
1. 歌詞の概要
「Children of the Revolution(チルドレン・オブ・ザ・レボリューション)」は、1972年にリリースされたT. Rexのシングルであり、マーク・ボランのグラム・ロック美学が社会的・反骨的な響きを帯びた最も象徴的な楽曲のひとつである。前作「Metal Guru」の成功に続き発表され、全英シングルチャートで2位を記録。アルバムには収録されず、単体で放たれたが、その存在感は極めて大きい。
この曲の核にあるのは、「私たちは革命の子供たちだが、君のやり方には従わない」という宣言的なメッセージ。つまり、既存のイデオロギーにも、既存の権力にも、さらには反体制を名乗る体制にも従わない――そんな**自由と自立の姿勢を持った“第三の存在”**としての若者像が、歌詞のなかで強く打ち出されている。
政治的というよりはむしろ詩的で、ボラン特有のリズミカルな言葉遊びのなかに、70年代のカウンターカルチャーとスタイル革命の精神が封じ込められているのだ。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Children of the Revolution」は、映画『Born to Boogie(ボーン・トゥ・ブギー)』のサウンドトラック用に書かれた楽曲で、プロデューサーにはポール・マッカートニーも名を連ねている。映画はマーク・ボランのライヴやインタビューを収録した、T. Rexのドキュメンタリー作品であり、その中心に位置するこの曲は、まさに自己神話の拡張と自己解放の宣言としての役割を果たしている。
当時のロンドンは、フラワームーヴメントの名残と、グラマーな虚構のブームが交錯していた。ボランはその中で、“革命の子ども”として育った世代が、いかに政治ではなくファッションと音楽、そして美学によって世界と対峙するかを、この楽曲で鮮やかに提示した。
なお、この楽曲にはエルトン・ジョンがピアノで参加しており、サウンドの厚みに貢献している。演奏そのものが堂々としたマーチのようであり、まるで“誰にも従わない行進”を描き出すような構成が魅力である。
3. 歌詞の抜粋と和訳
Yeah
ああWell you can bump and grind
君は腰を振って踊れるIf it’s good for your mind
心が解放されるなら、それでいいじゃないかWell you can twist and shout
叫んだっていい、踊り狂ってもいいLet it all hang out
すべてをさらけ出せBut you won’t fool
だけど騙せないThe children of the revolution
革命の子供たちは、そんなことで騙されないNo, you won’t fool the children of the revolution
そうさ、俺たちはもう“騙される側”じゃないんだ
(参照元:Lyrics.com – Children of the Revolution)
シンプルながら挑発的なこのリフレインは、ボラン流の**“政治なき反抗”のマニフェスト**として非常に力強い。
4. 歌詞の考察
「Children of the Revolution」は、マーク・ボランにしては珍しく、メッセージ性の強い一曲である。しかしその“革命”は銃やスローガンではなく、スタイル、リズム、身体、そして音楽そのものによってなされる反抗だ。
「革命の子供たちは騙されない」という繰り返しには、60年代のカウンターカルチャーがある種の欺瞞に満ちていたことへの皮肉も込められている。ヒッピー運動の理想が消費文化に飲まれていくなかで、それでも“自分たちは違う”と宣言する姿勢が感じられる。
また、「bump and grind」「twist and shout」など、ダンスや快楽に関する語彙を多用しているのも特徴的だ。それは、身体の解放こそが精神の解放であり、社会からの自由の第一歩であるという、ボランの一貫した思想が反映されている。
T. Rexの曲としてはめずらしく、ファンタジーや抽象的な比喩を抑え、より直接的な語り口になっているが、それでも音楽としての“重力”はまったく損なわれていない。むしろそのシンプルさが、ロックという表現形態の根源的な力=叫びと繰り返しを浮かび上がらせている。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- Suffragette City by David Bowie
反抗的な若者のエネルギーと、性的な自由を讃えたグラム・ロックの名曲。 - All the Young Dudes by Mott the Hoople
若者たちの存在を肯定し、ボウイが提供した歌詞に時代の焦燥と希望が混ざる。 - God Save the Queen by Sex Pistols
体制への怒りと破壊願望が、真正面から音楽になったパンクの原点。 - Get It On by T. Rex
革命の静かな序章。快楽主義と自己神話の始まりを描いたT. Rexの代表曲。
6. “政治ではなくスタイルで変革する”という思想
「Children of the Revolution」は、いわばスタイルによるレボリューション=グラム・ロックの精神そのものを凝縮した一曲である。ここでボランは、過去の理想主義的な運動や、権威に対するステレオタイプな反抗ではなく、より感覚的で即興的な美的革命を訴えている。
“君は俺を騙せない”というフレーズは、単に欺瞞に気づいたというだけでなく、“自分の世界は自分で作る”という主体的な宣言でもある。それはまさに、ファッション、音楽、そして性と美の自由を武器にしたグラム世代の哲学そのものであった。
T. Rexの楽曲には、しばしば現実からの浮遊や神秘性が漂うが、「Children of the Revolution」にはその一方で、地に足のついた社会的な手触りと、今ここで声を上げることの力強さがある。
だからこそこの曲は、今なおCMや映画、ライブで引用されるたびに、聴く者の中に**“誰にも従わない、でも誰とも断絶しない”自由な存在**を呼び覚ます。それが“革命の子供たち”の本質であり、ボランが遺したもっとも普遍的なメッセージなのだ。
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