1. 歌詞の概要
「Cherokee」は1986年のアルバム『The Final Countdown』に収録され、同年シングルとしてもリリースされた楽曲である。タイトル通り、アメリカ先住民族チェロキー族の悲劇を題材にした歌で、単なるラブソングやパワーバラードとは異なり、歴史的テーマを扱った異色の作品として知られている。
歌詞では「チェロキー、山へと追いやられ、家を失い、川を渡っていった」という表現で、19世紀アメリカ合衆国の強制移住政策「涙の道（Trail of Tears）」を想起させる出来事が描かれている。これはアメリカ政府による先住民迫害の象徴的な出来事であり、ヨーロッパの視点からその悲劇を歌にした点に独自性がある。
サウンドは当時のヨーロッパらしいメロディアスなハードロックで、キーボードの広がりとギターリフが融合し、壮大さと切なさを同時に表現している。
2. 歌詞のバックグラウンド
「Cherokee」はボーカルのジョーイ・テンペストによって書かれた。彼はアメリカの歴史に興味を持っており、特に先住民が辿った悲劇に強いインスピレーションを受け、この曲を制作したとされる。1980年代の北欧ハードロック・バンドが、アメリカ史を題材にした楽曲を発表することは珍しく、当時のヨーロッパの国際的な視点を示す作品とも言える。
シングルはスウェーデンやヨーロッパ諸国でヒットしたものの、アメリカではそこまで大きな成功を収めなかった。しかし『The Final Countdown』の収録曲としては、タイトル曲や「Carrie」と並び高い評価を得ており、アルバム全体の多様性を示す楽曲となった。
ミュージック・ビデオはスペインで撮影され、エキゾチックな映像美と歴史的イメージが融合している。映像の中で「異国的な先住民像」がややステレオタイプ的に描かれている点は後年批判も受けたが、1980年代的なポップカルチャーの表現として興味深い。
3. 歌詞の抜粋と和訳
引用元：Genius
“Cherokee, marching on the trail of tears”
「チェロキーよ、涙の道を行進している」
“Cherokee, dream of the promised land”
「チェロキーよ、約束の地を夢見ている」
“They were driven hard across the plains
And walked for many moons”
「彼らは大平原を無理やり追いやられ
幾多の月日を歩いた」
“And in the early morning rain
They gathered to the sound of drums”
「朝の雨の中
彼らは太鼓の響きに合わせて集った」
シンプルだが強烈なイメージが、民族の苦難を伝えている。
4. 歌詞の考察
「Cherokee」は80年代のメロディアス・ハードロックの枠を超え、歴史的悲劇をテーマにした異色のナンバーである。ヨーロッパはスウェーデン出身のバンドでありながら、アメリカの先住民族の物語を題材にした。その外部からの視点が、逆に普遍的な人類史の悲劇としてこのテーマを描き出しているとも言える。
「涙の道」と呼ばれる強制移住は、先住民族の尊厳と生活を根こそぎ奪った出来事であり、歌詞にはその痛みが簡潔に表現されている。単に歴史的事件を叙述するのではなく、「夢」や「約束の地」といった象徴的な言葉を用いて、民族の希望と喪失感を同時に描いている点に詩的な力がある。
ただし、当時のMTV世代向けに作られたビジュアルや表現は、今日的な視点では単純化された「エキゾチシズム」として見える部分もある。その意味では「Cherokee」は1980年代のポップカルチャーと社会意識の交差点に位置する楽曲といえるだろう。
（歌詞引用元：Genius Lyrics / © Original Writers）
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- The Final Countdown by Europe
同アルバム収録の代表曲で、壮大なテーマ性を共有している。 - Carrie by Europe
ヨーロッパの叙情的な側面を強く示すパワーバラード。 - Run to the Hills by Iron Maiden
ネイティブアメリカンと入植者の対立を題材にした楽曲で、テーマ的に共通する。 - Indians by Anthrax
同じく先住民問題を扱ったメタルの名曲。 - Dream On by Aerosmith
歴史や運命の重さを歌い上げるロック・バラード。
6. 異色作としての意義
「Cherokee」は、ヨーロッパの作品の中でも特にメッセージ性の強い一曲である。彼らは単なる恋愛や日常を歌うだけでなく、歴史的悲劇を題材にすることで、ハードロックに社会的な深みを与えた。
結果としてこの曲は、1980年代ハードロックの中で異彩を放つ存在となり、ヨーロッパの音楽的幅広さを証明する楽曲となった。「Cherokee」は、時代を超えて「歴史を忘れないための音楽」としての価値を持ち続けているのである。
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