1. 歌詞の概要
「Crooked Teeth(クロックド・ティース)」は、Death Cab for Cutie(デス・キャブ・フォー・キューティー)が2005年にリリースしたメジャー移籍後初のアルバム『Plans』に収録された楽曲であり、同作の2ndシングルとして発表された。
この曲は、キャッチーなリズムと跳ねるようなメロディラインが印象的な一方で、歌詞の内容はより陰影に富み、現実に対する幻滅や恋愛関係の歪み、夢から覚める瞬間の醒めた感情が描かれている。
タイトルの「Crooked Teeth(曲がった歯)」は比喩的に使われており、完璧に見えるものの中にある欠陥、理想化された関係の裏に潜む不協和を象徴している。
語り手は、かつて美しく見えていたものに今は綻びを見出し、かつての自分自身の未熟さを恥じるように、その歪みを語る。
この楽曲は、若さゆえの盲信から目覚めたときの痛みと、それでもどこか諦めきれない希望の混在を描いた、Death Cab for Cutieならではの叙情的ロックソングである。
2. 歌詞のバックグラウンド
『Plans』は、Death Cab for Cutieがインディーシーンからメジャーへと移行したタイミングで発表されたアルバムであり、彼らの音楽性がより洗練されつつも、詩的な内省性を失わずに進化していく姿を記録した作品となっている。
「Crooked Teeth」は、アルバムの中でも比較的明快でポップなサウンドを持っており、ライヴでも定番曲としてファンからの人気が高い。
この曲の背景には、恋愛や友情における“理想の破綻”がある。
つまり、関係性というのは最初からどこか曲がっていたのに、当時はそれに気づかず、むしろ“美しいもの”として盲目的に信じていた──そのことへの後悔と再認識が、曲全体に漂っているのだ。
その構造は、ベン・ギバードの歌詞によく見られる特徴であり、**「感情の失速」や「自己認識の進化」**をテーマにした作品群のなかでも、この曲は特に鋭く、そして軽やかに響く。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Crooked Teeth」の印象的なフレーズを抜粋し、和訳とともに紹介する。
It was one hundred degrees
気温は華氏100度As we sat beneath a willow tree
柳の木の下で、僕たちは座っていたWhose tears didn’t care
その枝が落とす涙は、僕たちに何の関心も持っていなかったThey just hung in the air
ただ、宙に浮かんでいるだけだったAnd refused to fall, to fall
落ちようとはしなかった──落ちようとは、しなかった
出典:Genius – Death Cab for Cutie “Crooked Teeth”
4. 歌詞の考察
この曲の語り手は、過去の自分の姿を思い返しながら、当時の感情がいかに脆く、そして理想化されすぎていたかを自嘲するように描いている。
「泣かない柳の木」は、涙を流さず、ただ枝を垂らしているだけ──つまり、それは感情の宙吊り状態、もしくは感情の無視を象徴している。
「気温100度のなかで」といった描写は、情熱や熱気を連想させるが、そこには感情的な解放はない。
むしろ、その熱さすら虚無の中で空回りしている。
この対比によって、曲全体に美しい景色の裏にある感情の停滞と、意味の喪失が浮き彫りになっていく。
そして、タイトルにもなっている「曲がった歯」は、完璧ではないもの、ズレた関係、見て見ぬふりをしていた違和感の象徴であり、最後にはそれに気づきながらも、「それでもかつては本気だった」と回顧するような痛みが残る。
この曲の核心は、“幻想からの目覚め”にある。
だがそれは悲劇でもなく、ドラマティックな別れでもなく、**ただ静かに訪れる「気づき」**なのである。
※歌詞引用元:Genius
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Sound of Settling by Death Cab for Cutie
理想と妥協の間で揺れる心を、軽やかなビートで描いた人気曲。 - A Lack of Color by Death Cab for Cutie
色を失った世界で愛の不在を受け入れる、沈黙のラブソング。 - First Day of My Life by Bright Eyes
人生の再スタートをテーマにした、温もりと繊細さのあるラブソング。 - Such Great Heights by The Postal Service
距離と誤解、それでもつながりたいという感情を未来的に描いた名曲。 -
Sea of Love by Cat Power
短く、静かで、純粋な愛の形を音にした現代的なフォークソング。
6. 軽快さのなかの苦み──過去と向き合うポップソング
「Crooked Teeth」は、Death Cab for Cutieの楽曲の中でも、最も“ポップでキャッチー”な部類に入りながら、
その実、深くて私的で、決して軽くない内容を内包している。
ベン・ギバードはこの曲で、若い日の愚かさを嘲笑するのではなく、それを懐かしみながら静かに弔うように歌っている。
「間違ってたかもしれないけど、あの時はそれが正しいと思っていた」──そんな後悔と肯定のバランスは、まさに大人の感情の複雑さそのものだ。
ポップなフレーズに踊らされながら、いつの間にか自分の過去と向き合わされている。
そんな体験を、2分台のギターポップに閉じ込めたこの楽曲は、
聴くたびに新しい“ほろ苦さ”を思い出させてくれる。
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