1. 歌詞の概要
「Dead Sound」は、The Raveonettes(ザ・レヴォネッツ)が2007年にリリースした4thアルバム『Lust Lust Lust』に収録された楽曲であり、甘美でメランコリックなメロディの中に、恋愛の裏に潜む欺瞞と冷淡さを潜ませたノイズポップの傑作である。
曲のタイトル「Dead Sound(死んだ音)」が象徴するのは、感情が剥落し、虚無が鳴り響くような関係の“終わりの音”であり、それは必ずしも大声で叫ばれるものではなく、静かに、そして冷たく響く感情の残響として表現されている。
歌詞では、語り手が他人の裏切りや嘘に気づき、何もかもを見透かしたような、ある種の“目覚め”の瞬間が描かれている。それは怒りではなく、冷笑的な受容と断絶の決意であり、Raveonettesらしい「退廃美」と「静かな反抗」の空気に満ちている。
2. 歌詞のバックグラウンド
The Raveonettesの音楽は、60年代ガールズ・グループのようなポップネスと、シューゲイズ/ノイズロックのざらついた質感を融合させた特異なスタイルを持っているが、「Dead Sound」はその両面をバランス良く表現した代表曲である。
アルバム『Lust Lust Lust』自体が、愛と欲望、痛みと快楽、真実と幻想といった二律背反のテーマを追求した作品であり、その中でもこの曲は**冷たさと甘さの交錯する“感情の死後の世界”**を描いている。
シンプルなギターフレーズと反復的なビート、控えめなボーカルアプローチは、一見してドリーミーだが、歌詞が進むにつれ、その裏に潜む不信と幻滅がじわじわと浮かび上がってくる。
3. 歌詞の抜粋と和訳
I go out, you stay in
僕が外に出るとき 君は部屋にこもるAnd you don’t know where I’ve been
僕がどこにいたのか 君は知らない
この冒頭のやりとりには、断絶した関係性、すれ違い、冷えた距離感が端的に表れている。言葉を交わすことなく過ぎていく日々。すでに関係は形骸化している。
You know it’s a dead sound
わかってるだろ、それは“死んだ音”なんだ
このフレーズは、単に“関係が終わった”ということではなく、音がしているのに何も感じない、感情がもう鳴っていないという意味合いであり、静かな絶望と決別の美学が込められている。
You’re not honest, that’s for sure
君は正直なんかじゃない、それだけは確かだIt’s a dead sound
それはもう死んだ音なんだ
ここでは明確に“嘘”や“偽り”が指摘されており、それに対して語り手は激しく怒るのではなく、あまりに見透かしているがゆえの静かな断罪として、“死んだ音”という表現を使っている。
※引用元:Genius – Dead Sound
4. 歌詞の考察
「Dead Sound」は、恋愛において誰しもが一度は経験する“熱が冷めた後の空虚”を見事に表現した楽曲である。
語り手は、もはや相手に何の幻想も抱いておらず、その嘘や裏切りすらも冷静に受け入れてしまっている。だが、それは感情を捨てたのではなく、感情を使い果たしてしまった後の境地にいるという点が重要だ。
この“感情の終焉”を、音楽的には歪んだギターやリバーブで包み込むことで、まるで終末的な夢を見ているかのような浮遊感が生まれており、それがリスナーに対して単なる失恋ソング以上の奥行きを与えている。
“Dead Sound”というフレーズには、Raveonettesらしい感情の壊死、感覚の不感症、そして関係の静かな終焉が込められており、だからこそこの曲は、一過性の痛みではなく、**時間をかけて蝕まれる“愛の死に方”**を描いているといえる。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Sometimes by My Bloody Valentine
感情が希薄になる瞬間の切なさと美しさをノイズの中で描いた名曲。 - Lorelai by Cocteau Twins
幻想的であるがゆえに現実が遠のいていく愛の儚さを表現したドリームポップ。 - Playgirl by Ladytron
都会的で冷たいサウンドと、感情の不感症を描いたエレクトロ・ポップの名作。 - Fade Into You by Mazzy Star
溶け込むように消えていく愛のイメージを、スローなメロディで表現したバラード。 - Into Dust by Mazzy Star
愛が静かに、粉々に崩れていくような感覚を描いた叙情的な楽曲。
6. “死んだ音”に耳を澄ませる――感情の終わりを音で描く
「Dead Sound」は、The Raveonettesの持つ美学――甘いノスタルジアと冷たい現実のコントラストを最も美しく昇華した楽曲のひとつである。
怒りや悲しみではなく、もう何も感じなくなった“その後”の世界を、彼らは決して叫ぶことなく、ささやくように歌い上げる。
この曲が響かせる“死んだ音”とは、たとえば電話が鳴らない沈黙であり、愛の言葉を繰り返しても通じ合わない虚しさであり、そこに込められた感情の“死”の重みこそが、本作の核心である。
感情が鳴り止んだあとも、音楽は続く。
そしてその音は、死んでいるからこそ、こんなにも美しく、こんなにも痛い。
「Dead Sound」は、そんな静かなる痛みを、甘いメロディとざらついた音像で封じ込めた、哀しくも美しい終末の歌である。
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