発売日: 2017年4月14日
ジャンル: ヒップホップ
アルバム全体のレビュー
Kendrick Lamarの4作目のスタジオアルバムDAMN.は、彼のキャリアにおけるもう一つの重要な転換点だ。本作では、彼のこれまでの壮大な物語性や音楽的実験性を少し後退させ、シンプルで直接的なメッセージとビートに焦点を当てている。その結果、内省的で個人的なトーンが強く出た作品となった。
本作は、テーマの対立と矛盾が随所に散りばめられ、愛と憎しみ、信仰と疑念、勝利と破滅という二極的な要素がアルバム全体を通して展開されている。タイトルの通り、聴き手は一種の「審判」を受けているような感覚に陥る。プロダクションにはMike WiLL Made-ItやSounwaveらが参加しており、ヒップホップのトラディショナルなサウンドとトラップ要素を融合させた洗練されたトラックが並ぶ。
アルバム全体の物語は断片的でありながらも、Lamarの内なる葛藤が描かれ、リスナーに自己を省みるよう促す。リリースと同時に批評家やファンから絶賛を浴び、Pulitzer賞を受賞するという快挙を成し遂げた作品である。
各トラックレビュー
1. BLOOD.
アルバムは、不気味な語り口で始まる短いイントロトラック。「親切な行為が命取りになる」という象徴的なエピソードを通じて、アルバム全体のテーマである「善悪の二元性」を提示する。
2. DNA.
爆発的なエネルギーを持つ一曲で、Kendrickが自らのアイデンティティと誇りを語る。強烈なビートに乗せて「僕のDNAには王が宿っている」とラップする姿は圧巻だ。中盤からのビートチェンジも緊張感を増幅させる。
3. YAH.
穏やかなトラックで、Lamarの宗教的テーマへの傾倒が顕著に表れている。落ち着いたフロウが内省的な雰囲気を作り出し、彼の信仰と自己疑念が交錯している様子が伺える。
4. ELEMENT.
Kendrickはこの曲で、「自分の居場所を守る」という主張を展開する。激しい主張を裏付ける力強いリリックと、洗練されたビートが特徴だ。「僕がやるのは、これを芸術に昇華すること」というリフレインが耳に残る。
5. FEEL.
アルバムの中でも最も感情的な一曲。Kendrickが孤独やプレッシャー、誤解への怒りを吐露する。「誰も僕の気持ちを理解していない」という歌詞が、深い孤独感を際立たせる。
6. LOYALTY. (feat. Rihanna)
Rihannaをフィーチャーしたトラックで、テーマは忠誠心。滑らかなビートと二人のヴォーカルの相性が抜群で、愛と信頼の力を探る内容になっている。
7. PRIDE.
夢幻的なサウンドスケープが特徴の楽曲で、Lamarが自らの傲慢さを見つめ直す。冷静なフロウと詩的な歌詞が、「自分自身との闘い」を象徴している。
8. HUMBLE.
アルバムの代表曲で、シンプルなピアノリフとトラップビートが印象的。Kendrickが地位や成功に対して「謙虚であれ」と強烈に訴えるアンセムである。鋭い歌詞とキャッチーなフックがリスナーを惹きつける。
9. LUST.
反復的なビートと催眠的なフロウが特徴的なこの曲は、欲望やルーチンに陥る現代社会の姿を描いている。倦怠感と不安が漂うムードが印象深い。
10. LOVE. (feat. Zacari)
甘美なメロディと穏やかなトーンが特徴のラブソング。Zacariの柔らかいヴォーカルが楽曲に深みを加えており、愛の純粋さを描いている。
11. XXX. (feat. U2)
U2との意外なコラボレーションで、政治や社会問題に鋭く切り込む。激しいビートチェンジが印象的で、テーマの深刻さを強調している。
12. FEAR.
全編を通じて恐れについて掘り下げたこの曲は、Lamarが7歳、17歳、27歳でそれぞれ抱えた恐怖を描く。彼の語りがリスナーを引き込み、普遍的な恐れと個人的な経験が絡み合う。
13. GOD.
成功と神との関係性をテーマにした曲。滑らかなトラックと軽快なフロウが特徴で、「これが神のような気分だ」というリフレインが印象に残る。
14. DUCKWORTH.
アルバムのラストトラックで、Kendrickの父とTDEの創設者Anthony Tiffithにまつわる運命的なエピソードを語る。もし二人の過去が異なっていたら、Lamar自身が今の地位にいなかったかもしれないという運命の皮肉を示す。
アルバム総評
DAMN.は、シンプルながらも奥深いメッセージと洗練されたプロダクションで、Kendrick Lamarの多面的な才能を再び証明したアルバムだ。善悪、愛憎、信仰と疑念といったテーマを、リスナーの心に直接響く形で描き出している。Pulitzer賞を受賞したことで示された通り、このアルバムはヒップホップの枠を超えた文化的な価値を持つ作品である。
このアルバムが好きな人におすすめの5枚
The Life of Pablo by Kanye West
実験的なサウンドと宗教的テーマが共通し、個人的な葛藤を反映したアルバム。
4:44 by Jay-Z
内省的なリリックと成熟した視点が印象的で、DAMN.と同じく人生の教訓を多く含む。
Because the Internet by Childish Gambino
現代社会に対する洞察と実験的なサウンドが共鳴する一枚。
Man on the Moon II: The Legend of Mr. Rager by Kid Cudi
内省的で個人的なテーマが共通しており、深い感情に訴える内容。
Igor by Tyler, the Creator
愛と葛藤をテーマにした作品で、ジャンルを超えたアプローチが魅力。
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