1. 歌詞の概要
「Do It All the Time(ドゥ・イット・オール・ザ・タイム)」は、The Wannadies(ザ・ワナダイズ)が1994年に発表した傑作アルバム『Be a Girl』のラストを飾る楽曲であり、アルバム全体のエネルギーとテーマ性を総括するような、明るく開放的、そして少しばかり皮肉を孕んだパワーポップの快作である。
タイトルにある「Do It All the Time」とは、“いつでもそれをする”という意味だが、何を“する”のかは明言されていない。
恋愛、セックス、逃避、夢想、失敗、衝動――あらゆる若さの反復がその“it”に込められているようにも思える。
このあいまいな中心が、逆に楽曲全体を普遍的な“若さの行動パターン”として機能させており、ユーモアと切実さが共存する印象的な終幕を形成している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Do It All the Time」は、『Be a Girl』というアルバムのエンディングに位置づけられており、アルバム全体に漂っていたテーマ――自由、衝動、アイデンティティ、恋愛の甘さと苦さ――を、一気にまとめ上げるような楽曲である。
The Wannadiesはその音楽性において、しばしばBuzzcocksやTeenage FanclubといったUKパワーポップの系譜に並べられるが、この曲ではその持ち前のキャッチーさと知的な皮肉が絶妙に融合している。
サウンド面では、ストレートなギターロックで、軽快なリズムとコーラスの多用が楽曲にポジティブな疾走感を与えている。
しかし歌詞に耳を傾ければ、そこにあるのは「無邪気な衝動の裏にある空虚さ」や「わかっているのにやめられない反復」という、“行動の中毒性”への軽やかな嘆きのようでもある。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に印象的なフレーズを抜粋し、その和訳を併記する。
“I do it all the time / I do it when I feel alright”
「いつでもやってるよ / 気分がいい時に限らずね」
“I do it when I feel so low / I don’t know why”
「気分が落ち込んでる時もやる / なぜだか分からないけど」
“It doesn’t help, but I still do it”
「効果なんかないけど、それでもやってしまうんだ」
“You say I’m wasting my time / I know you’re right”
「君は時間の無駄だって言う / 僕もそう思ってるよ」
歌詞全文はこちら:
The Wannadies – Do It All the Time Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Do It All the Time」が描いているのは、“衝動の反復”という普遍的なテーマである。
それはたとえば恋人に電話をかけてしまうことかもしれないし、深夜の街を意味もなく歩くこと、あるいは過去の記憶を何度も反芻すること――とにかく「やめられないこと」がこの曲の中心にある。
面白いのは、語り手がそれを「やめたい」とも「正当化したい」とも思っていない点だ。
彼はただ、「やってしまうんだよな」と呟くように語り、その無力さや無意味さを受け入れている。
そこには、人間の非合理的な部分を肯定する態度があり、The Wannadiesの楽曲全体に通底する“愛すべきダメさ”がにじみ出ている。
特に、**「わかってるけどやめられない」**というフレーズの感覚は、思春期から大人になりきれない若者、あるいは大人になってもその気質を持ち続けているすべての人に響くはずだ。
それは行動の意味ではなく、行動の“癖”として、人生の中に根を張ってしまっている。
そして、その“癖”が生きるリズムである限り、それを否定することもまた意味を失ってしまうのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Caught by the Fuzz by Supergrass
無意味で衝動的な行動が若さを象徴することを、高速で軽快に描いたUKロックの名曲。 - A Life Less Ordinary by Ash
“普通じゃない人生”を望みながらも、日常の中に縛られてしまう主人公の切なさと高揚。 - Debaser by Pixies
意味よりも衝動を優先する“行動そのもの”への賛美が詰まったオルタナティブ・クラシック。 - Connection by Elastica
行動がもたらす快楽と混乱のあいだで、何かと“つながる”ことを求める90年代アンセム。 - All the Young Dudes by Mott the Hoople
意味がなくても行動し続ける若者たちの姿を、ロマンティックに描いた不滅の名曲。
6. “何度でも、同じことをしてしまう僕たちへ”
「Do It All the Time」は、意味のないことを繰り返してしまう人間の性(さが)を、責めるでも賛美するでもなく、ただそのままの形で音楽にした一曲である。
その姿勢は、無意味を肯定し、衝動の美しさをそっとすくい上げている。
この曲は、“わかってるのにやめられないこと”があるすべての人に贈る、やさしくて痛快な応援歌だ。
それはある意味で、失敗の賛歌であり、反復の祝祭でもある。
そして最後の一音まで聴き終えたとき、私たちはきっと、今日もまた「同じこと」を繰り返している自分を、少しだけ笑って許せるようになる。
コメント