲構成と深みのあるテーマが特徴で、Soundgardenファンにも響くアルバム。
Grace by Jeff Buckley
内省的な歌詞と感情的なボーカルが「Down on the Upside」と共鳴する、比類なき名盤。
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