1. 歌詞の概要
「Certainty」は、イギリスのサイケデリック・ロックバンド、Templesが2016年にリリースしたセカンド・アルバム『Volcano』(2017年)の先行シングルであり、バンドのサウンドの変化と進化を象徴する作品である。タイトルの「Certainty(確信)」とは裏腹に、歌詞は不確実な愛情、感情の移ろい、そして知覚と現実の曖昧さをめぐって展開していく。
歌詞の中心にあるのは、「確信を求めているのに、それが得られない」という感情だ。愛する人の言動や存在に対して、信じたい気持ちと疑いの心が交差する。幻想と現実の境界が揺らぎ、自分の心が何を感じているのかさえ定かでなくなっていく。主人公は「確信」という概念を強く欲しながらも、それが手に入らない焦燥と向き合っている。
「Certainty」は恋愛の歌でもあり、同時に、自己のアイデンティティや感情に関する深い問いかけを含んだ哲学的な作品でもある。その意味で、この曲はサイケデリック・ロックの伝統を受け継ぎながら、より内省的でモダンなテーマに踏み込んだ一曲となっている。
2. 歌詞のバックグラウンド
Templesは2014年のデビューアルバム『Sun Structures』で、60年代のレトロなサイケデリック・ロックを現代的に再構成したスタイルで高い評価を得たが、「Certainty」が収録されたセカンド・アルバム『Volcano』では、よりエレクトロニックな要素を取り入れた新たな音作りに挑戦している。
「Certainty」はその新機軸を最も象徴する楽曲であり、アナログ的だった前作の音像に比べ、シンセサイザーが前面に出ており、リズムも機械的でタイト。にもかかわらず、ボーカルやコード進行には依然として幻想的でドリーミーな雰囲気が漂い、Templesらしさを損なうことなく進化を遂げている。
バンドの中心人物であるジェームズ・バッグショーは、この曲について「夢の中のように思考がぐるぐると渦を巻く感覚を音楽で表現した」と語っており、歌詞とサウンドの両面で“知覚のゆらぎ”をテーマとしている。
3. 歌詞の抜粋と和訳
以下に、「Certainty」の中から象徴的なリリックを抜粋し、日本語訳を添えて紹介する。
引用元:Genius Lyrics – Certainty
“How do you know, just where you’re going?”
君はどうして、自分がどこへ向かっているのか分かるんだい?
“When you don’t begin to see the signs?”
何の兆しも見えていないのに?
“I’m not sure what this is for”
これが何のためのものなのか、自分でもよく分からない。
“But that’s the meaning I’m looking for”
でも、まさにそれが僕が探している意味なんだ。
“Certainty, I need certainty”
確信が欲しい、確かなものが。
“Just let me know that you’re here for me”
君が僕のためにいてくれると、ただそれだけを教えてほしい。
このように、歌詞の中では“分からない”という状態自体が、むしろ自分にとって意味を持つという逆説的な認識が描かれている。人は常に「確かさ」を求めるが、それが手に入らない不安と、そこに潜む美しさを受け入れようとする姿勢が読み取れる。
4. 歌詞の考察
「Certainty」の歌詞は、恋愛における“確信”への渇望を軸にしながらも、その先にある深い哲学的な問いへと発展していく。私たちは他者の気持ちを完全に理解することはできず、たとえ愛し合っていても、その心の全容を知ることはできない。それでも、人は「あなたは私のためにここにいてくれる」というシンプルな“確かさ”を求めずにはいられない。
この曲では、「理解したい」「つながりたい」という思いが強いがゆえに、かえってその不確かさが浮き彫りになり、愛することの不安定さと美しさが同時に描かれる。確信とは、事実ではなく、信じたいと願う感情から生まれる幻想なのかもしれない。その幻想を求めること自体が、人間らしい営みであるという視点が、繊細に織り込まれている。
また、「I’m not sure what this is for」というフレーズに象徴されるように、意味が曖昧なままでも人は動き続けるし、関係は続いていく。確かでないからこそ、そこに愛も存在する――そんな逆説的な命題を、この曲は穏やかに提示している。
5. この曲が好きな人におすすめの曲
- “Let It Happen” by Tame Impala
変化と不確実性をテーマにしたサイケデリック・ポップ。音楽的にも近しい。 - “Someone New” by Hozier
恋愛における曖昧な感情や葛藤を描いた楽曲で、「Certainty」と同様に感情の微細なゆらぎを扱っている。 - “Midnight City” by M83
シンセサウンドと幻想的な世界観が共通し、ノスタルジアと不確かさを同時に表現する一曲。 - “Apocalypse Dreams” by Tame Impala
現実と幻想の狭間で漂うような感覚が、「Certainty」の知覚的な混乱と似た空気を持っている。 - “Sleepwalker” by Moon Taxi
眠りと覚醒の間で浮遊するようなテーマ性が共通し、音像的にも親和性が高い。
6. エレクトロとサイケの融合:Templesの新章を告げる曲
「Certainty」は、Templesにとって“サイケデリック・ロックバンド”という枠を超えて、新たなサウンドアプローチを試みた転機となる楽曲だった。セカンド・アルバム『Volcano』全体に通じるシンセ主導のプロダクションは、彼らの音楽性の深化を象徴しており、その筆頭に位置するのがこの曲である。
彼らは単なる60年代リバイバルではなく、幻想と現実のあわいを探求するアーティストとして、自らの表現を常に進化させてきた。「Certainty」は、サウンド・リスナーにとっては洗練されたポップソングとして、またリリック・リスナーにとっては感情の不安定さを丁寧に描いた詩として、多面的な魅力を持つ。
Templesはこの曲を通じて、“不確実さ”を恐れず、それをアートとして昇華するという挑戦を果たしている。そしてそれこそが、ポップミュージックが持ちうる最も深い力のひとつである。
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