1. 歌詞の概要
「Comeback」は、JoJo(ジョジョ)が2020年にリリースしたアルバム『good to know』に収録された楽曲であり、セクシュアリティと感情が交錯する大人のラブソングであると同時に、快楽と誠実さの狭間で揺れる内面を描いた深く官能的な一曲である。
この楽曲の語り手は、関係が終わった相手に対して「戻ってこい」と訴えているわけではない。むしろ、「戻ってくるだろう? わかってるわ」という圧倒的な自信と欲望の混ざり合ったスタンスで語りかけている。その「Comeback(戻ってくる)」という言葉には、性の比喩、愛への回帰、そして自己価値の再認識という複層的な意味が込められている。
アルバムのタイトル『good to know』は、成長や気づきのプロセスを表す言葉だが、この楽曲ではそれが身体的な親密さを通じた感情の再発見として響く。JoJoは、もはや少女ではない。恋を知り、裏切りも受け入れ、そしてそれでもなお自分の欲望に素直であることを選ぶ――それがこの「Comeback」の核心なのである。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Comeback」はJoJoの4thアルバム『good to know』に収録され、アルバム全体の中でも最もミニマルで、濃密で、そして大胆な楽曲のひとつである。プロデューサーはAustin BrownとLauren D’Elia。特にLauren D’Eliaによる空間を贅沢に使ったトラックの構築と、JoJoの声を前面に押し出す繊細なアレンジは、リスナーを音の中に沈ませるような没入感を生み出している。
「Comeback」のミュージックビデオは制作されていないが、アルバム全体の映像美とリンクするような官能的かつ洗練されたムードを帯びており、ライブでは観客との距離を縮めるような親密な瞬間として披露されている。フィーチャリングにはカナダのR&Bデュオ、TANK and the BangasのメンバーであるTANKが参加しており、JoJoの繊細なボーカルに対し、TANKは深みのある男性ヴォーカルで見事なコントラストを与えている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
この楽曲のリリックはきわめて感覚的かつ直接的でありながら、同時に詩的で余白のある表現が並ぶ。以下はその一部である。
I know you’re gonna come back / Come back / Come back
あなたが戻ってくるってわかってるの / 戻ってくる、絶対に
この繰り返しは、執着ではなく確信からくる言葉として響く。相手の気持ちさえ予見できるような、成熟した愛の自覚。
Baby, I already know your ways / You come and go like seasons change
あなたのやり方はもうわかってる / 季節が変わるように、あなたは行ったり来たりする
ここでは、恋人の不安定さや気まぐれさを受け入れつつ、それでも惹かれてしまうことの悔しさと快楽が垣間見える。
But every time you need it / You come running back to me
でも結局、欲しくなると私のところに戻ってくるでしょ
これは単なる肉体的な意味だけではない。心の居場所としての“私”を、あなたは知っているという余裕がにじむ。
Tell me why you can’t let me go / Even though you never say so
なぜ私のことを手放せないの? / 言葉では決して言わないくせに
ここではセックスと感情、言葉と沈黙のあいだで揺れる関係性が映し出されている。
歌詞の全文はこちら:
JoJo – Comeback Lyrics | Genius
4. 歌詞の考察
「Comeback」は、JoJoがティーン時代から一貫して描いてきた「感情の複雑さ」「自己決定」「女性の主体性」といったテーマを、性的成熟と心理的成長を伴って再提示した楽曲である。
この楽曲においてJoJoは、もはや“求める側”でも“追いかける側”でもない。むしろ、感情も肉体も、どちらも自分のものとして統合し、欲望に素直に生きることの潔さと危うさを歌っている。
そして何よりも重要なのは、彼女がこの歌の中で「謝っていない」ということだ。自分の感情も欲望も受け入れたうえで、「それが私だから」と言い切ること。それは「Fuck Apologies.」の延長線にありながら、さらに深く静かに成熟した自己肯定として提示されている。
また、Comeback=「戻ってくる」ことは、ただの物理的な再会ではない。それは「記憶の中の温度」や、「身体が覚えている感触」までも含めた回帰であり、恋愛の痕跡が、どれほど深く自分のなかに残るかという感覚の再確認でもある。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Weekend by SZA
愛人関係の中にある自分の居場所を肯定しながらも、複雑な感情の波を描いた名曲。 - Needed Me by Rihanna
「私を必要としていたのはあなたでしょ?」という強烈な自我と余裕が交錯するセクシャルなR&B。 - Say It by Tove Lo
性と感情のあいだで揺れる女心を赤裸々に歌い上げた、ミニマルなエレクトロ・バラード。 - Love Me Like You Do by Ellie Goulding
“あなたの愛し方”の強さとそれに溺れる自分を肯定しながらも、危うさを漂わせる愛の賛歌。 - Borderline by Tame Impala
関係性における境界の曖昧さと、感情の“中間地点”を音像として描いたサイケポップ・バラード。
6. “欲望も痛みも、私の一部だと歌えるなら”
「Comeback」は、JoJoが10代の頃に放っていた“無垢なまっすぐさ”が、30代を前にして新たな輪郭を持って生まれ変わった一曲である。
それは、「もう傷つきたくない」でも「恋なんて信じない」でもなく、
「それでも私は感じたい、信じたい、求めたい」と言える強さに満ちている。
「Comeback」とは、誰かが戻ってくることではなく、感覚を取り戻すこと、自己への回帰でもある。
JoJoはこの曲を通じて、自分のからだ、自分の声、自分の心すべてを取り戻し、それを堂々と響かせている。
それは、愛することに謝らない女の、静かな凱歌である。
コメント