
発売日: 2020年11月6日ジャンル: ポップ、R&B、ダンス・ポップ
概要
『Confetti』は、Little Mixが2020年に発表した6作目のスタジオ・アルバムであり、キャリアの転換点となる作品である。
彼女たちのポップ・グループとしての成熟を示すとともに、メンバーのJesy Nelsonが脱退する前最後のアルバムとしても記憶されている。
このアルバムは、女性の自己肯定感、愛、別れ、再生といったテーマを多彩なポップ・スタイルで描いており、Little Mixの音楽的レンジの広さを印象づける内容となっている。
制作は2019年から2020年にかけて行われ、世界的なパンデミックの影響下にあっても、リモートでの録音や新しいコラボレーションの形を通して完成に至った。
その結果、過去の作品よりも洗練され、個々のボーカルや音楽性の違いが際立つアレンジとなった。
グループのデビューから10年近くを迎えるタイミングでの本作は、若々しいエネルギーと共に、成熟した視点や自己肯定的なメッセージを併せ持ち、ポップ・ミュージックの中での立ち位置を再確認させる内容となっている。
また、サウンド面では従来のポップやR&Bに加え、90年代のダンス・ポップ、トラップ・ビート、さらにはディスコ的な要素まで多様に取り入れており、アルバム全体を通じての変化と展開が心地よい。
イギリスを中心に絶大な人気を誇るLittle Mixだが、本作を通じて国際的なポップ・アリーナへの歩みをさらに進めたとも言える。
全曲レビュー
1. Break Up Song
80年代風のシンセ・ポップを基調にした、別れを前向きに乗り越えるアンセム。
リリックには「失恋しても、踊りながら忘れよう」というメッセージが込められており、アルバム全体のテーマである“再生”の起点となる。
2. Holiday
軽快なビートと浮遊感のあるサウンドが特徴の、サマー・ポップトラック。
恋愛の高揚感を「ホリデー」に例える比喩が印象的で、セクシュアルな要素も含まれるが、あくまでポップに描かれている。
3. Sweet Melody
本作のハイライトとも言える一曲。中毒性のあるフックと、リズミカルなR&B調のビートが耳に残る。
裏切りと傷つきの物語を、あえてキャッチーに語る手法は、グループの表現力の進化を感じさせる。
4. Confetti
タイトル・トラックは、祝祭的なサウンドと共に、自由と解放感を表現。
「自分らしく生きる」というテーマが、ラップ・パートやエフェクトを交えたアレンジで強調される。
5. Happiness
ミドルテンポのエレクトロ・ポップに乗せて、自己愛と癒しを歌う楽曲。
他者に依存しない「幸せ」の形を見出していく過程が、静かに力強く響く。
6. Not a Pop Song
レコード会社からの干渉や期待に対する反抗をユーモラスに描いた、自己言及的な一曲。
「これはポップソングじゃない」というフレーズ自体が、ポップの枠を超えることの宣言となっている。
7. Nothing But My Feelings
夜の空気感を想起させるような、ローファイ・トラップ風のスロー・ジャム。
感情に翻弄される瞬間を、繊細なボーカルで描写している。
8. Gloves Up
闘う姿勢を前面に出したアップテンポなナンバー。
格闘をテーマにしたメタファーが全編に渡って使われ、勝利や抵抗のモチーフが強く表現されている。
9. A Mess (Happy 4 U)
メランコリックなメロディとパーカッシブなサウンドが印象的。
表面的には祝福しながらも、内心の混乱を抱える感情の葛藤がテーマになっている。
10. My Love Won’t Let You Down
ゴスペル調のバラードで、友情と無償の愛を歌い上げる。
Little Mixのコーラス・ワークが際立ち、4人の絆を象徴するような楽曲となっている。
11. Rendezvous
セクシーで少しミステリアスな雰囲気のR&Bナンバー。
誘惑や駆け引きの場面を描いたリリックは、アルバムの中でも異彩を放つ。
12. If You Want My Love
90年代風のグルーヴィーなポップソウル・チューン。
恋愛の主導権を握る姿勢が印象的で、自己確立の延長としての恋愛観が表れている。
13. Breathe
ラストは静かで内省的なエレクトロ・バラード。
息をすることすら苦しいという感情の深さが、美しくも切なく描かれている。
総評
『Confetti』は、Little Mixにとっての成熟と変化の象徴的なアルバムであると同時に、現代ポップの多様性と自己肯定的なメッセージを見事に融合させた作品である。
2020年という時代背景――パンデミック、フェミニズム再興、SNSによる個人表現の変化――の中で、このアルバムは「自分らしくあることの困難と解放」をテーマに据え、若いリスナー層のみならず、さまざまな立場の人々に共感をもたらした。
プロデューサー陣にはMNEKやTMS、Lostboyなど、UKポップを支える気鋭の面々が並び、洗練されたサウンドと共に、時代に即したメッセージ性を備えているのが本作の強みだろう。
また、Jesy Nelsonがグループとして参加する最後のアルバムであることも、本作の感情的な深みを増している。
特に「Sweet Melody」や「My Love Won’t Let You Down」などは、4人で過ごした10年の集大成とも言える。
レーベルとしての自由度も高まったことで、自己表現の幅が広がり、従来の「ガールズ・ポップグループ」のイメージを更新する内容に仕上がっている。
このアルバムは、単にヒットを狙ったポップではなく、ポップという形式を通じて現代の感情と社会の揺らぎを伝える手段として機能しており、それこそがLittle Mixというグループの真価なのかもしれない。
リスナー層も、ティーンのファンのみならず、R&Bファン、自己肯定的な歌詞を好む層、LGBTQ+コミュニティ、そして音楽的多様性を求めるポップリスナーまで幅広く、インクルーシブな訴求力を持っている。
おすすめアルバム(5枚)
- Future Nostalgia / Dua Lipa 80年代リバイバルと現代的なポップ感覚の融合という点で共通する。
- Glory Days / Little Mix 本作と対になるような初期の代表作。よりガーリーでエネルギッシュな印象。
- Emotion / Carly Rae Jepsen 洗練されたポップサウンドと切ない感情表現のバランスが秀逸。
- Sawayama / Rina Sawayama ジャンル横断的なポップの実験性という意味で接点がある。
- thank u, next / Ariana Grande 自己肯定や再生をテーマにしたリリックと、洗練されたサウンドが響き合う。
制作の裏側(Behind the Scenes)
『Confetti』の制作はパンデミック期間中に行われ、従来のスタジオでの録音が困難な中、リモートワークやホームレコーディングが活用された。
そのため、各メンバーの自宅スタジオ環境がサウンドに大きく影響し、以前よりも個々の声やキャラクターがくっきりと浮き出るミキシングがなされている。
プロデューサーのMNEKは「Sweet Melody」などでディレクションを担当し、ボーカルの繊細なニュアンスを強調。
一方、タイトル曲「Confetti」はLostboyが手がけ、細かなサンプル処理と空間系エフェクトが印象的な仕上がりとなっている。
加えて、レーベル変更後初のフル・アルバムであり、アーティストとしての自由度が格段に上がったことも、本作のトーンの多様性に繋がっている。
『Confetti』は、単なる作品としてだけでなく、Little Mixの「転機」を物語るドキュメントとしても聴き応えのある一枚なのだ。
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