1. 歌詞の概要
「Daughters of the Kaos(ドーターズ・オブ・ザ・ケイオス)」は、Luscious Jackson(ラッシャス・ジャクソン)のデビューEP『In Search of Manny』(1993年)に収録された、初期の代表的楽曲のひとつである。
タイトルの「Kaos(カオス)」は“Chaos”の意図的な綴り変えであり、秩序に抗い、既存の価値観を覆す“女たち”の象徴的な呼称として機能している。
この曲は、フェミニズム、アナーキズム、そして自己主張の精神を、90年代ニューヨークのアンダーグラウンド・ビートに乗せて放った痛快なマニフェストである。
歌詞の内容は、性別や既成のジェンダーロール、そして「女はこうあるべき」という規範に対する鮮やかな否定であり、Luscious Jacksonが登場とともに提示した“自律した女性像”を見事に体現している。
「私たちは社会の片隅ではなく、中心にいるのだ」という主張が、リズムに乗って繰り返されることで、静かな反逆ではなく“踊れる革命”のような輝きを放っている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Luscious Jacksonは、Beastie Boysが設立したインディペンデント・レーベル「Grand Royal」から登場したニューヨーク出身の女性4人組バンドであり、ロックとヒップホップを滑らかに融合させたスタイルで90年代のオルタナティブ・シーンに新しい風を吹き込んだ。
『In Search of Manny』は彼女たちのデビューEPであり、その中で「Daughters of the Kaos」は、自己紹介的かつ宣言的な意味を持つ曲である。
当時の音楽シーンでは、女性アーティストの多くが“男性に対してどう見られるか”という文脈の中に置かれていたが、Luscious Jacksonは“自分自身の視点”で都市と音楽と身体を語った初めての存在のひとつだった。
この楽曲はまさに、そんな立ち位置から「私たちは混沌の娘たち。誰かの夢じゃなく、自分の声で生きる」と宣言するナンバーである。

3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Daughters of the Kaos」の印象的なフレーズを抜粋し、日本語訳を併記する。
“We are the daughters of the kaos / We’re never gonna sell out”
「私たちは混沌の娘たち / 絶対に売り渡したりはしない」
“No, you can’t program me / I’m not your machine”
「あなたに私をプログラムすることはできない / 私はあなたの機械じゃない」
“I’m walking down my own line / I don’t need your direction”
「私は自分の道を歩いてる / あなたの指図なんていらない」
“Sisterhood is stronger than any man-made wall”
「女たちの連帯は、どんな人工の壁よりも強い」
歌詞全文はこちらで確認可能:
Luscious Jackson – Daughters of the Kaos Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
この曲に込められているメッセージは、明確かつ鋭い。
「私たちは混沌の娘たち」――それは“社会の決まりごと”の中で型にはまることを拒み、むしろそこからはみ出すことに誇りを持つ存在としての自己宣言だ。
ここでいう“Kaos”とは、破壊的な暴力ではなく、“創造の余白”としての混沌である。
歌詞には、女性の身体・言語・選択に対して、誰も“操作”や“制御”はできないという強い主張が貫かれており、それは音楽産業における女性アーティストの自己決定権をも射程に入れている。
とりわけ「私は機械じゃない」「プログラムされない」というラインは、フェミニズムだけでなく、デジタル化する社会への鋭いアンチテーゼとしても読むことができる。
また、「sisterhood(女たちの連帯)」という言葉の使用は、70年代フェミニズムの精神を90年代的なストリート感覚で再構築したものと言える。
この曲は、政治的でありながらダンスフロアに似合う。その二面性が、まさに“混沌”の美学なのだ。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Rebel Girl by Bikini Kill
フェミニスト・パンクの金字塔。女性の力と誇りを叫ぶアンセム。 - Deceptacon by Le Tigre
政治性とエレクトロクラッシュが融合した、ポップな抗議ソング。 - Cannonball by The Breeders
自立した女性の視線で語られるサウンドと自由な構成が魅力。 - Just a Girl by No Doubt
“女の子”というラベルに抗いながら、軽快なスカ・ロックで仕上げた人気曲。 -
Human Behaviour by Björk
自然と人間、そして“規範からの逸脱”を独自の感性で歌う、プリミティブな美しさ。
6. “混沌を選び取る女たちの声明”
「Daughters of the Kaos」は、抑圧に対する叫びではなく、自ら“混沌”を選び、そこに自由と創造性を見出す女性たちの声明文である。
この楽曲の魅力は、怒りや悲しみではなく、“軽やかな強さ”で支配をはね返している点にある。
それは踊れる反抗であり、詩的な自己肯定であり、アートとしてのフェミニズムなのだ。
この曲は、“誰かの娘”ではなく“混沌の娘”として生きることを選んだ、すべての人への祝福である。
ルールはもういらない。自分たちのビートで進んでいく。それが、ラッシャス・ジャクソンの生き方なのだ。
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